第8話 ルール

「俺がなんで会社で冴えない男子のフリしてるのか?変な事聞きたがるね?」


翌朝、昨夜の事なんかなかったように健人が振舞ってくれたから、私は思い切って訊きたい事を訊く事にした。


「ま~、う~ん、めんどくさいんだよね。モテんの」


うわっ、しれっと言いやがったこの野郎……。


「女の子はみんな可愛く在るべき。嫉妬とか蹴落とし合いとか、醜い所は見たくない」


その言葉に私は唖然となる。


しかし健人はそんな私の事などお構いなく話を続ける。


「ちゃんと割り切れる物分りのいいセフレが少数いれば充分」


……セフレって言った、今サラッとセフレって。


「私もその中の一人って事よね?」


「ん~、そうだね」


解ってた。でも実際に聞くと凄くムカつく……。


「心配しなくて大丈夫だよ?性病検査も月一で受けてるし、スキンもちゃんと付けてる。セフレって言っても会ってすぐヤッてバイバイってわけじゃないし」


だから何?それで正当化してるつもり?


私は開いた口が塞がらない。


「セフレってよりかは擬似恋愛に近いかもね」


「擬似恋愛?二股三股とかの間違いでしょ!」


別に付き合いたいとか思ってたわけじゃないけど、セフレの一環としてボランティアみたいな事してくれてるのも理解したけど。


知らないうちに勝手にハーレムに入れられたみたいで気に食わない!


昨夜はあんなに嫌われたくないって思ってたのに、そんな事がウソのように私は健人に噛み付いてる。


「じゃあ、やめとく?」


健人に突き放すように言われると胸がズキンと痛んだ。


プライドなんてとっくにズタズタなのに、今更守るプライドなんてない。


長谷山先輩に「めんどくせぇ」って言われる以上に怖い事なんか……。


「私を長谷山先輩が惚れるような女にプロデュースしてくれる?」


私がそう言ったあと、健人は鼻で笑って「余裕なんだけど」って言った。



「ルール?」


「そ、最低限のルール」


セフレとして付き合う上でルールがあると健人は言い出した。


一つ、他の女といる時は声をかけるべからず。

一つ、妬いて不機嫌になるべからず。

一つ、惚れるべからず。……以上。


「擬似恋愛はあくまで擬似で、真似事。本物の恋とは違う。……まぁ、麻衣子に限っては心配ないか」


長谷山先輩が好きなのに、先輩に嫌われたくなくて他の男に抱かれようとしてる。……なんて、誰が考えてもおかしい事を私はしてる。


どこかで、頭のバネが飛んでいったのかも知れない。


「あ、麻衣子にだけ特別ルール。一つ、会社で親しげな行動を取るべからず」


「……要するに今まで通りにしろって事でいいわね?当たり前でしょ。そんなくだらないルール、追加しなくてもわかってるわよ」


呆れて言った私の言葉に健人は呟くように言った。


「会社の女に手ぇ出したの、麻衣子が初めてだからさ」


健人の言葉を、私は軽く受け流した。



佐田麻衣子、28歳、処女。

処女なのに、セフレです。

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