第10話 初めての夜

自己開発を4日しただけじゃ、意味なんかないのかも知れない。


健人だって他の女の子とデートしたいだろうし、今週末に会ってもらえるとは限らないわけで。


私は空気と同化中の健人に目をやる。


一瞬目が合ったけど、健人は再び仕事に没頭する。


……私、何してるんだろう?


仕事中にこんな事考えるなんて、バカみたい。


今日は金曜日、どうせ今日も残業を押し付けられる。


……自分の仕事くらい、余らせないでキチンとやれ!給料泥棒共!って心の中で悪態ついてみる。


私の場合、顔に出ちゃってるだろうけど。



当然のように残業。


残業時間は月80時間以内に収めるように言われてる。……まぁ、毎月そこまで達することもないけど。……平均20時間くらい。


金曜日が断トツで残業率高いけど、他の日にも普通に残業する日はある。


「手伝います」


健人……もとい、黛くんがこっちも見ずに書類を分ける。


仕事が速いのは前回でわかったから、残業が早く終わる。と、確信した。


案の定1時間もかからずにやり終えた。


黛くんは帰り支度をテキパキして私に短く挨拶をして部屋を出ようとした。


「あっ!」


私は小さく声を出してから思い留まり、急いで携帯を手にした。


黛くんの携帯が鳴り、彼は足を止めて振り向く。


受話器越しの彼は優しい声で応えてくれた。



一旦家に戻りシャワーを浴びて着替える。


待ち合わせは先週のバー。


そこで落ち合い、軽く飲んでホテルに行く。


緊張はしたし、自分から誘うのも恥ずかしかった。


でも、今日は、したかった。



ホテルの部屋に入るとどちらからともなく唇を重ね、服を脱がし合う。


「どうしたの?今日はすごく積極的……」


色っぽい顔でそう訊いてくる健人に甘えるように抱きついた。


「なんか、すごい嬉しい」


そう言って健人は私をベッドに横たえた。


「今日は最後までして、ね?」


そう言った自分の声が甘くて、違和感だらけで嫌だったけど……でも。


そんなこと、どうでもよかった。


健人に与えられる強烈な痺れを、快感として受け入れられてる事が嬉しかった。


抑えてる声も勝手に出てしまう。


「ホントにどうしたの?今日の麻衣子、すごいカワイイ。すげ~興奮する……」


そう言って、健人は更に熱い痺れを私に与える。


この間の自分とは別人なくらい、この行為を愉しんでる自分がいた。


自分でも解るくらい潤んでる部分に健人の指が触れる……恥ずかしかった。


健人は驚いて、そのあと優しく笑った。


充分潤んでる部分を更に濡らすように優しく丁寧に、私を快感で追い詰める。


自分で触るのと比べ物にならない濃厚な感覚に、頭がクラクラする。


濡れてる部分に健人の体温を感じる。


二人の間に小さな緊張が生まれる。


初めて、自分の体に男の人を迎え入れるんだ……。


痛みにちょっと反応すると、健人の動きが止まる。


「今日は、この辺にしとく?」


「あ!いや……」


私は健人の背中に腕を回した。


「やめちゃ、ダメ。今日は最後まで、したいの」


強請ねだるように言う私に健人は唇を落とす。


「しらないよ?やめてって言っても、もう止まんないからね……」


そう言って健人は優しく私の奥深くまで進入してきた。


確かに痛かったけど、健人と一つに繋がれた事が嬉しかった。


達成感っていうのとは違うかも知れないけど、それに近かった。


快感がぜることはなかったけど、そんなことはどうでも良い。


恥ずかしくて、でも嬉しくて楽しくて……気持ち良かった。


初めての人が、健人で良かったって本気で思えた。

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