旋律は続くよどこまでも
「そういやさぁ、中一ん時」
そう切り出したのは
「吹部に入ってはじめて合奏に混ざった時ってさ、めちゃくちゃ感動しなかった?」
「あー、分かる。合奏っつーか、チューニングの時点でもうなんかすげーって思った」
「ねー。はじめて音が重なった時、感動したよね」
「それそれ。なんか、このくらいの時期になると思い出すんだよな。今はもうなんも思わなくなったけど」
「それは耳がよくなったってことだからいいことなんじゃね」
盛り上がる
「まあな~。てか、そうでありたい」
「そっか、ねこやんの家、音楽やってるから、新鮮さとかあんまりなかった感じ?」
「そーね」
短く答えて、奏斗は深いため息を吐いた。
音哉、律、鳴海の三人は中学から吹奏楽をはじめたのに対し、奏斗は家が音楽一家だったため、生まれた時――いや、生まれる前から、音楽に触れる機会はたくさんあった。幼少時の奏斗は外で遊ぶのが好きだったため、半強制的に音楽を習わせられることには猛反発していたが、それでも母親がピアノ教室をやっていたことからピアノには一応触れていたし、父親がチケットをもらったりして本格的なオーケストラなどのコンサートに連れて行かれて、生演奏に触れる機会は多かった。親戚も何かしら音楽に関係した仕事をしているため、大型連休などには各々楽器を持ち寄って、防音室でミニ合奏のようなことをすることも、今でもある。
「だからみんながうらやましい。俺が覚えてないだけで、はじめてコンサートとかで聞いた時は感動したのかもしれないけどさ」
「まあ、奏斗はそれが早かっただけだろ」
「そうかもだけどー。でも、感動したっていう記憶がちゃんとあるのがうらやましいなって思う」
「聴くのもだけど、自分が、ねこやんならドラムかな? ではじめて合奏に混ざって、自分が曲の一部なんだな、って思ったりはしなかった?」
「ん-、それはあったかも。でも家でなんか楽器やってると、ほぼ必ず誰かしら混ざってくるからな、俺の家は」
椅子の上であぐらをかきながら、奏斗は再びため息を吐く。三人からすると、そんな奏斗の家が楽しそうでうらやましい、と思うのだけれど、お互いないものねだりなのだろう。あまり頭の良くない鳴海にとっては、楽器なんて吹いてる時間があるなら勉強しろという家なので、なおさらうらやましい。
「奏斗ん家は恵まれすぎでうらやましいわ、マジ」
「自分で言うのもなんだけど、音楽やる環境はめっちゃ整ってるからね」
「でもだからこそ、何か音楽に触れなきゃいけない、やらなきゃいけないい、ってなるのはちょっと嫌だよね」
「まさにそう」
律の台詞に奏斗は何度も大きく頷く。
昔から奏斗はそうだった。やれ、やらなければいけないんだぞと言われるから反発したくなるのであって、何にもとらわれず自由にやるのが好きなのは、ピアノでもそうだった。親の目が行き届かない学校では、「男の子がピアノを弾くなんて」などと一部に好き勝手言われようが、気が向いた時に好きなように弾いていたりもした。
「でもやっぱ、血筋なのかな、俺も結局音楽やってる」
「いいじゃん、やろうよ。音を楽しむと書いて音楽だもん。僕はねこやんと一緒に演奏できるの、すっごくうれしいよ」
「うさたん……うん、ありがとう。俺も楽しいほうの音楽なら、みんなとやりたいな。苦しいほうの"音が苦"じゃないやつなら」
「楽しいことなら俺も混ぜろよなっ!」
「……俺も」
「もちろん。だよね、ねこやん」
「……うん!」
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