第4章 -5

 プレミアム会員の仮登録が一階ロビーで行われることがアナウンスされると、ほとんどの人が会場をあとにして流れ出ていった。

 女王様はステージ上からお客さんたちを見送る。

 メディアも人波を追いかけるように去っていく。


 僕と瑛先輩はこっそりと、一人一人別々のテーブルクロスの中に隠れた。瑛先輩はうまいこと一番ステージに近いテーブルの下に潜る。僕はそのひとつ隣のテーブル下に入った。

 テーブルクロスに小さな穴を開け、会場をのぞく。視界は狭いけれど、なんとか女王様の姿を捉えることができた。

 数百人もの人々が去り、会場には数十名だけが残ったようだ。会場の片付け要員にしては、物々しげな人物が揃っていた。


「それでは、第二部といたしまして、緊急株主総会を始めます」


 さっきまでは女性が多く甲高い歓声が上がっていたけれど、今は九割近くが男性だ。それも日本人離れした屈強な体型の人たちが多い。だから、歓声も野太いものだった。


 物音でバレないようにケータイの電源を切ってしまったため、レイちゃんはおろか瑛先輩とも会話することが出来ない。テーブルクロスに隠れる直前に「この人たち、たぶんみんなオークよ」と言った瑛先輩の言葉が耳に残っていた。

 オークといえば、僕が無謀にも妖精王のお城に単身で乗り込もうとしたときに出会った恐ろしい妖精だ。あのときのことを思い出すと今でも身震いする。そして、あのとき僕を助けてくれたドワーフ隊長が、今は石になってしまったことも芋づる式に思い出してしまった。


 有紀乃先輩。

 今どこにいるんですか?

 この会場に、本当にいるんですか?


 レイちゃん。

 レイちゃんは今も、復讐を遂げようとしているの?

 どこかから、女王様を狙っているの?


 女王様はステージ上から満足げな様子で会場を見渡す。

 ごくり、と、僕の喉が勝手になった。

 すごく嫌な予感がする。


 女王様の笑顔が、スポットライトを浴びて怖いくらい美しく輝く。


「ではさっそく、謀反を起こした王女の裁判から行います!」


 会場は今までで最高の歓声が上がった。



***



 ステージの裏から現れたのは、予想通り有紀乃先輩だった。

 両手に鎖を巻かれ、戦いに疲れてすっかりやつれた顔をしていた。服もボロボロだ。よく見れば、最後に地下の妖精界で会った時に来ていた服じゃないか。

 妖精界の一日は地上の七日分だと言っていたけれど、たった二週間ほどでまるで別人のような姿になっていた。

 有紀乃先輩のことばかり気になっていたけど、手に巻かれた鎖を後ろで持っているのは禅先輩だ。

 本当に、レイちゃんが言っていた通り、禅先輩は女王様の僕となって働いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る