第3話 デリバリー油揚げで九尾なのじゃ

 やっとやって来た休日。

 ホリデー、サタデー、サンデー、マンデーもだったらうれしいな。

 とにかく久しぶりの休みに、俺のこころは踊っていた。

 が、体はベッドに沈んでいた。


 プログラマーは過酷な仕事である。

 そんな仕事をしていると、休みの日には何もしたくなくなるもの。


 西日が差し込む部屋の中。

 布団をかぶって海外ドラマを眺めつつ、ボケっとしていた俺は、ぐぅと腹の鳴る音で、そういえば今朝から何も食べていないことに気がついた。


「つっても、今日はもうどこにも出たくないしな」


 店屋物でも頼もうかしら。


 ふと、床に落ちていたピザ屋のチラシが目に付いて、俺は手に取る。

 たまには野菜を採るのもいいかもしれないな。それに、ピザとコーラは、プログラマーの食べ物と、国際的に決まっている。


 すぐに俺は宅配注文の電話をかけた。


「お電話ありがとうございますなのじゃ。キュビノピザなのじゃ」


 はて、そんな名前のピザ屋あっただろうか。聞かない名前だな。


 しかしこの声には――。

 なんだろう、なんだか聞き覚えが。


「お主も運がよいの。ただいま開店セール中じゃ」


「へぇ、そりゃまたなんともラッキーだな」


「今なら、なな、なんと、一枚頼むと二枚ついてくるのじゃ」


「いや、ピザなんて二枚あっても食いきれないぞ」


「油揚げが!!」


「なおいらねえよ!!」


 見える。見えるぞ、ララァ、私にも見える。


 受話器の向こうでにへにへと、笑っている黄色い髪の女の姿が。

 そうだこの声色に、特徴的な喋り方間違いない。


 間違いなく俺の応対をしているのは――加代とかいう、黄色い髪のお気楽女だ。


 アイツ。今度はピザ屋に転職したのか。

 器用なやっちゃな。


「なんでじゃ。油揚げおいしいのじゃ。ピザなんかよりよっぽどヘルシーなのじゃ」


「健康気にしてたらピザなんか頼まねえよ!!」


「今なら油揚げの中に素飯が入った、素飯ロールが追加料金なしで!!」


「ただのおいなりさんだろそれ!!」


「さらにガリのトッピングもし放題」


「だからおいなりさんだろそれ!!」


 むすぅ、と、受話器の向こうからも不満な空気が伝わってくる。

 いやむしろ、そういう空気を出したいのは、こっちなんですがね、と、言ってやりたくなるのをこらえて、いると――。


「なんじゃさっきから、いちいちいちいち文句ばっかり言いおって!! いったいお主は何が食べたいんじゃ!!」


 堪忍袋の緒が切れたという感じで、のじゃのじゃ娘が声を荒げた。


「ピザだよ!! ピザ!! ピザ食わせろよ!!」


 こりゃまた、あれだな、この娘、クビになるんだろうなぁ。

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