第6話
「伏せろ」
その声のほうを見ると、若い男が近づいてくるのが見えた。突然、視界の隅に獣が躍り出て、反射的に体がびくっとなる。さっき消えた獣と同じ姿だった。獣が若い男に向かって走り出す。若い男は親指を立てて、人差し指を獣に向けた。人差し指の先から高速の光の玉が出て、獣を霧散させる。
「誰だお前」
その問いかけに、若い男は答えない。また、光の玉が射出される。今度は獣使いの胸を打ち抜いた。小さなうめき声をあげて、獣使いはその場に倒れた。死んだのか、気絶しただけなのかわからない。
「さあ、行こうか、僕の家に。ここは危険かもしれないからね」
目の前に、紅茶の入ったマグカップが置かれる。
「あの力って…」
若い男は俺の向かいに座った。紅茶を一口すする。
「あれは魔法っていう力だよ。すごく危険な力だよ」
「教えてください」
若い男は顎に手を当てて黙り込んだ。
「君はいきなり変なところに連れてかれたことはあるかい?」
「変なところじゃないですけど、過去には飛ばされたことがあります」
「そこまでわかってるなら話が早い。外に行こうか。家の中じゃ物が壊れるからね」
そう言って若い男は立ち上がった。移動するときに名前を教えてもらった。オキナというしい。移動した先は公園だった。誰もいなくて、閑散としている。
「僕たちは時の魔術師って言われてる。時間を自由に操れるわけじゃないから違う気もするけどね。魔法の素養がある人は過去に強制的に飛ばされるんだ。で、1時間で帰ってくる。呼び出される時間は決まってなくて、みんなが一斉ってわけでもないみたいだよ」
いきなり現代に戻ってきたことを思い出した。おかげで助かったけど、ちょうど時間切れにならなければ死んでいた。少し身震いがした。
「僕の力はさっき見たよね。手から光の玉を発射できる。でもあんまり強くはないよ。応用が利かないし予備動作でばれるからね」
そう言って、目の前の木に向かって撃った。木に穴が開く。
「まあまあ威力はあるよ。これでも結構抑えたからね。人なら簡単に殺せる。…人によって力は違う。自分のイメージで力を作り上げるんだ。イメージが強いほど上達も早いし強い力になる」
欲しい力。考えた。サチとレイを守りたいという、漠然とした考えしかなかった。具体的にイメージできない。
「力のイメージができてきたら、あとは発動するイメージをすればいいんだ。全部、イメージだよ。最初は難しいと思うけどね。慣れてくればどうってことないよ」
守る力。防壁。よし、それがいい。防壁をイメージする。具体的にイメージができあがった。半透明の、薄い板。どんな技も通さない。絶対的な防御壁。それを、目の前に出す。すると、目の前の気に大きな穴が開いた。
「危ない」
オキナが叫んだ。その木は俺たちに向かって倒れてくる。オキナは木を撃った。大きな球が木にぶつかる。木は俺の肩をかすめて倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます