第4章 -13

 どうして、そんなことを言うんだよ。僕は、有紀乃先輩やレイちゃん、禅先輩、それからついでに瑛先輩。みんな大事な仲間だと思っていたのに。そりゃあ妖精界からしたら、人間なんて泉の水を奪った悪者で、憎まれて当然で……だから、レイちゃんの言うことは最もかもしれないけど……


「だけど、忘れられるわけないよ!」


 思わず声を荒げてしまった。

 ずっと探していたのに。やっとまた会えたのに。


「だって、妖精のことなんて、人間はどうせ信じないでしょ? ひとりだけ覚えていたら、あなたが辛いだけじゃいの?」


 確かに、誰に聞いても「知らない」と言われる日々は辛かった。だけど、忘れる方がもっと辛かったんだよ。


「忘れない。辛いかもしれないけど、僕はにはもう、忘れられないよ。だって、レイちゃんにもまた会えたんだし。もう二度と会えなくならないように、ずっとくっついてるよ」


 レイちゃんは大きくため息をついた。


「あのねぇ……私は人間界のことをそれほどよく知らないけれど、女の子の部屋にずっといてもいいのかしら? 私、一応女子高生ってことになってるんだけど?」


 そう言って、レイちゃんはまっすぐに僕を見つめる。少しつり目がちの涼しげな瞳は怒っているようにも見えたけれど、でも怒りとは違う熱のようなものも感じていた。


「そ、そうだった。だ、ダメかな、やっぱり」

「知らない。私は人間じゃないから。だけど、有紀乃はどう思うのかしらね」


 レイちゃんは、今度は僕をからかうように微笑んだ。とても子供とは思えない、いや、妖精だから僕よりずっと年上なんだけど、すごく大人びたその表情にクラクラした。


「あ、あの、でも……レイちゃんと離れたら、今度こそ会えなくなっちゃいそうだから」

「消えないわよ、もう」

「で、でも……」


 そんなこと、どうやって証明するんだよ。僕にはもう、レイちゃんしか手がかりがないのに。


「仕方ないわね。証明してあげる。ちょっと待ってて」


 レイちゃんが制服のポケットからケータイを取り出し、どこかへ電話をかけた。なんとなく現代の機器には疎そうに見えていたけれど、なんの問題もなく使えているようだ。


「分かった。今から行くわ」


 電話を切ると、レイちゃんはまた僕を見つめた。


「行くわよ」

「え? ど、どこに?」

「私がもう消えたりしないっていう証明をするためよ。ほら、早く!」

「は、はい!」


 レイちゃんに急かされるように、僕は部屋を後にした。

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