第28話 商会の長い一日 その3
さぁ、今日はケインマグダル商会にとって、正念場だ。
開店初日、配達もあるが配達が無いところでも、過去に取引があった所は挨拶回りをしなくてはいけない、と言われている。
2日目に行ったのではあそこはウチを後回しにしやがった、と言われてしまうからだ。
配達は2件、挨拶だけの所が5件、全て日没までに終わらせて帰らなければイケナイ。
まずは荷物を減らすため、配達から終わらせよう。
荷車にコピー用紙の入った箱を積み、おっ重い。
10箱も積むとそれはかなりの重量になる、荷車の木で出来たシャフトはたわんで弓のように反っている。
「アンジェくん、留守は頼んだよ。さてと、ぬがぁ~っ」
幸い一軒目はすぐ近く、そこで6箱下ろせる、ここは力ずくで行こう。
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なんとか配達2件、挨拶4件を終わらせた。
最後はドワーフの鍛冶屋商工会に向かう。
ココはうちとは、因縁浅からぬ場所だ。
最初の商材、ライターのライバルを作って、一時的に我が商会と異世界にあるディファレント貿易社を、危機に貶めたのだから。
しかし今はお互いの長所を活かして、取引先となった。
「この度は我が商会の店舗を王都に構える事が出来ました、ひとえに取引先の皆様のご支援の賜物と…」
「おー、兄ちゃん社長になったって? 出世したなぁ、で、これうちの新作ライターなんだけど見ていかねぇか?」
ドワーフはあけっぴろげで遠慮がない、僕の肩を抱いて鉄臭い工房にグイグイと連れ込んでいく。
「あはは、今日はご挨拶だけ…」
「なぁに、時間はとらせねーよ。なっ、どうだおたくのに比べちゃまだデケェが、随分小さくなったろ。それに油にも工夫して着火率もかなりのもんだ。これはな…」
これは、かなり時間食うパターンだ、やっぱりココは最後にして良かったと僕は思ったのだった。
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「つか、れた…」
ドワーフの自慢話を聞くのが、一番疲れた気がする。
でも、仕入先でもあるし無下には出来ない所なのだ。
日はとっぷりと暮れ、星が見え始めている。
今日は月が2つとも出ているので、明るいのが幸いだ。
「ただいまぁ~」
「おかえりなさい、お疲れ様でした~」
アンジェの笑顔と、差し出される水が僕を癒やす。
「何か変わったことは無かった?」
「大丈夫です。一般のお客さんはちゃんと全部断りましたし、卸値も口外してません。皆さんには、お取引先の商会を紹介しておきました」
「うん、よく出来てるみたいね」
「そう言えば、凄いんですよ」
「うん、どうしたの?」
「おっきな馬車で乗り付けて、直接取り引きがしたい、社長を出せの一点張りの人が居て、私が今配達に行ってるので無理です。商会の方以外には卸せませんって、何度も言ってやっと帰ってもらったんですよ」
「大変だったねぇ」
「一応、身分を示す物を置いていくって言って、この羊皮紙を置いていったんですけど」
「どれどれ~」
それはモルト王国財務大臣のサインと王国の封蝋がしてある手紙だった。
「王国の調達する羊皮紙をコピー用紙に変えたいらしいんですけど、ルールは守って貰わなくちゃですよねっ、社長」
「いやっ…これは…断っちゃ駄目、いや確かに断れって言ったけどさぁ」
兄ちゃん、僕頑張るよ、胃に穴が開くその日まで…
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