第四章 第二話
という訳で。
「行きます!」
三人は古来よりの飛行法に、今さらながら
「うっ! い、痛い……」
「く、食い込む……」
「あ、ぐぐっ……!」
バケツを提げた箒にまたがった芳佳たちは、聞きようによっては周囲が赤面しそうな
落ちないように脚の筋肉に力を入れると、大切な部分に余計に力が加わり、
だからといって力を
「あああっ!」
「きゃあああっ!」
「くううっ!」
「いつまで地面をウロウロしてるんだい? さっさと飛ばないと、晩ご飯に間に合わないよ!」
アンナがパンッと手を
「きゃあああ!」
最初に
「わあああああっ!」
芳佳はグルグル回る箒にしがみつき、
「きゃっ! はっ! わっ!」
白い
「まったく、情けない。これで魔女とは、片腹痛いね。あんたは
アンナは
「きゃあああ!」
確かに。
リーネは芳佳と比べ、かなり重心が上の方にありそうだ。
「……いつまで回ってるんだい?」
アンナは次に、芳佳の前に来る。
「ホ、ホウキに聞いてくださ〜い!」
まるで落語である。
「あ」
とうとう箒が芳佳を嫌って、地面に
一方。
ひとりだけ、
「ほう、やるねえ」
「こ、これくらいウィッチとして当然……くっ! 楽勝ですわ……」
ペリーヌは強がるものの、ここにその
というか、
「そうかいそうかい」
アンナは箒の後ろの
ズズズッ!
「ああっ! ううっ! ひいいいっ!」
「す、
ペリーヌ、
とうとう三人全員が落下して、
「……あんたたちには、永遠に合格をやれそうにないねえ」
「そんな!」
アンナの言葉に、泣きそうになるリーネ。
「くっ!」
プライドを大いに傷つけられたペリーヌは、箒を投げ捨てる。
「今どきウィッチの
「おや、もう音を上げたのかい?」
「ペリーヌさん……」
何とかリーネが
「アンナさん」
芳佳は
「ん?」
「あの、私も知りたいです。こんな修行で本当に強くなれるんですか?」
「……あんた、強くなりたいんかい?」
「はい!」
強い意志の宿る
「
「私、強くなって、ネウロイからこの世界を守りたいんです! 困っている人たちを助けたいんです!」
「芳佳ちゃん」
「……」
リーネもペリーヌも、
「ふむ」
アンナはタライを引っ
「……見ておいで」
老魔女は宙に
「アンナさん!」
「行っちゃった……」
「ふん! もう
と、三人。
しかし。
「!」
少しして、タライをぶら下げた箒が再び見えてきた。
「きゃああ!」
ペリーヌは降りてくるタライを
「わあ、こんなにいっぱい!」
目の前に着地したタライがなみなみと水を
「こ、これを一人で?」
「すごいです!」
ペリーヌとリーネも
しかし。
「でも、これでほんとに強くなれるんですか?」
芳佳はまだ
「信じられないかい? けどね、あんたたちの教官だって、ここで訓練して一人前の
「え、教官って……」
「坂本
と、リーネとペリーヌ。
「ああ、あの子は
「坂本さんもこの訓練を……」
芳佳はようやく信じ始める。
「あ、あの……」
ちょっとモジモジしながら、ペリーヌが質問した。
「何だい?」
「さ、坂本少佐が使われていた箒はどれでしょうか?」
「さっきあんたが投げたやつだよ」
「あ、あれがあああ〜っ!」
転がっていた箒を抱き上げ、ペリーヌは
「これが少佐のお使いになった箒ぃ〜っ!」
「なんだいありゃ?」
「……」
リーネはアンナがペロッと舌を出したのを目にしたが、平和のために何も言わないことにした。
* * *
翌日。
「も〜、つまんな〜い!」
期待していたホカホカご飯が出てこなかったので、ルッキーニはご
おまけに、お
芳佳とリーネのいない501基地の食堂で提供されるのは、
「扶桑のご飯、どこ行ったの〜!?」
ナイフとフォークを手に、ルッキーニは
「うう、ご飯〜」
ハルトマンも、不満顔である。
「お前たち、食い物のことで文句を言うなど、軍人にあるまじき
とは、
「そだ!
「やめとけよ、ミーナに怒られるぞ」
ガムを
「ぶ〜」
だが。
行くなとルッキーニに命じることは、行けと
「……きししし」
坂本が
みんなが食事の片付けをしているうちに、ルッキーニはこっそり食堂を
* * *
この日も朝から特訓が続いていた。
箒に乗って飛ぶ。
昔のウィッチなら
三人とも、本来ならとっても大事にしなくてはいけない場所が擦れ、風が当たっただけで飛び上がるほどに真っ赤に
「あんたたち三人とも、
アンナは芳佳がまたがる箒の
「うっ、い、痛いです、アンナさん!」
「痛いのは
お次はリーネの箒。
「ん! ああっ!」
「あんたもだよ!」
「ひいいいいいいいっ!」
何度も
「いいかい、あんたたちはストライカーユニットって機械にずっと
「箒と一体化……?」
と、
「箒に乗ろうと思うんじゃなく、箒を
「身体の一部……」
リーネは、自分が周囲の自然に
「そして、自分の
「自分の脚……」
ペリーヌは、心を
三人の足元に魔法
「一歩前へ……」
芳佳は不意に、身体の中を血潮とともに流れる力を感じ取った。
「……あ、ああああっ! と、飛べた!」
「私も飛べた!」
「と、飛びましたわ!」
芳佳たちの箒が、フワリと空へ
小屋の屋根が足元に。
緑の庭。
橋。
同じ風景なのに、ストライカーで飛んで見ているのとはまったく別のもののようだ。
風が、光が、音が、世界を形作っているのがはっきりと分かる。
「すごい、すごいよ、リーネちゃん! ペリーヌさん! ほんとに箒で飛べた!」
「うん!」
「と、当然ですわ!」
ペリーヌでさえ、そう言いながら、感動を
「何だか、ストライカーで飛ぶ時の風と違うような気がする。……気持ちいい〜っ!」
「うん、気持ちいい〜!」
「で、でもまだ……ちょっと擦れて」
二人ははしゃぐが、あの
《さび》しく感じるペリーヌ。
「いつまで遊んでるんだい?」
いつの間にか、アンナも箒に乗って飛んでいた。
「さっさと
「言われなくても行きますわ!」
「行ってきま〜す!」
芳佳たちはバケツとともに、
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