第34話 平和な日常業務?

 高崎くんに指輪を納品して、次の日には反響があった。

 職場の女性たちに自慢して回ったのだろう、ツイッターを介してその反応が伺えた。

 彼の指輪は、平たい少し太めのチューブ状態のリング。

 その円周上には、サーフボードとイルカ、オートバイ、テニスラケットとボールなどが刻み込まれている、彼の趣味を封じ込めたリングなのだ。

 SNSにも写真を上げてくれたようで、こちらの反応もある。

 本人も喜んでいるようで、売った私としても凄く嬉しかった。


 ネットショップのアクセス数はグンと伸び、その日のうちに7つのリングと1つの髪飾りが売れたのだった。

 特注リングはやり取りに手間が掛かるため、週1個の限定としたのだが、その枠も埋まってしまった。


 それからもアクセスと売上は伸び続け、ネットショップは軌道に乗り始めたのだった。

 私がツイッターでつぶやいた時とは、すごい違いだ。


 私がパソコンに向かって、ネットショップの更新と注文メールの対応をしている横で、与三郎さんはアクセサリーの第二陣の撮影をしていた。

 与三郎さんは私より写真が上手かったので、撮影は任せることにしたのだ。


「与一郎さん~、私友達すくないのかなぁ。わたしがつぶやいた時の反応と違いすぎるんだけどぉ」


「まぁ、口コミとそういう物です。

売ろうとする意志が見え隠れしていると、それは広告と変わりませんから。

単純に、良いもの手に入れて嬉しいとか楽しいと言うツイートの方が反応もし易いでしょう」


「そぅ?、私が会社で嫌われていたとかじゃなくて?」


「それは判りかねますなぁ」

 

 突き放されたので私は振り返り、両方の人差し指を突き合わせながら言うのだ。


「そこは…フォローが欲しかった」


「う…ふふふふふふっ。笑わせんで下さい、写真がブレます」


 私が気にしているのにも理由があった。

 ツイッターでやたらと絡んでくる『Yumi』と言うアカウントがあったからだ。

 少々刺激的に、攻撃的に…

 

 ネットをやっていれば不愉快な思いをすることもあるし、反論されたり攻撃される事がある事くらいは承知している。

 だが、『Yumi』の反応は、なんというか投稿内容にではなく、私個人に向いている気がするのだ。

 私という人格を否定し、怒りをもって反論する、そんな人物に心当たりは無かったし、気持ちが悪い。


 リンリンリン

 

 鈴の音が鳴る。

 私はノートパソコンを閉じると、異世界への出荷作業を始めるのだった。

 今日は、コピー用紙3箱とマジック1箱だったか。

 最近は、コピー用紙の出荷も筆記用具も、店舗の補充分のみとなり落ち着いている。


 コンテナで荷物を下ろし、引き上げていると、ワイヤーにズッシリと荷が乗った感触。

 なにか異世界からの荷物があったのかと、ワクワクしながら引き上げていると、ワイヤーが揺さぶられて電動ウインチがギシギシと軋んだ。

 

「あちゃぁ、なにか引っかかったかも」


「下に様子を尋ねてみては?」


「うん、そうしてみます」


 いつもの様にタッパに手紙を入れ、釣り竿で下ろしていく。

 戻ってきた手紙には、震える字でこう買いてあった。


「今、コンテナに乗って空中にいます。

牧場がモンスターに襲われました。

急いであと5mほど上に上げて下さい」


 どどどどどーすんだ、野上さんの危機だよ。

 慌てる私をおいて、与三郎さんは慎重にウインチで5m分巻き上げた。

 いつも糸目の与三郎さんが、カッと目を見開き指示する。


「野上さんの安全を第一に、まずはワイヤーに体を固定する器具を。あと震える字は机が無いからです、バインダーに挟んで手紙を出しましょう。予備の筆記具も」


「はい!」


 与三郎さんはカラビナとロープで臨時の安全帯を作り、私はマジックの箱を引き裂き、新しいマジックとバインダーと紐で繋げ落とさないようにした物を作った。

 それらを釣り竿でゆっくり下ろすと、いつもより近い位置で受け取られた。


「待ちましょう、野上さんからの詳しい状況を」


 両手を組んで祈るように震えている私の肩を叩いて、与三郎さんは励ましてくれた。

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