はじめての友達、はじめての

 さて、部活はどうしようか。そう考えながら適当に校舎内を歩いてたら――別名迷子ともいう――、音に惹かれてやってきたのは音楽室だった。


 うーん、吹奏楽部かぁ……。見学するだけタダだけど、高校の部活って、勧誘のポスターに初心者歓迎! って書いてあっても、吹部に限らず経験者じゃないとなんかなとこあるよね。まして吹部なんて、楽器できるのかっこいいなーとは思ったことあるけど、そう簡単にできるものじゃないだろし。……なんて言ってたら、中学時代帰宅部だったわたしには選択肢がそもそもないわけだけど。


「あ、あの、もしかして、見学……ですか?」

「ひゃあっ!」


 見学するだけタダVSでもわたしは楽器なんてリコーダーくらいしかできないVSそのうち先輩が来て引きずり込まれそうだからその気がないならさっさと立ち去ろう、で頭の中でぐるぐる悩んでたら、急に声を掛けられて声が裏返った。


「ごっ、ごめんなさい……」

「い、いえ……こちらこそ……」


 振り返ると、そこにいたのは髪をみつあみにした大人しそうな子が頭を下げていた。そういえばクラスにこんな子いたな。確か名前がすごかった記憶がある。思い出せないけど。


「あのー、あなたも吹部に見学に?」

「あ、はい……。っていうか、中学でもやってたから、入部するつもりなんですけど」

「あー、敬語じゃなくていいよ。同じ一年でしょ?」

「う、うん……」


 心臓も落ち着いてきて、そういえばさっき見学がどうこう言ってた気がするから、つまりはタメってこと……だよね?


「よかったら一緒に見学していかない?」

「うーん……わたし、初心者だから……そのー……ね?」

「初心者でも大丈夫だよ!」

「えっと、確か百合根ゆりねさん……だっけ? は、中学でもやってたの?」

「うん」


 そ、っかぁ……。同じ初心者だったら一緒にちょっと覗いてみようと思ってたけど、経験者かぁ……。経験者、経験者……うーん……。


「あの、申し訳ないんだけど、あなたの名前は……?」

「あ、わたし、青原あおはらリコ。わたしも名前教えてもらっていい?」

「あっ、わ、私は百合根……鈴々依りりいです」


 そうだそうだ、"りりい"だ。それとも"りりぃ"かな? でも思い出した。初めて聞いた時、すごい名前だなぁと思わず思ってしまったけど、ちょっと小声になったあたり本人はコンプレックスなんだろうか。じゃあ百合根ちゃんとでも呼ぼうかしら。

 まあわたしは吹部に入るつもりはないからこれっきりの関係かもしれないけど、クラスは同じだし自己紹介しておくくらいは別にいいよね。


「わっ、私、その、ひとりじゃ恥ずかしいっていうか、勇気、出なくて……だから一緒に行かないかな、なんて」

「いやーでもわたし、リコーダーくらいしか吹けないから……楽器のことも全然分かんないし」

「そっかぁ……」


 しゅんとなった百合根ちゃんを見てなんとなく罪悪感。わたしも初心者だから、って理由もあるけど、ひとりじゃなんか入りにくいってのも分からなくはないし、躊躇してた理由に少しはそれもあると思う。


「……分かった。一緒に行くだけならいいよ」

「本当? ありがとう!」

「入るとは限らないけど……」

「なんとなくだけど、青原さん、楽器向いてると思うけどな」

「そ、そう?」


 百合根ちゃんの嬉しそうな表情と、楽器向いてるかもの言葉にすっかり気を良くしたわたしは、その後先輩にもおだてられて、結局吹部に入部することになるだなんて、思いもしていなかった。



(だって音が出ちゃったんだもん)

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