第四章 第三話


 そのころ

 数時間前までミーナたちがいたはいおくに、別のひとかげが姿を見せていた。


「おい、ボブ、れてるか?」


 中年男の方が、カメラを構えた男に声をかける。


「ええ、バッチリっすよ、キャップ! 今までは、ピンボケのおしりの絵ばっか撮って来やがって、な〜んてよく言われましたけど、今日はかんぺきっす!」


 自信たっぷりでシャッターを切り続ける男。


「だといいがな」


 キャップと呼ばれた男、トリビューン紙の編集長、ジョージ・オーウェルは、写真誌『ライフ』から借りてきたカメラマンに向かって、疑いの目を向ける。


「キャップのお気に入りのロマーニャむすめも、しっかり撮れてますよ!」


「ば〜か、誰のお気に入りだ!」


 と、りながらも、元気なルッキーニのことを思い出すだけで、ジョージの顔はほころぶ。


「ま、ミーナ隊長、こっちもただじゃ動かないんでね。提供した資料に見合う記事は書かせてもらいますよ」


 びんわんジャーナリストは、ニッと笑って明日の紙面をかざる写真を、ロバート・キャパに撮らせ続けた。



  * * *



「コアは赤城の機関部だ」


『赤城』からきよを取ると、坂本は全員に伝えた。


「側面からはかいできそうにないわね。内部から辿たどり着くしか……」


 と、ミーナ。


「内部を知っている私が行く!」


 真っ先に名乗り出たのはやはり坂本。

 だが、えていない坂本を、ミーナとしては行かせる訳にはいかない。


「私が行きます!」


「私も行きます!」


 すかさず芳佳とリーネが名乗り出る。


「わ、私も内部なら多少分かりますわ!」


 ついさっきまで『赤城』に乗っていたペリーヌも。


「ありがとう」


 微笑ほほえみかける芳佳。


「うっ! べ、別にあなたのためじゃありませんわ!」


 ペリーヌはフンッと鼻を鳴らした。


「ペリーヌ、お前がついていてくれれば心強い」


「え? は、はい!」


 坂本に言われ、ペリーヌの顔はかがやく。


「では、その他各員は三人のとつにゆうえん。突破口を開いて」


 ミーナは決定した。


「了解!」



「攻撃開始!」


 雲の上に出た『赤城』に向かってウィッチたちは攻撃をけた。

ほかの連中にがらを残すなよ、ハルトマン」


 両手にMG42で、やる気満々のバルクホルン。


「にひひ……!」


 そんなバルクホルンを出しくように、ハルトマンは一足先に行動を開始する。


「あ、こら!」


「先行くよ〜!」


 固有ほう『シュトルム』を使い、じゆうを破壊しまくるハルトマン。


「私の仕事を!」


 バルクホルンも派手にトリガーを引きまくった。



「右だな」


 こちらは、予知の魔法を使うエイラ。


「うん」


 相手のこうげきを予知で確実にけながら、サーニャにフリーガーハマーをたせていた。

 ビュン!

 先ほどまで二人がいた位置を、ビームが通過する。


「上だな」


「うん」


 ビュ!

 今度は、二人の足のすぐ下である。


ねむくないかぁ?」


「うん。だいじよう


 どんな激しい攻撃を加えようと、心がひとつとなったエイラとサーニャを落とすことは不可能だった。



「攻撃が弱まったぞ!」


 やや上空、少しはなれたところから戦場全体を見つめていたシャーリーは、この機をのがさなかった。


「行っちゃう〜?」


 不敵に笑ったルッキーニは、シャーリーの胸に頭を乗っけた。


「ゴーッ!」


 ルッキーニをかかえたまま、船首のウォーロックに向かって降下するシャーリー。


「行っけ〜っ! ルッキーニッ!」


 シャーリーは、ルッキーニの身体からだをウォーロックめがけて投げつける。


「あっちょ〜っ!」


 多重シールドを張ったルッキーニは、ビームをものともせず突撃。

 固有魔法の光熱攻撃でウォーロックを破壊し、船首に大穴を開ける。

 突破口が開いた!


