第一章 第三話
「こんなに視界が悪くて、病院なんて見つかるのかな?」
雨足は、
山沿いに進みながら、芳佳の胸のうちで次第に不安が大きくなってゆく。
「何しろこの天気だからな〜。サーニャの力だけが
エイラは
救急車の男たちの話では、カテリーナ病院までは10分ほどの
「宮藤、ケース、落とすなよ」
時々、エイラは芳佳を
「うう、そう言われると、余計落としそう」
ギュッと両手でケースを抱えた芳佳の顔には、不安が大書されたように表れていた。
「代わろうか?」
「うう、そうしたいけど、渡す時に手が
「……どうしようもないな」
そういえば。
さっきは言わなかったが、
道理でツイていないはずである。
「まだ見つかんないか?」
エイラはサーニャを振り返った。
「
そう
「!」
「どうした?」
と、エイラ。
「待って」
サーニャは魔導針に意識を集中する。
「どうしたの?」
芳佳も
「何か……近づいてくるみたい」
「な、何かって?」
「所属不明の飛行体。……こちらの呼びかけに反応なし」
魔導針を
「まさか、ネウロイ!」
芳佳は息を
「その可能性、高いかも知れない」
頷くサーニャ。
「レーダー
エイラはサーニャが指さした方向を
「で、で、でも、予想だと
両手で血液のケースを持っているので、芳佳は背負った
「ちょっと早いけど、最近は
もともと、ネウロイのブリタニアへの
だが、芳佳の入隊する少し前から、その間隔にズレが生じ始めているのだ。
「サーニャ、宮藤。先に行け。私が足止めする」
エイラは足を止め、ホバリングしながらMG42を構えた。
「ひとりじゃ無理だよ!」
「けどな、ここで全員で戦ってたら、血液が間に合わなくなるだろう?」
「でも!」
「お前、自分の力を
「エイラさん……」
「宮藤さん、行こう」
サーニャが芳佳の
「ここは大丈夫」
それでも
「エイラを信じているから」
「く〜っ!」
ここが地上だったら、エイラは
「わ、分かったよ」
芳佳も
「エイラさん、血液を届けたらすぐに戻るからね!」
「それまでに私が
エイラは右手の親指をグッと立ててみせる。
「すぐに戻るから!」
芳佳はそう言うと、ケースをしっかり
「さあ来い!
エイラは接近してくる飛行体に向かって、照準を合わせた。
* * *
(宮藤さん……)
サーニャは
この悪天候の中、芳佳はサーニャを引き
見事な旋回で谷を進むその様子は、ちょっと前までの、いつ失速して落ちてもおかしくない
「絶対に……届けるんだ」
血液のケースをしっかりと
(やっぱり……そうなの?)
以前サーニャは、耳にしたことがあった。
『誰かを守るためとなると、宮藤の中で何かが切り
と、坂本が
「くっ……手が……」
雨で冷えきった芳佳の指は、血の気が
それでも、芳佳は速度をさらに上げた。
「……」
サーニャは芳佳の上方に回り込み、そっと背中から芳佳の
「……これなら、
「でも、これじゃサーニャちゃんが……」
「あと少しだから」
「うん」
二人は身体を重ねたまま、カテリーナ病院を目指した。
* * *
『エイラ、待て!』
MG42のトリガーを
『それは民間機だ!』
インカムからの声が、エイラの耳に
同時に、射線上に飛び込んでくる坂本の姿。
「ええっ!?」
エイラは
「どうしてここに!?」
「まあ、少しばかり心配になってな」
照れ
おそらく、血液輸送の報告を受けてすぐに基地を
「あれはカールスラントの古い民間機だ」
「じゃあ、どうして通信してこないんだよ?」
「それは分からん。接近して確認しよう」
二人は5時方向からコメットに近づいていった。
その
「ブリタニア空軍の
「世界に
「カ、カ、カ、カ、カ〜ルスラントの航空学は世界一ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
老人三人が、
どうやらこの老人たち、空軍に義勇兵として志願したものの、
「見ろ、このドルニエ・コメットの
「ネウロイの一機や二機、わしらの手にかかれば
「……じゃがの、ペーター、わしら、今、どこを飛んでるのかいの?」
老人のひとりが、外を見て首を
「ふんっ! ブリタニアの地理なんぞ、知るもんかい!」
「……要は迷った、ちゅうことか?」
「……」
「……」
三人は顔を見合わせ、
と、その時。
「ウィッチじゃ〜!」
ひとりの老人が、近づいてくるエイラと坂本に気がついた。
「何と、ウィッチとな!」
「ウ、ウ、ウ、ウィッチ〜」
「む、胸がたまらんのう!」
「むむむ、老いたりとはいえ、あの姿態には心がときめくわい!」
老人たちの視線は、自然と坂本とエイラの胸とお
「ぬ、
「ハンスよ! わしは今ほど軍服になりたいと思ったことはないぞ〜!」
「それはともかく、あのお
「そのようじゃの?」
「何じゃろの?」
「無線は通じんかの?」
「無線じゃと? んなもん、さっきあんたが
「おお、そうじゃった〜!」
「何とか話せんかの、あのムチムチのウィッチちゃんたちと?」
「……窓をぶち破ろうか?」
「おお、それがええ」
ハンスはルガーを
「この空域で何をしている!? 飛行予定は聞いていないぞ!」
「迷ったのじゃ〜」
という、老人のひとりの答えに、顔を見合わせる坂本とエイラ。
「無線は!?」
「壊れたのじゃ〜」
またも顔を見合わせる坂本たち。
「
「あれは……いつ
老人は振り返り、他の二人と相談してから答える。
「日が落ちるちょこっと前じゃ〜」
「一番近い飛行場まで約30km……」
坂本の顔が
「燃料が持たないぞ」
と、エイラ。
「我々で機体を支えるしかないな」
「ええ〜っ!」
どうやら、ツイていなかったのは芳佳だけではなかったようだ。
だが、不平を
コメットのプロペラが、プスッと音を立てて停止した。
「エイラ!」
「うん!」
二人はコメットの左右の
だが単発機といえど、総重量は決して軽くはなく、高度が
「くっ!」
歯を食い
だが、そのエイラも気づいてはいなかった。
反対側の翼を支える坂本の方が、より苦痛に顔を
(今の私の
坂本は
「そろそろ……見えてくるはずだ!」
山の
高度はさらに下がり、木々の枝が二人の
そして、エイラと坂本が不時着を
「……見えた!」
地平線上で
「よし! 着陸体勢に入るぞ!」
「
* * *
「このあたりだよね?」
芳佳とサーニャは病院のすぐそばまでやってきていた。
だが、森の中にある病院は上空からだと
このまま、
「見て」
芳佳が
チラチラと見えるのは、どうやらまた
「今度は事故じゃない……あれ、
「
芳佳とサーニャは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます