第33話 口コミ

 私は、ちょいと今日はペットボトルロケットの材料を買いに、ホームセンターに来ていた。

 王子様は大層ペットボトルロケットを気に入られ、モルト王国公式レギュレーションを作り、同一の材料から作る規定を作ってしまったので、最初に買ったこの店にわざわざ足を運んだのだ。


「おろ、先輩! 杉浦先輩!」


「おお、高崎くんか。久しぶりー。こんな所でサボリ?」


「違いますよ、ここの特売チラシの打ち合わせですよ」


 うちの元会社、印刷関係なんでチラシなども取り扱っていた。


「そうか、ご苦労」


「なんで先輩が偉そうに…」


 そこまで口ごもって、高崎くんが固まっている。


「どしたの?」


「先輩! その指輪っ!」


 おお、奴もわかる奴だったか!

 若いのに古い名作をも知っているとは、見上げた奴だ。


「そうなんだ、名作『カリオストロの城』でクラリスが付けていた婚約指輪のレプリカなんだ」


「レプ…リカ?」


「そうだよ、だってアニメだもん。本物なんてあるわけないじゃん」


 呆けている高崎くんに説明する。

 実物があると思っていたなんて可愛いやつだ。


「ああ、左手の薬指にしてるからてっきり…」


「まぁ、元が婚約指輪だしな。解る人にしか解らないプチコスプレってとこだよ」


「ビックリしましたよー、結婚したのかと思っちゃいました」


「ほう、君は私が結婚出来たらビックリするんだな。よろしい、その喧嘩買おうじゃないか」


 なんだ、左手の薬指に指輪付けているからビックリしていただけか、プチコスプレとか言って少し恥ずかしい。


「あっはっは、相変わらずですね。ところで商談も終わりましたし、お茶でもどうです?」


「んー、まぁいいか。行こう」


 そうして近くの喫茶店へと車二台で移動することになった。

 扉を開けると、カラコロンと鳴る懐かしい感じの店だった。


「僕はコーヒーホットで」


「じゃぁ、私はナポリタンとコーヒー、コーヒーは食後にホットで」


「食べるんですか?」


「もうすぐお昼だし」


「相変わらず自由ですねぇ」


「そうだ、君営業だよな。ネットショップのアクセスが伸びなくて、商品を見てもらう所まで行けないんだが、どうしたら良いと思う?

商品には自信があるから、見てもらえさえすれば売れると思うんだが」


「その指輪もですか?」


「デザインは違うけど、品質はこれと同等だよ」


 高崎くんは、私が差し出した左手を手にとって、指輪をじっと見つめている。


「緻密な細工で、仕上げも丁寧ですねぇ」


「そうなんだよ」


 元居た会社は、宝石店のカタログを印刷するので、高崎くんもその辺りの目は肥えているはずだ。


「でも、これのデザインは特注なんですよね?」


「うん、版権取らずに勝手に作っちゃったから、売れないんだけどね」


「じゃぁ、貴方のデザインしたアクセサリーを我が社が高い技術力で再現致します。

とか言って、他店と差別化を図るのはどうでしょう?」


「ほほう、それで?」


「オリジナルのアクセサリーなんて作ったら、みんな絶対ツイッターやSNSに上げるに決まってます。

そこからの口コミも期待できるかと思いますよ」


「なるほど、それを呼び水にしてサイトへのアクセスを増やすのかぁ。いいね、そのアイデア頂いた! ここの払いは奢るぞ」


「じゃぁ、オネェさん。僕にもナポリタンを」


 コヤツ追加しやがった…、まぁいいか。


「じゃ、僕がまず一つ注文しようかな」


「まだ食べるのか、高校球児か君は!」


「いえ、指輪。作って下さい。僕に」


「まいどありっ!」


 ちょっと嬉しくて涙腺がやばかった。

 売れたよ! 初めて商品が売れたよっ!

 まだ作ってもないけど。


「お待たせしました~、ナポリタンとホットコーヒーです」


 私の、ナポリタンが来たっ。


「おい、高崎くん」


「はい?」


「そろそろ左手を離してくれ、ナポリタンが食べられない」

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