第6話 デート(後編)

「服、麻衣子に似合うの見つかって良かったね❤」


そう言って黛くんは上機嫌でソイラテをすすった。


「やっぱりこんな高い服買って貰うわけにいかない、受け取って!」


私に似合う服というのが見つかって黛くんは即買いした。


でも私はしっかり値段を見ていた。こんな高い服を買って貰うわけにはいかない!


レジでは黛くんの顔を立てたけど、今、その代金を渡そうとしてる。


だけど、のらりくらりとかわして全然受け取ってくれない。


「麻衣子、こんなとこで現金ちらつかせてたらダメ。仕舞いなよ」


「だって!黛く」


「麻衣子!」


「ごめんなさい……」


黛くんが軽く声を荒げ、ビビッた私はおとなしく現金をカバンの中に仕舞った。


それでも黛くんは不機嫌な顔をし、顔を近づけてきた。


「俺の事、なんて呼ぶんだっけ?」


「……けん、と?」


私がそう言うと健人はにっこり笑い、私の頭を撫でた。


その行動に私は目を丸くし、首を傾げた。


「え?今怒られたのって、私が健人って呼ばなかったから?」


「そうだよ?それ以外にないじゃん」


「私てっきり、お金の事でしつこくしたからかと思った……」


何故か解らないけど私はホッとした。


健人は私の手をそっと握って小さな声で言う。


「俺は、麻衣子の大事な物を貰う。それはお金なんかじゃ取り返せないくらい大事な物だから。この程度のプレゼントじゃ、安いくらいなんだよ?」


真顔でそんな事をサラッと言われて、私は顔が熱くなった。



その後、アクセサリーショップを見て、動物園に行った。


ゆっくり色んな動物を見て回って、他愛ない会話をした。


空が薄暗くなる頃、健人はトイレに行くと言って30分経った今も帰って来ない。


連絡しようにも連絡先がわからない。


私が知ってるのは社内メールのアドレスだけ。


さっきまで楽しかったから余計に心細い。


何処に行ったの?何かあったの?もしかして、帰っちゃったの?


なんで私、彼を待ってるんだっけ?


「ごめん」


息せき切った声で健人は短く言った。


「どこ、行ってたの?」


そう訊く私に健人は小さめの紙袋を手渡された。


私は健人の表情を窺うと、袋の中身に視線を落とす。


細長い箱状のものがラッピングされてる。


私は包みを解いて箱を開くとペンダントが姿を現した。


さっき、アクセサリショップを見た時に私と健人が同時に可愛いって言ったペンダントだった。


でも、値段も結構高価だし、今日はやめようって言って動物園に来た。


「可愛いし、麻衣子に似合うと思って。時間が経つ毎にやっぱり諦め切れなくなっちゃって……買っちゃった」


おどけたように言う健人に反して私は涙が止まらなかった。


何もなくて良かった、帰ってきてくれて良かったっていう安堵の涙と、純粋に嬉しかった。

今までこんな事してくれた人なんていなかったから……

健人はペンダントを私の首にかけ、私の髪を整える。


「やっぱり可愛い、よく似合ってるよ」


そう言って健人は優しく笑った。


健人は私の涙を拭うと私の唇に短くキスをした。


「今夜、貰っても良い?」


胸の鼓動が激しくなる。


顔がどんどん熱くなる……。


私は頷いて、私達はもう一度キスした。



佐田麻衣子、28歳、処女。

こんな風にされたのも、嬉しくて泣いたのもこの日が初めてだった。

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