インターミッション - みっちゃん・いんぽっしぶるⅢ


「え〜、ちよくせん和歌集の中でも三代集と呼ばれるものは、あなた方も知っている通り、きんせんしゆう三集を指しますが、これも古くは……」


 秋の足音が近づいてきていた。

 例によって、午後の横須賀第四女子中学、二年生のある教室では、みっちゃんにとっては退たいくつな国語の授業が続いていた。


「こっそり、こっそり」


 みっちゃんは今朝届いたばかりの手紙を取り出し、教科書の上に広げた。

 もちろん、ブリタニアの芳佳からの手紙だ。



 みっちゃん、やったよ!

 私たち、みんなで力を合わせて、ネウロイの巣をかいしたんだよ!

 あのペリーヌさんが、私にしがみついて大泣き!

 ……まあ、後でそんなこと絶対にしてないって言い張ってたけど。

 それからもしばらくはいそがしかったけど、ようやく、帰れることになりました。

 私たちが横須賀に着くのはたぶん……



「ええ!」


 そこまで読んだところで、みっちゃんはって立ち上がった。

 手紙に書かれていた日付は、まさに、今日のものだったのだ。


「山川さん!」


 国語教師は顔を真っ赤にしてみっちゃんの前に立った。


「今日という今日は許しません! たびかさなるあなたのぼうがいこうで、この学級の授業のおくれは……」


「芳佳ちゃんが帰ってくるんです!」


「はあ?」


「それも今日! 横須賀港にもどってくるんです!」


「芳佳ちゃん……宮藤さんですか?」


 もちろん、国語教師も芳佳のことはよく覚えている。

 成績はまあまあだが、なおで何事にも一生けんめいで……。


「……そうですか、あの宮藤さんが」


「はい! 私、これから芳佳ちゃんをむかえに!」


 と、言いかけたみっちゃんは、国語教師の厳しい表情にはっとなった。


「やっぱり、……ですか?」


「山川さん、あなたひとりが、この神聖な授業をけ出すなど、許されることだと思っているのですか?」


 国語教師は、そうみっちゃんにたずねかける。


「す、すみません」


 かたを落とすみっちゃん。

 だが次のしゆんかん

 教師のひとみは、ふっとやわらかな、温かい色を帯びた。


「でも、みんなで迎えに行くのは構いませんよ。学校全員で、宮藤さんを!」


 きゃーっというかんせいが、級友たちの間から上がった。


「さあ! 行きましょう、横須賀港へ!」


「はい!」


 みっちゃんがまず、教室を飛び出し、ほかの女の子が後に続く。


「芳佳ちゃんが帰ってくるよ!」


「みんなで迎えに行こう!」


「ストライクウィッチーズの芳佳ちゃんががいせんするよ!」


 すべての教室に声をかけて回るみっちゃんたち。


「宮藤さんが?」


「芳佳さんが!?」


「芳佳ちゃんが!」


「にゃ〜」


 生徒に先生たち、それに教頭と校長までもが立ち上がる。

 学校中が芳佳をむかえるために、港に向かって走り出した。


「お、どうしたんだ!?」


 制服姿の少女たちの走る姿を見て目を丸くしたのは、自転車に乗って学校の前を通りがかったじゆんである。


「芳佳ちゃんが帰ってくるの!」


 すれちがいざまに答えるみっちゃん。


「何ぃ〜! こりゃ大変だ!」


 巡査はずり落ちかけたせいぼうを直し、自転車の向きを変えた。


「宮藤ぐんそうが凱旋するぞ〜!」


 巡査は少女たちの後を追いながら、通りすがりの人たちに伝える。


「ブリタニアから、宮藤先生んトコの芳佳ちゃんが戻ってくるのか!?」


よつちゃんが?」


「あのチビッコが?」


「いや〜、あつれ、天晴れ!」


「俺たちも行こうぜ!」


「おうっ!」


 魚屋が、八百屋が、お花のおしようが、なまぐさぼうが、煙草たばこ屋のばあさんが、バンカラ大学生が、香具師やしが、ガキ大将が。

 港へ向かう人の数はだいに増え、やがて、街中の人々がみっちゃんたちとともに走っていた。


「芳佳ちゃん……みんなが待ってたんだよ」


 先頭をゆくみっちゃんのほおを、一筋のなみだが流れる。


「おかえりなさい」


 そのころ

 はるか水平線の上では、芳佳を乗せたふねかげゆうかびつつあった。


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