第10話 リクルート その2
私はさっきのお土産を売っている所まで来ると、懐中時計を売ってくれたおじいさんに心に、引っかかっていた事を聞いた。
「こんにちは、さっきの事でちょっとだけ気になったんだけど、聞いてもいいですか?」
「ああ、さっきのお嬢さん。なにかあったのかい?」
「お土産も懐中時計も、もう要らなくなったって言っていたけど、なぜですか?」
「あーうん、そうだね……。私の妻は亡くなってしまったんだ。だからもうお土産は要らなくなっちゃってね」
おじいさんが寂しそうな顔をするので、私は心苦しかったがそれでも思い切って聞いた。
「じゃあ、懐中時計は? これ使っていたのおじいさんでしょ?」
「ああ、うん」
「これを見た感じ、とても大切に使っていたのが解ったの。その、時計がもう要らないってのは…」
「うん、大丈夫だよ。ごめんね変な言い方して心配かけちゃったかな。君は優しい子だね」
「そんな、えっと…もしかしてだけど、死のうとか思ってないですよね」
「ハハッ、そんなことはないよ。でも、定年退職したら「俺の仕事場を見せてやる、一緒に船で世界一周しよう」って言ってたのになぁ。もう疲れちゃって、時間なんて気にするのさ…なんで待っててくれなかったのかなって…」
おじいさんは覇気もなくつぶやく。
ああ、なんとなく解ってしまった、解りたくなかったけど解ってしまった。
この人は、たとえ今直ぐ死ななくても今後は死んだような生き方をするんだと。
「おじいさん、私に雇われて仕事をして見ませんか?」
「ええっと、イキナリだねぇ」
おじいさんは、驚いて私の顔を真っ直ぐ見返した。
私は、ここぞと畳み掛ける。
「イキナリですいません。まだ軌道に乗って無くて、お給料もちゃんと払えるか微妙な所ですが、それでも是非手伝って頂きたいんです」
「まぁ、年金貰ってるから給料は安くてもいいけど、私はもう…」
「大丈夫です、やり甲斐はメチャクチャある仕事ですから。それに商社に勤められていた事が、きっと役に立ちます」
おじいさんはうつむいて、額をこしょこしょと掻いたあと、答えた。
「じゃあ、お話だけでも聞きましょう」
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