第11話 ペットショップで九尾なのじゃ
休日の俺の密やかな楽しみ。
それはアパート近くのショッピングモール。
その中にあるペットショップに小動物を眺めに行くことだ。
ハムスター。
フェレット。
ハリネズミ。
あぁ愛おしい。
こういう、こまい、ちょこちょことした生き物を見ていると癒される。
酷い派遣先に当たって荒んでしまった俺の心が潤っていくのを感じる。
「あぁ、よごれたたましいが、じょうかされる――」
「ハムスター眺めて何をとろけた顔しとるのじゃ。気持ち悪いのじゃ」
どうしてお前がここに居るのじゃ。
ここはペットショップのど真ん中。
ハムスターがケージの中を自由に走り回るハムハム村の前。
ハムハム村の中を自由に駆け巡るハムスターを眺めて現実逃避をしていた俺は、聞き覚えのある声に急に現実に引き戻された。
ペットショップのロゴが入った青エプロン。
黄色い髪の毛を後ろでまとめて眼鏡をかけた狐耳女がそこには立っていた。
「なんだ狐か。最近良く見るからありがたみがないな」
「一気に心が汚れおったのじゃ、こいつ」
「その汚れを今落としている最中だったんじゃねえかよ。邪魔すんなよ」
「というか、やめるのじゃ。いい大人がみっともない」
「んだよいいだろ、俺だって大事なお客様だろう」
「お主みたいないい大人が突っ立ってたら、お子様が近寄り難くなるのじゃ」
「えぇ――ペット眺めて悦に入る権利くらい、大人にもあっていいだろう」
とはいえ、流石に正論か。
言われて振り返ってみると、おっかなびっくり、ハムスターを眺めたいという感じに、俺の背後に立っている少年と少女に目が合った。
どこぞの狐娘のように大人げないのはよくない。
俺はすぐにケージの前からどくと、隣のペットフードコーナーに移動した。
と、そんな俺に何故だかついてくる、狐娘。
「なんじゃ、お主、ちょっとはいいところあるのじゃの」
「うっさいボケ。ついてくんな、このアホギツネ」
「なんなのじゃその言いぐさは!!」
「ついてきても餌はやらんぞ」
「要らないのじゃ!! やっぱりお主、最低なのじゃ!!」
ついぞ俺はそんな憎まれ口を叩いた。
しかたない、褒められるのはあまり馴れてないのだ。
まぁ、こんな奴によく言われても、少しも――爪先ほども心は浮かれないが。
「だいたい、ペットフードは味気なくって嫌いなのじゃ!!」
「え、お前、食ったことあんのかよ」
ずん、と、重い顔をして、視線を床へと落とすオキツネ娘。
「廃棄、廃棄のペットフードがあったから。
「そ、そうなのか……」
随分苦労してんだな。
能天気に見えてこいつ。
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