第30話 ひらめき

 カチカチ、パシャコラ、カチカチカチ、パシャコラ。


 深夜のアパートの一室には、マウスをクリックする音と、一眼レフのカメラのシャッター音だけが響く。


「ニュニュッニュッニュ~ン、ニュッニュッ」


「おおっ、びっくりした。広告かよぅ」


 検索開始から早12時間、とうとう動画サイトにまで手を出して、王子様の求める遊びとやらを探している。


「お疲れでしょう、そろそろ明日にしては? 私の方もあら方撮影は終わりましたし」


 カメラのバッテリーを抜いて、充電器にセットしながら与三郎さんは言う。


「あはは、仕事中に思いつくままネットしてて、お疲れも何も無いですけどね」


「いえいえ、私の固い頭ではとうとう思いつきませんでしたからねぇ」


「その言い草だと、自分は諦めた! 私に任せる! って感じじゃないですかぁ」


「正直、難しいですよ。貴族の遊びで、向こうには無くて、電子機器を使わない直径36cmの穴から送れる機材で遊べる、体力も知識も影響しない遊びと言うのは」


「すいません、遅くまで。今日は上がって下さい。私はもう少し粘ってみます」


「まぁ、今日は遅刻しましたし、遅くなったのは構いませんが、お肌のためにも早く寝て下さいね」


「は~い」


 与三郎さんは最近お父さんみたいだ、いやむしろお母さんかも。

 私は一人の部屋でおもしろ動画とか見てたのだけど、だいたい電子機器が使われてるんだよなぁ。

 あと動物動画なごむ~。


 いかん、脱線しまくっている、風呂に入っていつでも寝れる準備だけはしておこう。

 本当に深夜になると、アパートでは隣に騒音がでるから風呂にも入りにくくなるからね。

 玄関に鍵かけて、キッチンで服を脱ぐ。

 うちは間取り上、脱衣所なんて無いからいつもこうだ。

 シャワーはうるさいので、蛇口から洗面器に湯を注ぎ、低い打点で湯をかぶる。


「シャンプーは、と」


 容器を逆さまにしてプッシュすると、出るはずのシャンプーは少なくなっていたのか、ブシュゥ~と音を立てて潰れた。

 

 !


 あ、ちょっと何かアイデアが降りてきた!

 忘れないうちにメモ取りたい!


 そこからの私は素早く風呂を済ませると、パソコンの前にドカッと座りググール検索を開始したのだった。


------

 翌朝。


「おはようございます、与三郎さん」


 いつも先に挨拶していた与三郎は、先手を取られてギョギョッって感じの顔で挨拶を返した。


「お、おはようございます、奈々子さん。今日は朝からハツラツとしてますな」


「ちょっと私、ホームセンター言ってきますので、ネットショップの更新と留守番、お願いします」


 自動車の鍵を手に、奈々子は軽い足取りで駐車場へと向かっていった。


「ああ、奈々子さん。ホームセンターはまだ開いて無いと思いますよ」


 ふと思いついて、慌てて静止しようとしたが、奈々子はすでに与三郎の声の届く距離には居なかった。


「いゃぁ、女性はいくつになっても嬉しい時はスキップするんですねぇ」


 予想外の動きをする奈々子に驚いた、しかしきっと良いアイデアが浮かんだのだろう、帰ってきてその作戦を聞くのが楽しみだ、与三郎はそう思っていた。


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