第27話 商会の長い一日 その2

「あっ、うん。僕が、いや私がケインマクダル商会の社長、マークス・マグダルです、だ。よろしくお願いします」


 僕はもっと兄と歳が近くて、眼光鋭い才女が来ると予想していたので、意表を突かれてしまった。


「あ、あの。女性に歳を尋ねるのは失礼とは思いますが…お歳はおいくつなんですか?」


 しまったー、思いっきり敬語で…これでは威厳もクソもない。


「あ~、私は今年で18になります」


「同い年か~い」


 アンジェは首を傾げてニッコリ笑う。


「うふふっ、教会ではやり手の社長さんって聞いてたから怖い人かと思ってたけど、楽しい人で良かったです」


 やっぱり舐められた…


「んんっ、ともかく我が商会は発足したばかりで、小売になんて手が出せる人手はありません。

ですので、暫くは卸しとして商いをしていきます。

僕が配達している間の、留守番と会計をアンジェさんにはお願いしたい。

…のですが、計算とかは出来ますよね?」


「わかりました~。るす番と、会計ですね」


「では、少しテストを500枚の紙束が2,000ミリアム、このマジックが1本70ミリアム、このボールペンが45ミリアムです。

さて、紙束2束、マジック16本、ボールペン20本でおいくらですか?」


「6020ミリアムです!」


「はやっ。チヨット待ってね。えーと、4000+1120+900で、繰り上がって… 正解!」


「えへへへへ、暗算は得意なんですよ~」


「凄いな、君」


 褒められて照れる教会一の才女。

 オカッパ頭で地味な服装だが、よく見れば黒髪はツヤツヤしてるし、よく笑うその仕草も可愛い。

 なおさら兄には近づけられないな。


「じゃ、留守番だけど、立地的に衛兵詰所が向かいにあるので、強盗とかは大丈夫だと思う。

あと、直接買いたいと言うお客さんが来るかもしれないけど、個人のお客様は全て断って下さい。

間違っても、卸値を教えたりしちゃ駄目だからね。

取引したいと言う商会が来たら、商会の名前と来た人の名前を書き留めておくこと、僕が後で営業にいきますから。

あと、引き取りのお客さんは、初めてだったら商品の説明をしてから引き渡して下さい。

でないと後で思わぬクレームになりますからね。

今のところで、質問は?」


「えとえと、あうあう」


 アンジェの、さっきまで照れて赤かった顔は、今は少し青ざめて見える。

 

「もしかして、説明分かりづらかった?」


「すいません~、途中から付いていけませんでしたぁ」


「ごめんね、もう一度ゆっくり言うね」


 それから、かなりゆっくりと説明して3度目に解ってもらった。


「では、商品の説明をします」


「はは、はいっ!」


~商品の説明中~


「アンジェさん、マジックの蓋はちゃんと閉めないと、使えなくなっちゃうからね。あとボールペンも使わない時は先を引っ込めて…」


「はいっ! キャーッキャップが転がってどっか行った~。社長~、ノックしたらボールペンが折れたんですけど…」


 これは手強い。

 うん、この子暗算は凄いけど、それ以外は普通かそれ以下だわ…

 でも、アンジェって子が大分解ってきた、暗算は凄いけど天然のドジで、多分教会でも使いあぐねてたのだろう。

 そうだ、笑顔が可愛くて素直な所は商売向きかな。


「もう、お昼すぎになっちゃったから昼ご飯にしよう。午後は僕は配達に行くから、留守番お願いね」


「はいっ、あっ私お弁当作ってきたので、ご一緒にいかがですか?」


「ありがとう、時間もないし少しだけ頂いたら出かけるよ」


「はい、どうぞ」


 皿に取り分けられ頂いたマッシュポテトと鶏肉には、味が付いてなかった。

 見ればアンジュは、それをモリモリと食べている…

 色々とこれから教えて行かなくちゃなぁ、色々と…

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