第三章 第三話
「ちょ、いったいどうした!?」
急に女の子が泣き出したので、ハルトマンは
「とにかくこっち!」
人目もあるので手を引いて場所を移動すると、女の子に事情を聞こうとする。
だが。
「あ〜ん!」
名前、住所。
何を尋ねても、女の子は泣くだけ。
小さい子を
こういうことは大体、ミーナの役回りである。
「あ〜、困ったなあ〜」
さすがのハルトマンも困りきってしまう。
「せめてクリスぐらいの年だったらな〜」
ハルトマンはぼやく。
クリスというのは、親友バルクホルンの妹。
カールスラントでネウロイの
気立ても頭もいい、ハルトマンにとっても妹のような存在である。
どことなく、芳佳に似ているような気もするが、それを言うと、バルクホルンはムキになって否定するので、ちょっと
「ウルスラなら……」
ハルトマンは続けて、自分の
「……
本の虫で、
このところ、
もっとも、元気いっぱいのウルスラというのも想像しがたいが……。
「あ〜、もう泣くなって」
ハンカチで
「……水着って、不便」
そもそも、今日は制服のポケットにハンカチが入っていたかどうかも疑問なところである。
いつもなら、バルクホルンがハンカチ持ったか、と
「えっと……そうだ! お母さんは? お母さんはどこにいるんだ?」
「……お母さん……工場」
ようやく少女は答えた。
「工場で部品、作ってるの。ストライカーユニットの……部品」
「へえ〜」
ハルトマンは頭を
「
「……ウィッチ?」
少女は泣くのをやめた。
「そうだよ〜」
ハルトマンはニッと笑う。
「だから、困ったことがあったら、このお姉ちゃんに言いなさい」
「………………妹が」
少女は少し
「
再び泣き出す少女。
「ああっ! お姉ちゃんが一緒に探してやる! だから、もう泣くなって!」
「……ほんと」
しゃくり上げる少女。
「ほんと、ほんと」
ハルトマンは
こうして。
ハルトマンの
* * *
同じ
「見つからないね、リーネちゃん」
「困ったね、芳佳ちゃん」
姿を消したハルトマンを探しにブティックを出た芳佳とリーネは、
「目撃情報はあるんだけど……」
「逆にあり過ぎて、どっちに向かったのか分からないよね」
一応、二人はすれ
証言その1 通りがかりのおじさん
「あ〜、水着の子ね! 見たよ〜。ぼ〜っとした顔して、ふらふらっと大通りを西に向かってたっけ」
証言その2 近所の主婦
「ええ、あのお
証言その3 ソバカスだらけの頭の悪そうなガキ
「水着の女の子? 街外れの倉庫の前に突っ立ってたバカそうな
証言その4 ヌイグルミを
「んっとね〜、こうえんのふんすいのところにね〜、ワンワンがいてね〜、そのワンワンがそのひとをおいかけてたの〜」
「まさか、私たちのこと忘れて、ひとりで基地に帰ってないよね?」
芳佳は
「さ、さすがにそれはないと思うけど」
と、リーネが
「何かお困りかの?」
「あの、ええと……」
「お前さんの手にしているのは、
白いヒゲをした老人が、リーネが
「えっ、分かるんですか?」
目を丸くするリーネ。
「分かるも何も、わしらは元カールスラントの飛行機乗りじゃからな」
白ヒゲの老人は胸を張った。
「まだまだ、
もうひとりの小太りの老人が、ポンと腹を
「カ、カ、カ、カ、カ、カールスラント空軍の
少しボケの入った三人目の老人が
「本当は現在のブリタニア防衛戦にも義勇兵として参戦すべく、その
老人たちは勝手に自分たちの身の上話を始める。
「老兵諸氏は
「おおかた、ケツを
「ブ、ブ、ブ、ブ、ブ、ブリタニア兵士のヘタレ度は世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
またも、もうひとりの老人が
「あ、あの……」
「おお、そうじゃった! わしら、お前さんたちが困っているようなので声をかけたんじゃったな!」
「じ、実はですね」
成り行き上、仕方なく芳佳は説明する。
「……ふむ」
話を聞いた白ヒゲの老人が
「わしらはこの街には
「そ、そうですか!? ありがとうございます!」
芳佳はホッとして三人組に頭を下げる。
「その代わり」
老人たちの目が
「そっちのお嬢ちゃんの豊満な胸、ちょこっとわしらに
老人三人組の手が、
「きゃあああああああっ!」
悲鳴を上げて身をすくませるリーネ。
「何するんです、
芳佳は
「ええい、老い先短い老人たちのたっての願いを聞けんと言うのか〜っ!」
「どこが老い先短いんですか! 元気いっぱいじゃないですか!」
「きゃあああああっ! 芳佳ちゃん、助けて!」
と、芳佳たちと老人たちが揉み合っていると。
「
助けを求める女性の声が、芳佳たちの耳に飛び込んできた。
「な、なんじゃ?」
さすがの老人三人組も、いやらしげに伸ばした手を止める。
「芳佳ちゃん!」
「うん!」
二人は顔を見合わせると、声のした方に向かって走り出した。
* * *
「……で、そんなトゥルーデを助けてくれたのが、新人の宮藤。最初に
ハルトマンは不安そうな少女の気を
今は花屋から家までの道を
「で、ペリーヌって言うのがまた変な……ん?」
歩きながら話を続けるハルトマンの
「ど〜した?」
「……あそこ」
女の子の人さし指は、前方の川を指さしていた。
いや、川ではない。
川に
「ま、まさか!」
ハルトマンの目に飛び込んできたのは、その鉄橋の上に立つ、幼い女の子の姿だった。
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