第29話 難問題
ピンポ~ン
「こんにちはー、山猫急便でーす」
「はいはいは~い、今開けますー」
私は慌ててスカートを装着して、玄関の扉を開ける。
関税騒ぎとケインマグダル商会の店舗開設が一段落し、油断した私はついつい朝寝坊をしてしまった。
どっさりとコピー用紙の箱が玄関に積まれる。
配送のお兄さんには、ここで良いんですか? と言われたが、異世界への穴を隠してない部屋まで運んでもらうわけにはいかなかった。
これで玄関には、体を横向きにしてギリギリ通れる程度の通り道しか残されていない。
コピー用紙の箱に紛れて、特徴的なロゴの入ったダンボール箱が一箱あった。
おおっ、あのアメィズンの箱はっ!
私はうず高く積まれたその一番上のダンボールに飛びつくと、正しい箱の開け方なんて無視して力づくでバリッっと開けた。
「キャーッ、きたきたっ」
中から出てきたのは、ネットショップで使う画像を撮るための一眼レフカメラ! それにマクロレンズ!
ここ数年で一番高い買い物、メコンのロゴが入った箱は丁寧に開け、まずはバッテリーの充電だ。
テンション上がる、いやもタギルと言ったほうが良いかもしれない。
高かった、しかしこれは… これは必要経費、必要経費なんだ。
「おはようございます。外まで奇声が聞こえてまいりましたが、どうかしましたか?」
同じく寝坊しちゃった与三郎さんが、開けっ放しの扉の向こうから話しかける。
「あはははっ。ちょっと高い買い物しちゃって、テンションが変になっちゃいまして」
「ほうほう。しかし、狭いですな。私にはここを通るのは無理のようですが」
「ごめんなさいねぇ、直ぐ運び込みますから」
私は、ズンと腰に来る重さのコピー用紙を、ずんずん部屋に運び込み通路を開ける。
「ぐっはぁ、重かった」
流石に20箱は重かったし、運び込んだ部屋は狭くなってしまった。
早めに異世界に送らないと、邪魔でしょうが無い。
「ほうほう、カメラですか。なるほど、これはテンションが上がりますな」
「わかりますぅ? いやぁ、ネットショップの画像撮すのにコンパクトカメラだとアクセサリーは辛くって」
「では、羊皮紙もそれで取り直して差し替えをしましょうか」
「いいですねぇ~」
「しかし、撮影スペースも無いですし、まずはコピー用紙を送りますかな」
「ちぇ、まぁまだバッテリーの充電もあるし、先に終わらせちゃうかぁ」
そこからは毎日の作業となっている、異世界への出荷作業が始まる。
商会の一号店には倉庫があるため、これから暫くは毎日大量のコピー用紙を送ることになる。
そして全てを送りきった戻り便で、ドワーフ作のアクセサリー第一弾が届いた。
なんてタイムリー! 被写体がやって来た!
箱には、同封された納品書と共に手紙も入っていた。
「おつかれさまです、野上です。
近況報告と共に、マークスからの伝言をしたためます。
ますは近況報告。
ケインマクダル商会の第一号店が無事開店し、商売も軌道に乗ったようです。
初期出荷はほぼ終わり、商人向けの出荷も落ち着いて行く事でしょう。
代わりにモルト王国でコピー用紙が採用され、直接出荷する事になりました。
少々値切られたようですが、今後はこちらの出荷が増えていく見通しです。
マークスも社長となり、自信をつけ精力的に営業を続けていますが、国外への出荷は関税の関係で値段の見直しが必要となるかもしれません。
マークスからの伝言は、と言うかお願いなのですが、王子からの依頼とあってお断り出来なかったものです。
と言うのも、私が昔この国にサッカーや野球と言ったスポーツを持ち込んだ関係で頼られてしまったのですが、新しい遊びを提供して欲しいとのご依頼なのです。
ここだけの話、王子は勉強もスポーツも苦手な御方でして、回りが明らかな手抜きをして勝たせてくれているのがご不満の様子。
体力や知識が結果に直接作用しない、それていて面白い遊びをご所望の様子です。
何かアイデアがありましたら、ご指南頂きたいと伝言してきました。
私的には、我が商会の名が王子はもちろん貴族達の中に浸透していくチャンスと考えています。
それでは、よろしくお願いします」
久々の長文だったが、難題を押し付けられた気がするぞ。
同じく手紙を読んだ与三郎さんも頭を捻っている。
「スポーツや遊びで、体力や知識がいらないものってありますかねぇ」
「どうでしょう、直ぐには思いつきませんなぁ」
「んー、ゴルフとか」
「あれはかなり頭を使いますし、何より簡単にはゴルフコース作れないと思いますよ」
「じゃぁ、テニス」
「メチャクチャ体力使いますな」
「貴族の遊びでってなぁ、ケンケンパじゃ怒られるだろうし」
「どうしますかなぁ、こんな時こそネットでは?」
「よし、検索してみます」
もう奈々子の頭の中は、一眼レフカメラもドワーフのアクセサリーも飛んで、王子の難題たけがグルグルと駆け巡っていた。
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