第12話 不釣合い

会社で会うと普段通り……。


元々、仲が良いわけでもなかったし。


だから普段通りなのか、避けられてるのかは正直解らなかった。


でも、メールも電話も拒否されてるのか返事はなかった。


長谷山先輩への恋心は完全に消えているのだと自覚した。


あれから、寝ても覚めても健人の事ばかり考えてしまっている。


健人は私の事なんてセフレのうちの一人としてしか思ってない。


だから簡単にさよならされちゃったんだ。……それは解ってる。


私の代わりなんていくらでもいる。それも解ってる!


でも、それでも……健人がいいの。


健人からもらったペンダントを未練がましく付けている。


「そのペンダントって、イケメンの彼氏さんからのプレゼントですか?」


耳元でそう囁かれて、声の主の顔を確認する。


この間、給湯室で高級なチョコをくれた子だった。


私は言葉が出ず、口をパクパクさせた。


「この間、動物園で仲良く動物見てましたよね?いいなぁーあんなアイドルみたいなキラキラ王子様どこで見つけたんですかぁ?」


そこにいるよ!って思わず言いそうになってこらえた。


その代わり、思わず卑屈な本音を口にする。


「……おかしかったでしょ?あまりにも不釣合いで」


「そんな事ないですよ~っ!」


長谷山先輩の咳払いで彼女は自分のデスクに戻った。



「女がみんな俺に惚れてるとか思ってねぇし、お前に好きな奴がいるかどうかも聞かねぇであんな事したのは悪かったと思ってるけど……」


長谷山先輩に改めてお断りすると、そう返ってきた。


「ちょっとだけ、1回だけ!」


手を合わせ拝むように言う長谷山先輩に、冷ややかに私が突っ込むと長谷山先輩は咳き込んだ。


「……1回だけ、何です?」


「ばっ、そういうっ、変な意味じゃねぇよ!」


変な意味って?って聞こうと思ったけど、堂々巡りになりそうだからやめた。


やがて落ち着いた長谷山先輩は言った。


「一回、デートとかしたら気も変わるかなーと思ったんだよ。……今週末、暇?」


もう、健人は私とは会ってくれない。


だからってわけじゃないけど、週末を家で一人で過ごすのは辛いと思った。


別に重く考えないで、会社の先輩と遊びに行くってノリで受ければ良いと思った。


私は土曜日の昼から先輩と会う約束をした。



スーツ姿の先輩を見慣れているせいか、私服の長谷山先輩を見るのは妙な気分だった。


「なんだよ?」


「……いえ、別に」


人混みの中で好きな人を一発で見つけられるなんて話は嘘だって思ってた。でも、ホントだったみたい。


私は人混みの中の健人を一瞬で見つけた。……女の子に腕を組まれて歩いてた。


見つめる私に健人が気付いて、横の女の子もこちらを見た。


可愛くて、スタイルも良くて、お洒落で、すごくお似合いだった。


自分がどんなにか健人に不釣合いだったのか見せ付けられた。


敗北感に押し潰されて立っているのがやっとだった。



ヤケになった私は、飲み比べで勝負して長谷山先輩を潰しやった。


「俺が勝ったら付き合え!」とか言って、一方的に始まった勝負。……返り討ち。


やっぱり私ってお酒強いんだ。


健人と飲んで潰れたあの日は相当疲れてたのかも。


こんな時でさえ健人を思い出す。


さっきのお似合いな姿を思い出して苦い気持ちになり、それをお酒で流し込む。


酔えなかった……どんなに飲んでも全然酔えなかった。

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