第13話 アナタと私の関係

「おめ~……卑怯だ。ザルなんて聞いてなかったぞ」


土曜の夜の飲み比べでの恨み言を月曜の就業前に漏らす長谷山先輩。


私はあしらうように言った。


「あら、体調によるのですよ。この間はベストコンディションだったみたいですね~。先輩が潰れた後もガンガン飲みましたけど、全然酔えなくて!」


私の言葉に長谷山先輩は歯軋りをして悔しがる。


「酔い潰されてお持ち帰りとか、されてみたいもんですね~。おほほ」


「くっ、やっぱり可愛げねぇっ」


負け惜しみを言う長谷山先輩に加勢するように一之瀬は言う。


「そうだぞ!だからお前は可愛げないとか言われるんだ!」


私を指差し言う一之瀬に私は反論する。


「黙れ唐変木とうへんぼく!あんた企画会議で出した案、全部ボツになって涙目で私に泣きついてきた分際でよくそんな事が言えるわね、この恩知らずの恥知らず!そもそも全部ボツとか……」


延々と続く私の言葉に一之瀬、涙目。


女子社員の音のない拍手が視界の隅で見えた。


就業前の雑談でこんなに喋ったの初めてかも。


そんなこんなで長谷山先輩とのお付き合いを正式にお断りしました。



……いつまでも、健人健人って言ってられない。


そのうち、健人に負けないくらい素敵な人を見つける。


その為に自分を磨く。


好きな人と不釣合いの自分じゃ苦しいから。


自分には仕事だけ!そんなの寂しいから。



今日は月曜日、なのに残業。


一之瀬のバカの尻拭い。だというのに、あのバカ「お腹が痛い」とか言って、いの一番で帰って行った。


……かえってあいつがいない方がはかどるんだけど。


残業をサクッと終えて、マグカップを給湯室で洗い終えた私は、視界の隅に人の気配を感じた。


「あっ、お疲れ様で」


最後の一文字を言い終える前に私は固まった。


給湯室の入り口に健人が立っている。


ボサボサのだらしない髪型で、ただ眼鏡を外しただけの黛くん。


でも、彼が会社で眼鏡を外したとこなんて見たことなかった。


彼の脇を潜り抜けて行こうとした私は易々と健人に捕まり、給湯室の壁に押さえつけられた。


「俺のこと好きとかメールして来たくせに、最近、随分長谷山と仲良いね?妬けんだけど」


メール、返事来ないから拒否されてると思ってた。


メール、ちゃんと届いててちゃんと読まれてた……急に恥ずかしくなって私は健人の腕の中で暴れた。


本気で抵抗してるのに、全然歯が立たなかった。


「誰かに見られたらどうするの!?」


「見たい奴には見せときゃいいじゃん。言えよ、俺のこと好きだって、ちゃんとその口で」


怖い顔ででそう言う健人が理解できなかった。


会社では親しげにしちゃダメって、妬いちゃダメだって言ったのは健人でしょ?


さよならって一方的に言って、私の連絡を一切無視したのも健人だよ?


急にこんなの、勝手すぎるよ。


だけど……こんな風に健人と話なんか出来ないと思ってた。だから……嬉しかった。


私は観念したように呟く。


「好きなのよ……健人が好きなの」


惚れちゃダメだなんて、そんな残酷なルール守れないよ!


泣き出した私を健人は優しく抱きしめた。


私の涙を優しく拭って、健人と唇を重ねる。


この唇が、欲しかったの。


やっぱり、健人がいい。


健人じゃなきゃ、嫌だよ……。


健人が他の子を抱いてても、それでも私は健人じゃなきゃ、嫌だ。



ホテルの部屋に着くとドアが閉まるまで待ちきれず唇を交わす。


以前まえより濃厚で、以前まえより熱く健人の愛撫が繰り返されて、気が触

れそうになる。


好きだという気持ちが暴走して、もっと健人の熱を欲しがる。


私、淫らだ。


甘い声が漏れるのもいとわない。


恥ずかしいのに、恥じらいながら「もっと」と強請ねだる。


「好き」と言う言葉を繰り返し、健人に絡みつき、私の中の熱がぜた……。



燃え尽きて、指を絡ませる健人に私は言う。


「私、ルール違反だね」


「ん?あー、セフレの話?ごめんね。その話はウソ」


重い溜息をついて健人は観念したように言った。


「だって、ああでも言わなきゃ麻衣子、これ以上あなたに迷惑かけられないとか言い出しそうな雰囲気だったじゃん?」


「ええっ?」


私は驚いてベッドから起き上がり、記憶を巡らした。


「だってこの間、すごい可愛い子と腕組んで歩いてたじゃない」


「あー。あれ、妹」


にわかに信じ難い話に私は黙るしかない。


「まぁそれは麻衣子をウチに招待すれば秒で解決するよ」


健人はゆっくり上体を起こした。


「ウソついてでも、ホントに欲しかったんだよね。麻衣子の初めて」


掲示板で「腐りかけの処女イラネー」とかボロッカスに言われた処女を欲しがるなんて、今更だけどこの人って相当な物好きだと思う。


ウチに招待っていうのだって、きっと大して深く考えてないんだよ?きっと。


「セフレって関係にしとけばロストバージンが済んでも、麻衣子が長谷山先輩と上手く行くまでは関係を続けられるし。って、ズルイ考えも浮かんだ」


ルールもあの時の思い付きで言ったのかな?


そのせいで「好きになっちゃいけない」って一生懸命葛藤したっていうのに……。


恨み言の一つでも言ってやりたかったけど、力が抜けちゃって怒る気力もなくて、私は苦笑いを浮かべた。


健人は勢い良く私に向き直った。


「白状します、入社当時から好きでした!でも、俺なんか不釣合いだって思って、麻衣子のこと見てるだけで精一杯だった」


不釣合い?健人が、私に?いやいや逆でしょ!


……っていうか、本当に私?誰かと間違えてない!?


「麻衣子が掲示板でとんでもない書き込みした時、本気で焦ったけどチャンスだと思った。今しかない!って」


真剣な様子の健人とは対照的に私は開いた口が塞がらない。


「ウソついてごめんなさい!でも、セフレの話以外は全部ホントなんだ!」


「……」


「俺と、結婚を前提に付き合ってください!」


ベッドの上で全裸で土下座のような体勢の健人に、私は思わず吹き出す。


「うーん、はい。でもプロポーズは別の場所で改めてお願いします」


私は笑いながら健人に言った。


健人は私に飛びつくと二人でベッドに倒れる。


チュッと短いキスをして、私は意地悪く健人に言った。


「もう、セフレじゃないね?」


健人は強く唇を押し付けて「俺は最初から好きだったよ」って言いながら、私の首筋に唇を這わせた。



カラダから始まる恋なんて不純!なーんて、前の私なら言ってたかも。


ごめん、あの頃の私。……そんな事言ってるからその歳まで処女なんだよ。


始まりが不純だろうとなんだろうと、結果的に好きな人と幸せになれたらそれで良いでしょ?


年下王子様と私の関係は、甘くとろける関係です❤

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disparity ~アナタと私の関係~ hyo- @aoi-takizawa

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