第3章 -3
だ、誰?! なんで僕の名前を知ってるの?
声に振り向くと、わりと明るい色の髪を無造作に結んで黒ぶちの眼鏡をかけた大人しそうな女性が立っていた。そんなに背が低そうではないけれど、背中を丸めて冬のようなモノトーンのワンピースを着ていたから気づかなかったのか。それにしても話し方が独特だ。
時代劇みたいな言葉づかいは役作りなんだろうか。ってことは、午後に屋上で催されるヒーローショーの役者さんかもしれない。だけど、役者さんの知り合いなんていないし。
「なにかお困りでしょうか?」
ともかく、失礼のないように気をつけないと。それに、また立ち止まっていたら迷子の人が集まってきてしまう。早くこの場を切り上げなくちゃ。なんて、内心焦っていたのがバレたのか、女性が大きな声を上げた。
「ややや! なんと、もしや貴殿は拙者を知らぬでござるか?」
知らないです! 自分のことを拙者なんて呼ぶ女の子がいたら絶対忘れない。忘れられるはずがない。でも、全然覚えてないんです。
「知らぬでござ……じゃなくて、すみません」
僕はひとまず謝る。ベーカリー・グリムで働き始めて、お客さんにはすぐ謝るのが最善の策だということを学んでいた。
「なんと! 至極遺憾。貴殿は拙者と一度会っているでござるよ」
本当だろうか。僕には本当にまったく記憶がないんだけど。服装は今風といえば今風だけど、もしかしてこの人、どこか別の時代から迷い込んで来たわけじゃないよね。御伽屋デパートの地下に異世界があるなら、多治見堂デパートの催事場にタイムリープ出来るワームホールがあってもおかしくないかもしれない。なんて、まさか。
僕がまたあらぬ空想をしながら戸惑っているのもお構いなく、目の前の女の子は話を続ける。
「先日行われた大学の新入生歓迎会の席に拙者も参加していたのでござる。それに、御伽屋のデパ地下でも同じフロアのある意味同僚として働いているのでござるよ」
新歓のとき、確かに有紀乃先輩以外の女性もいたはずだ。しかも御伽屋のデパ地下で働いている人……
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