第31話 奈々子の回答
「たっだいまー」
弾むような声を響かせ奈々子は帰ってきた。
「おかえりなさい、一体何を思いついたんですか?」
与三郎もまた、ワクワクが隠しきれない、と言った表情で奈々子を出迎える。
「へっへー、与三郎さんは仮想貴族として評価してもらいたいから、ちょっとまだ内緒なの」
「ほほぅ、勿体ぶりますな」
「だから、ちょっと作業で与三郎さんの部屋を借りたいんだけど…」
与三郎はポケットを弄り、自分の部屋の鍵を奈々子に渡した。
「ありがとう、少し留守番して待ってて下さいね」
もう暫くのお預けを食らった与三郎だが、まぁきっと奈々子さんの事だ、奇天烈な事を考えてるのだろうと期待を更に膨らませていた。
それから3時間、宅配便の荷物を受け取り異世界への出荷作業をしていると、奈々子は戻ってきて荷運びを手伝った。
そして言うのだ。
「異世界の方には2時間ほど留守にすると手紙を送ったので、ちょっと一緒に出かけましょう」
与三郎は奈々子の軽自動車に乗り、言われるままに河川敷沿いの駐車場へとやって来た。
「ここで良いので?」
「うん、あとほんの少し待ってて下さい。携帯で呼ぶので、そしたら河川敷に来て下さい」
「もう随分とお預けを喰らいましたからな、待ちましょうその時まで」
そして10分と経たぬうちに携帯が鳴り、コッチへ来てくれと奈々子は告げた。
与三郎は、車を降りて河川敷へと坂道を登る。
登りきると、奈々子が広い草原の真ん中に居た。
「与三郎さ~ん、しっかり見てて下さいね~」
そう言うと、奈々子の足元から物凄い勢いで真っ赤な円柱が飛び出した。
それは青い空を貫く、赤い矢のようだった。
与三郎は階段を降りると、奈々子の元に早足で駆けつけた。
「ビックリしました、これはペットボトルロケットと言う奴ですか?」
「うん、そう。ちょっと前に流行ったんだけど、これって作り方と水の分量とかで空気の量で飛距離が随分変わるの」
「これを貴族の遊びに?」
「そう、大の大人が夢中になってやっていたんだもの、貴族だろうときっと楽しいと思うんじゃないかな?」
「確かに、体力は関係しませんが、知識の方は?」
ロケットの飛距離はデザインにも左右される、空力や物理を知っていた方が有利になってしまうのではないか? そう与三郎は心配した。
「大丈夫、きっと向こうではこんなもの誰も知らないよ、だからスタートラインは同じ」
「なるほど、ようございます」
「さっそく、この試作品と材料を送ってビックリさせよう」
「おっと、その前に… もう少し飛ばして検証をするのは如何ですかな?」
「おっ、さっそく貴族様が食いついた。よし、どっちが遠くに飛ぶか競争しましょう」
2人は、傍目にはちっょと年齢の高い親子が、同心に帰って遊んでいる、そのように写っただろう。
子供に恵まれなかった与三郎は、亡き妻にもこんな楽しみを味あわせてやりたかった、そう心から思った。
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結果としてペットボトルロケットの飛距離競いは、モルト王国で流行りに流行った。
貴族は、試行錯誤を繰り返して同一の材料から、よく飛ぶロケットを作るのに腐心した。
材料は、規則として同一のものを使用する事となっていたので、数多くの材料が異世界へと出荷された。
「わたし、もう炭酸は一生分飲んだ気がする」
「奈々子さん、あと3本ですので、がっ頑張りましょう…」
それから暫くの間、2人は炭酸飲料を消費する作業に従事する事となったのだ。
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