第三章 ハルトマン消失!? ──または水着購入に関する一考察
第三章 第一話
「ねえ、芳佳ちゃん」
リーネこと、リネット・ビショップがためらいがちに宮藤芳佳に声をかけてきたのは、その日の訓練を終え、お
とはいえ、
ウィッチ養成校時代から何ごとにも
戦場では、
階級は芳佳と同じ
芳佳にとって、リーネは最初の友だちである。
「あ、あのね、芳佳ちゃん。……明日のお休みって……何か予定あるかな?」
リーネは
「んっと、特にないけど……」
故郷の横須賀ではごく
「あの……だったら、お買い物に付き合って欲しいんだけど……
「駄目なんてことないよ!」
芳佳は大きく頭を横に
「それで、何を買いに行くの?」
「あのね」
リーネは芳佳の耳元にささやく。
「……訓練で使う水着」
「え? でも、リーネちゃん、この前買い
先日の訓練の時には、
「……
リーネは顔を真っ赤にした。
正確には、水着が小さくなったのではない。
リーネの胸が、この短期間にまた成長したのだ。
「もう一度購買に行くの、は、
「うわ、すっごいうらやましい」
思わず
正確な数字は軍事機密につき、ここでは発表できないが、2か月ほどしか誕生日が
「じゃあ、明日
芳佳はリーネの手を
「ありがとう、芳佳ちゃん」
と、リーネがホッとした表情を見せたその時。
「……ふうん、水着かあ」
二人の後ろで声。
「ひっ!」
「っ!」
芳佳たちが振り返ると、そこには階段の
「ハルトマン中尉!」
「ど、どこから出てきたんですか!」
「んっと、あっちから」
ハルトマンは自室がある、階段の上の方を指さす。
同郷のバルクホルン大尉と並ぶ、エースのひとりである。
実戦経験が
だが、そんなハルトマンは、バルクホルン大尉とは入隊当初から共に戦ってきたかけがえのない親友同士であり、少し前の戦闘で芳佳がバルクホルンを救って以来、何かと気にかけてくれているのだ。
ただ。
芳佳が他の隊員たちにハルトマンがどういう人なのかと尋ねると、返ってくる答えは決まって
ちなみに……。
「知らぬが花、と言いますわ」
と、目をそらしたのは、ガリア貴族の
「すっごいよね〜、あたしだってあんなに
「ハルトマンか? あははははははははははははははははっ!」
「……こ〜んな感じ?」
スオムスのエイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉が、芳佳に見せたタロットのカードは『
「なあ、近くの街まで行くんだろ? こっちに来たばっかの宮藤じゃよく知らないだろうし、私が案内するよ」
ハルトマンは芳佳にウインクした。
「え、でも……どうしようか、芳佳ちゃん?」
リーネは何度も街まで行っているし、特に案内は必要としていない。
とはいえ、せっかく一緒に来てくれるというのに、断るのもなんである。
「じゃあ、お願いします」
芳佳はあんまり
* * *
そして、
「待った〜?」
ハルトマンが芳佳とリーネの前に姿を現したのは、ミーティングルームの柱時計の針が11時10分を指した時だった。
「え、ええっと?」
「はあ」
顔を見合わせる芳佳とリーネ。
待った、などというレベルではない。
それも後で聞いたところによると、バルクホルン大尉に
「じゃあ、張り切って行こ〜っ!」
ハルトマンは二人の
基地から一番近い街は、首都ロンドンへ鉄道も通じている
ミーナ隊長のお気に入りのレコード店や、シャーリー大尉が
家並みには中世の
「で、水着を売ってそうな店はどこかな?」
広場でバスから降りたハルトマンは、キョロキョロと左右を
「よし! 丁度いいから、あそこに立ってるヒマそうなお
ハルトマンの目に留まったのは、大通りを
「あ、待ってください」
「おっ巡りさ〜ん!」
巡査の前でピタッと止まったハルトマンは、手を上げてにこやかに声をかけた。
「……私はそんなに
ブリタニア警察伝統のヘルメットを
どうやら、ハルトマンが大声で言っていたことが、聞こえていたようだ。
「は〜い、見える、見える!」
正直にハルトマンは答えた。
「ほ、ほう?」
顔を引きつらせる巡査。
「あの〜、この街で水着を売っている店を探しているんですけど?」
リーネが、巡査とハルトマンの間に割り込むようにして
「うん?」
巡査は目を細め、リーネの頭を
「いい子だねえ、妹さんたちを連れて、お使いかね?」
「あ、あの、私は……お姉さんじゃ……なくって……」
胸の大きさで年上と思われたリーネは、胸を小さく見せようと思わず
「ぷっ!」
と、
「それにしてもその制服」
巡査はさらに、三人の軍服に目を留めた。
「ウィッチごっこかね? よく似合っているよ」
「あの、ごっこじゃなくて、私たちは本物のウィッチで……」
「そうですよ! 私は扶桑皇国海軍のええっと……」
「……芳佳ちゃん、
「そうそれ!」
自分の原隊をリーネに教えてもらうあたり、ちょっと情けない芳佳。
「ははは、それなら私はさしずめ
一生
「うぷぷぷっ!」
そんな巡査と芳佳たちのやり取りに、ハルトマンは笑い転げそうになるのを必死で
「あううう」
胸の大きさでリーネより年下に見られるわ、ウィッチだと信じてもらえないわ、散々である。
芳佳はもう
「あの、ところでお店……」
「おお、そうだったね。私は若い女性の行くような店には
巡査は警棒で大通りを指した。
「この通りを北に行くと、向かい合うようにブティックが2
「ありがとうございます。それじゃ」
巡査に頭を下げるリーネ。
「ああ、気をつけて。ああっと、妹さんたちも、お姉さんにしっかりついていって、
背中から巡査に声をかけられた芳佳は、
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