第11話 これが本当の第一歩

「では、まず会社を起こしましょう」


 進藤さんはそう言った。

 進藤さんとは、フリーマーケットでスカウトして来たおじいさん、進藤しんどう 与三郎よさぶろうさんのことである。


「え?、でもこんな方法で儲けたお金、税務署に説明できませんよ」


「それでもです、何もせずこのまま手広くやっても、いずれはボロが出ます。きちんと会社にして儲ける道筋を作って、たとえ事が露見しても果たすべき義務を果たしておけば、イキナリ行き詰まることも無いでしょう。私は幸い商社で買い付けをやっていた事もありますし、色々とツテがあります」


「ふむふむ、で具体的にはどんな」


「そうですね、海外から商品を仕入れてネットで売るネットショップを初めて、儲けは全てそこに計上しちゃいましょう」


「なるほど、ダミー会社を作るんですね」


「ダミーとは人聞きが悪いですが、ネットで世界中に発送するのも異世界に発送するのも似たようなもので」


 なるほど、ネットショップなら売った相手に発行した領収書なんて確認出来ないし、会社の口座が潤っても怪しまれにくいか。


「ほむほむ」


「あと、他のお店で買うより、儲かると解った物は直接仕入れたり、メーカーに依頼して作ってもらうほうが安くて済む。それには会社があったほうが都合がよろしい」


 今はおじいさんと言うより、老練なビジネスマンって感じに見える。


「なんだか、進藤さん目が輝いてますね」


「社長のおかげですよ。本当に私は、このまま朽ちていきたかった位なんです」


「社長! 私がですか?」


「当然です、貴方が事業を始め、私を誘って下さったのですら」


「そのぅ、社長は照れるのでせめて名前にしませんか?」


「ははっ、では奈々子さんでよろしいですかな?」


「あっ、はい」


 名前ってのは名字のつもりだったがまぁいいか…

 しかし、こんなに気さくに名前を呼んで受け入れられちゃう与三郎さんって、若い頃はモテてたんだろうな。

 よくみりゃダンディーで口もよく回るし機転は効きそうだし、初めて会った時のしょぼくれていた印象は吹き飛んでしまっている。


「それで、会社名は杉浦貿易とでもしますか?」


「名前は勘弁してください…う、えーと。じゃあ、Different world(ディフアレントワールド)貿易とか…」


「かしこまりました、それで参りましょう」


「うふっ、うふふふっ」


「いかがしましたか?」


「なんだか、与三郎さんの口調が執事みたいで」


「ははっ、確かに。明日からは背広ではなくタキシードで出社しますかな」


 

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