第9話 リクルート その1
前回の盗難に対策として、また別世界のパートナー野上さんの負担も考えて、商品を送るペースを少し遅くすることになった。
私も少しはしゃぎ過ぎていたトコロもっあったが、連日では少しペースが早すぎたようだ。
そんなこともあって、今日は休日なのだがやることがない。
そんな訳で暇だ、異世界に続く穴を見つけるまで私は休日何していたんだろう?
そう言えばブラウザーゲームなどをしていた気もするが、すっかりやらなくなった。
所詮ガチャのスリルなど、現金の掛かった勝負に比べればスリルも興奮も子供だましだったのだ。
そんな訳で、私は久し振りに予定のない休日を持て余し、近くの小学校でやっている地域のフリーマーケットに足を運んでいた。
フリーマーケットとは、不用品を持ち寄りそれを欲しい人に売るイベントだが、それだけに掘り出し物があるかもしれない。
私が会場の体育館に入ると、意外にも人がごった返していた。
そう言えば私も昔出品した事があったなぁ、などと感傷に浸りつつ狭い通路をぶらぶらと歩き、一回りしてきた。
出品された品々は、使わなくなったテニスラケットやスキー板、高いものではカメラ電化製品など様々だ。
その中でも被服類、特に子供服が沢山出品されていた。
値段も1円から2万円と強気なものまであったが、特に買う気もなく暇つぶしの散歩がてらだった私にはさして目を引く商品は無い。
飽きてきた私は、婦人会が出している露店でヤキソバでも食べて帰るうと思ったのだが、その道すがらにちょっと気になって一つの店の前で足を止めた。
「おじいさん、何だか凄い品揃えね。これは何?」
「いらっしゃい、これはパラオのお土産でストーリーボード、こっちはブラジルのお土産でマクラメのアクセサリー、こっちは北海道のお土産で木彫りの熊」
この店には節操無く世界各地のお土産が置いてあった。
「おじいさん商社に勤めてたからさ、世界各地に出張したんだよね。まぁ妻に買ったんだけど、もう要らなくなっちゃってね」
ああ、これ聞いたらアカン奴や、私は直感し店の品物を物色するフリをしておじいさんから目線を外した。
そこに見つけた。
金色の鈍い光を放つ滑らかな丸い物体、リューズを押すと蓋が90度の角度までパカッと開く懐中時計。
「それはロンドンで自分用に買った懐中時計、今時めずらしい完全機械式なんだよ」
その時計にはASKと書かれた紙が張ってあり、値段が分からない。
「おじいさん、これいくら?」
「いくらなら買うかい?」
私は財布の中身を確認すると少し考えて少し遠慮気味に答えた。
「…四千円くらいなら」
すると意外にもニッコリと笑いおじいさんは言った。
「OK、それでいいよ」
「えっと、本当にそれでいいの?」
「もう必要無くなっちゃったからね、良いんだよ。大事に使ってくれる人に譲りたいんだ」
私はお金を払うと、懐中時計を受け取り店を後にした。
その後は、婦人会の露店に行きヤキソバを買って校庭に出た。
花壇のブロックに腰掛けながら、ヤキソバを食べで一心地付いた私は、戦利品の懐中時計を取り出し眺めていた。
蓋の内側は金ピカなのに外側は鈍く美しく磨き上げられたつや消し。
それは実用品として使い続けられポケットの中で美しいつや消しになるまで大事に使い続けられた時計、そんな感じだった。
なぜだろう、違和感と共に私の心に浮かんできたのは「大きなのっぽの古時計」の歌だった。
私は、家には帰らずまた体育館へと入っていった。
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