第9話 安眠枕で九尾なのじゃ

「二十四時間働く社畜にとって必要なのが、このいつでも眠れるモフ枕」


「寝る間もなく働いている人間に寝ろとはこれいかに」


 やってきた。

 ついにやってきた。


 このアホ狐が、ついに俺の家までやって来た。

 しかもビジネススーツに、黒いカバンまで持ってやって来たのだ。


 なにしになんて決まっている。

 こんな「ホーッホッホ」と「ドーン」が似合う格好、セールスマンを置いて他にないじゃないか。


「ついにお前、落ちるところまで落ちたか」


「なんなのじゃ!! 人をそんな詐欺師か何かみたいに!!」


「いや訪問販売員なんて、今日日ほぼほぼ見かけないっての」


わらわはちゃんと、人様の生活を豊かにする商品を売っている、優良訪問販売員なのじゃ!!」


「そうよな。あたしゃあんたらを騙して甘い蜜すする悪徳訪問販売員です、なんて、名乗るやつはいないよな」


「のじゃぁ、信じて欲しいのじゃ。ほれ、この枕、寝心地抜群なのじゃ、疲れも吹っ飛ぶのじゃ」


 どうだか、と、俺は差し出された枕を見る。


 見た目は普通の枕だ。

 ただ触ってみると、ちょっと枕にしては感じたことのない感覚が手の中に広がる。


 なんだろう、そばがらでないのは分かる。

 ただ、羽毛にしては妙に堅い。


「なんだこれ、中に何が入ってるんだ?」


「ほっほっほ。決まっておろう、それはケモい属性の、ケモケモ社会人に送る、最高の眠りとケモ味を提供するケモ枕。中に入っているのは、わらわの尻尾の抜け毛」


「そぉい」


 俺は扉の隙間から枕を投げ捨てた。

 のじゃ、と、驚きの表情をして、それを見送るアホギツネ。


「なにするのじゃ!! ひどいのじゃ!! せっかく一年かけて造ったのに!!」


「ケモいケモくないの前に、ケモノ臭くて寝られるかあんなもん!!」


「ひどいのじゃ、わらわ、臭くないのじゃ!!」

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