第三章 第四話
一方。
芳佳とリーネは角を曲がったところで、
「どうしたんですか!?」
二人に声をかけるリーネ。
「お、奥様が引ったくりに」
メイドは、
「あいつが犯人です!」
メイドが指さした先には、大きな
「お
と、老婦人に
「あ、足を少し」
老婦人が告げると、芳佳は足首の
使い
ウィッチとしての芳佳の固有魔法は
「あなたは……ウィッチなの?」
老婦人は目を丸くする。
「はい」
治癒魔法を使いながら、芳佳はうなずいた。
一方、犯人の方は数ブロック先の角を曲がって、芳佳たちの視界から姿を消そうとしている。
「芳佳ちゃん、私、犯人を追いかけるね!」
リーネは、ここは芳佳に任せることにして走り出す。
「気をつけて!」
声をかける芳佳。
「うん!」
リーネは
しかし。
「ハアハアハア……」
リーネは
引ったくり犯との
「速い! 追いつけないよ!」
これ以上引き離されたら、
「私じゃ……何もできないの?」
芳佳は今、老婦人の手当てをしている。
ウィッチとして、ちゃんとみんなを助けている。
なのに……。
「私じゃ……無理」
リーネがギュッと目を閉じ、立ち止まろうとしたその時だった。
(私、信じてるから)
「……え?」
それは、いつも自分を助けてくれる芳佳の声。
ここにはいない芳佳の声を、リーネは聞いた気がした。
「そうだよ!
リーネはもう一度、走りだした。
「芳佳ちゃんなら、きっとそう言う!」
ちょうどその時、リーネの目の前を、小学生ぐらいの男の子の集団が通りかかった。
そのうちのひとりが、クリケットのボールを手にしている。
「これ、お借りします!」
リーネは男の子の手からボールを取り上げると、犯人めがけて投げつけた。
使い魔であるスコティッシュホールドの耳と尻尾が、リーネに現れる。
リーネの持つ固有魔法は、
その力を使って、ボールをコントロールしようというのだ。
だが。
「…………あ」
ボールは犯人の
やはり、
「……駄目だったよ、芳佳ちゃん」
座り込むリーネ。
しかし、その時だった。
大きく目標を外れたはずのボールが、引ったくりの前方のアンティークショップの看板に命中した。
看板はそのショックで外れ、落下すると……。
ゴガッ!
引ったくり犯の頭を
「へ?」
それを、
「……あ、あの、
リーネは、捕まった引ったくり犯のところまでやってくると声をかけた。
「な訳あるか!」
頭にコブを作った犯人は
意外と若い、まだ十代後半の青年だ。
「!」
思わず身をすくめるリーネ。
「こいつ、お
「たいしたもんだ!」
「いや、立派だったよ」
リーネを囲む街の人たちは、温かな視線と共に、賞賛の言葉を浴びせた。
「えと、あの……」
あまり
「それに引き
街の住人のひとりが、犯人を見て
「この戦時下に」
「ふてえ
「警察に突き出そうぜ!」
と、そこに。
「すごい、リーネちゃん! 犯人捕まえたんだ!」
芳佳は飛びつくようにしてリーネを
「うん。
今から考えると、自分でも
(これもきっと、芳佳ちゃんが勇気をくれたからだね)
リーネはありがとうの気持ちを
「あのね、芳佳ちゃん、この人
「うん」
リーネに言われ、芳佳は
「この子たち、ウィッチなのか?」
「そうか、501の」
街の人たちはさらに感心する。
「あの……」
手当てを受けている犯人に、リーネは
「どうしてこんなことを?」
「……別に理由なんかない」
青年は視線をそらした。
「そんなことないです」
手当てを続けながら、芳佳は言った。
「何も理由がなくて、悪いことをする人なんていません」
「いるんだよ、ここに。ここだけじゃない、世界中にな。理由なんかなくたって、人を傷つけ、殺しもする。そういうもんさ」
犯人の青年は
だが。
「違います、絶対に!」
芳佳は頭を
「だって、そんなの……悲し過ぎます」
「
あざ笑う青年。
「馬鹿でも構いません! でも、私は信じてます! 悪いことをしたくてする人はいないって!」
芳佳は真っ
「芳佳ちゃん」
そっと芳佳の腕を
やがて。
「………………俺のうちの近所に」
青年は根負けしたように告げた。
「ガリアからの難民の女の子がいるんだ。ネウロイの
それだけ言うと、青年は顔を
「そのばあさん、かなりの金持ちに見えたんだ。メイドなんか連れてるし、大切そうにカバンを
「このカバンを
青年が
カバンの中身は、粉ミルクの
「これは、奥様がご自分のドレスを
「私の家が
老婦人は、犯人の青年に語りかけた。
「夫も
「だったら、なんで他人のための粉ミルクなんか!? あんた、自分が必要なものを買えばいいだろ!?」
青年は信じられないといった目で老婦人を見る。
「あらあら、あなただって、自分のために引ったくりをしたのではないわよねえ」
老婦人は
「ウィッチのお
「は、はい!」
「もちろんです」
「みなさんも?」
「当然です」
街の人たちも、青年にかけていた
そこに……。
「やれやれ」
そう頭を
「あら、あなたは質屋の?」
と、老婦人。
「さよう、店主です。店の外が
質屋は老婦人と芳佳たちに一礼する。
「
店主は老婦人から預かったドレスをメイドに
「でも」
「大切なドレスなのでしょう? 古いが立派な品です。お渡ししたお金の方は……そうですな、私から奥様の
「芳佳ちゃん!」
「リーネちゃん!」
手を取り合って喜ぶ二人。
「ところで、そのガリアの
街の人たちが、引ったくりの青年に
「たぶん、1000ポンドは……」
青年は答える。
「そうか。なら、街で寄付を
「ま、待ってくれ、そんなことをしてもらったら!」
「お前さんのためじゃない。その娘さんのためさ。俺たちの美しい国をその娘さんに見てもらわないとな」
「では、私も寄付しますぞ」
質屋の店主が
「じゃあ、私たちも」
「うん!」
芳佳とリーネも頷く。
と、その時。
「失礼! このあたりで、引ったくり事件があったと通報があったのだが」
先ほどの
「おや、さっきの娘さん?」
巡査は芳佳たちに気づく。
「君ら、聞いていないかね、引ったくりのことを」
「そ、そのことだったら……」
「か、
「その通りですわ、巡査さん」
言葉を
「うむ。勘違いだったのなら、それに
巡査は
「それにしても、よくできたオモチャだねえ? 最近は、ウィッチごっこ用にそんなものも売っているのか?」
「だから、本物なんですってば〜!」
とうとう最後まで、巡査に信じてもらえなかった芳佳たちだった。
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