第五章 もっと力を ──または、新兵器とバルクホルンの反省
第五章 第一話
早朝のハンガーを、
いつものように、シャーリーが愛機の魔導エンジンをテストしているのだ。
芳佳などはこの時間にハンガーに来ただけで目を回しそうになるが、整備兵たちは慣れたもので、みな
「よしよし、今日も絶好調だなあ、あたしのマーリンエンジンは」
今回は
条件が整えば、最高速度の
そんなことを考えながら、下着姿のシャーリーがニコニコ顔でエンジンの回転数を落としたところに。
「シャーロット・イェーガー
バルクホルンの
もしかすると、だいぶ前から
「何って? エンジンテストだけど?」
「そうじゃない! なんだ、その格好は! 今は
「だって、ハンガーの中でエンジン回すと暑いじゃないか。ほら、あっちでも」
シャーリーが指さしたのは、
「あぢ〜」
ルッキーニが自分の秘密基地で、
「まったく、お前たちはいつもいつも……」
しかめっ
「バルクホルンこそ、そんな格好で暑くないのか?」
こいつ、前世は
シャーリーは
「暑い、暑くないは関係ない」
実はじっとりと全身に
「規則を守れと言っているんだ。これだからリベリアンは……」
「へ〜、カールスラント軍人は規則に厳しいってか? どうなんだ、ハルトマン?」
シャーリーはこちらにやってくるハルトマンに、バルクホルンの
「あっつ〜」
バテバテのハルトマンは、
ルッキーニにも増してだらしない格好。
このまま基地の外を歩いたら、警官にたぶん
「ハルトマン、お前まで! く〜っ! それでもカールスラント軍人か!?」
「え、そうだけど?」
そうじゃなかったら何なのさ、とハルトマンは首を
「く〜っ!」
「あっはははは!」
まったく示しがつかない。
「待て、貴様! 今日という今日は!」
ふらふら
「ほう、これがカールスラントの最新型か?」
ハンガーの別の区画では、ミーナと坂本が届いたばかりの新型ストライカーを前にしていた。
「正確には試作機ね。Me262V1。ジェットストライカーよ」
仕様書を見ながら、ミーナが説明する。
「ジェット?」
と、ひょっこり顔を出したのは、さっきまで徘徊していたハルトマンだった。
「ハ、ハルトマン大尉!」
男性誌の表紙を
「どうしたんだ、その格好は?」
一応、坂本も苦言を
さすがは、制服下
そこに。
「こら、ハルトマン! 服を着ろ、服を! ……ん? 何だ、これは?」
ハルトマンを追ってきたバルクホルンが、新型に目を留めた。
「ジェットストライカーだって」
さっき聞いたばかりの言葉を
「ジェット? 研究中だったあれか?」
「今朝、ノイエ・カールスラントから届いたの。エンジン出力はレシプロ・ストライカーの数倍、最高速度は時速950km以上、とあるわ」
仕様書に目を通しながら、ミーナが補足説明する。
「950! すごいじゃないか! へ〜っ!」
どこから現れたのか、シャーリーもやってきて、ジェットストライカーを
もちろん、速さに目のないシャーリーのこと。
ジェット開発の
だが、本物を見るのは、というか、
「レシプロ・ストライカーに取って代わる新世代の技術ね」
カールスラントの技術力を
「……シャーリー、お前もなんて格好だ」
一応、上官として注意する坂本だが、バルクホルンほどは
まるで新しいおもちゃを
「何を言っている! カールスラント製のこの機体は、私が
「国なんか関係ないだろ! 950kmだぞ! 超高速の世界を知ってるあたしが履くべきだ!」
「お前の頭の中は、スピードのことしかないのか!?」
この二人、理由が何であってもしょっちゅう角を
「また始まったわ」
「しょうのない
だが。
「いっちば〜ん!」
シャーリーとバルクホルンがやり合っているうちに、ルッキーニがぴょんと飛び出してきてジェットストライカーに足を
「あっ! おいっ!」
「こら、ずるいぞルッキーニ!」
「へへ〜ん、早いもん勝ちだも〜ん!」
ルッキーニは
今まで聞いたことのないジェットの異質な
キュウウウウウウウウウウ〜ッ!
ゴオオオッ!
「うひゅ〜っ!」
得意満面のルッキーニ。
だが、その一瞬後。
「んにゃ?」
バチ!
バチバチバチバチッ!
「ぴぎゃっ!」
ルッキーニは
「ルッキーニ!?」
「どうしたんだよ?」
「……な、なんかビビビーッてきた」
「ビビビ……?」
「アレ、
ルッキーニは必死に
「………………」
付き合いの長いシャーリーは、ルッキーニの動物的な本能が何かを告げようとしていることを
「やっぱ、あたしはパスするよ」
シャーリーは立ち上がって、バルクホルンに告げる。
「何?」
意外そうな顔のバルクホルン。
「考えたら、まだレシプロでやり残したこともあるしな……。ジェットを履くのは、それからでも
「ふ、
バルクホルンはジェットストライカーを装着し、再びエンジンを始動させる。
キュウウウウウウウンッ!
(ふむ。特に変なところはないぞ)
ハンガー全体を揺るがすほどの出力は安定していて、今にも飛び立てそうだ。
(行ける! 文句のない
「……
エンジンを回し続けながら、バルクホルンはひたすら、ジェットストライカーに
* * *
「成績は上々。いや、それ以上だ」
午後遅く。
坂本はジェットストライカーのテスト結果をミーナに報告していた。
「上昇力と
バルクホルンはシャーリーのP─51と
「レシプロ・ストライカーは消えゆく運命なのかしらね?」
技術開発部に送る
「どうかな?」
坂本は窓の外に目をやった。
ちょうど、宿舎に
まるで、
「かなり
ミーナは
「宮藤さんの話だと、夕食に手もつけなかったそうだし」
「ジェットの投入が、戦局を大いに変えることは
「様子を見ましょう」
ミーナはとんとんと書類を
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