「ほにゃ〜っ!」


 傷ひとつなくもどってくるルッキーニ。


「ルッキーニちゃん!」


「芳佳、行っちゃえ〜っ!」


「行きますわよ!」


 うながすペリーヌが、開口部から『赤城』内部にせんにゆうする。


「うん!」


「はい!」


 芳佳とリーネは後に続いた。



かくへきが!」


 三人が内部に潜入してすぐのところに、進路をふさぐ隔壁があった。


「リーネちゃん!」


 り返る芳佳。


「はい!」


 ドゥ!

 リーネの対そうこうライフルが、分厚いとびらをぶち破る。

 これでまず通路を確保、と思ったのもつかの間……。


「!」


 次の区画では、芳佳たちは激しいビームにさらされた。

 芳佳もリーネも、とつぜんの攻撃に武器をかいされる。


「ちょっ! 武器を失うなんて!」


 これで攻撃が可能なのは、ペリーヌひとりだけだ。

 ビームをシールドだけでやり過ごし、三人はさらに奥へと移動する。


「この奥ね」


 またも障壁。

 だが、今度はおそらく最後の障壁だ。

 ペリーヌは機関室前の扉に向かってトリガーを引いた。

 ダダダダダダダダッ!

 だが、ペリーヌの武装はけいかんじゆう

 隔壁はびくともしない。


「この銃じゃ無理ですわね」


 ペリーヌは銃を投げ捨て、隔壁の前に立つ。


「そんな!」


「ここまで来たのに」


 と、かたを落とす芳佳とリーネ。

 しかし。

 進み出たペリーヌの背中は、自信に満ちていた。


「ペリーヌさん……?」


「最後に取っておくつもりでしたのに」


 しよう混じりのペリーヌの身体が、青白くかがやく。

 そして。


「トネール!」


 らいげきが、隔壁を機関室内部へとはじき飛ばした。

 芳佳たちは『赤城』の中心部へと乗り込んだ。


「っ!」


 三人が目にしたのは、今まで見たことのないほどきよだいなコアだった。

 ウォーロックと『赤城』を取り込んだコアは、三人の眼下でじやあくな赤に脈打っている。

 だが、今の芳佳たちに、コアを破壊できる武器はない。


(ここまで来て)


 と、くちびるむ芳佳。

 だが。


(……あった。ひとつだけ)


 芳佳はすっと、コアの方に身を乗り出した。


「芳佳ちゃん!」


「宮藤さん、何をする気ですの?」


 リーネとペリーヌは怪訝けげんそうな顔で声をかける。


「リーネちゃん、ペリーヌさん、私を支えて」


 芳佳は二人に両手をつかんでもらうと、いったんプロペラを止め、逆方向に回転させ始めた。

 ストライカーは芳佳の足からげ落ち、コアに向かって落ちてゆく。


「ありがとう」


(今までありがとうね、お父さんのストライカー……)


 パーン!

 ストライカーが命中すると、巨大なコアははじけ飛んだ。



「やったな」


 芳佳たちがやりげると信じて待っていたシャーリーは、かんがい深げにつぶやいていた。

『赤城』は白いけむりを上げながら、ゆっくり降下してゆく。

 そして、雲の下に出たあたりで、れつしたかのように細かなけつしようとなって海に降り注いだ。


「……あ、芳佳だ!」


 と、ルッキーニが手をる先には、リーネ、ペリーヌ、芳佳の姿があった。


「芳佳ちゃん」


 芳佳をきしめるリーネ。


「ふん」


 何でこの私がこんなまめだぬきを!

 と言うようにき放すペリーヌ。


「やった! やったよ、芳佳ちゃん! 芳佳ちゃんがやっつけたんだよ!」


「う、うん」


「あれは……」


 振り返ったペリーヌは、自分の目を疑った。

 ガリアをおおっていた黒い巨大なうずが、散っていっているのだ。


「ネウロイの巣が……」


「消えてゆくぞ!」


 と、坂本とシャーリー。


「んんん〜……勝ったああああああああっ!」


 ルッキーニが右手を高く突き上げる。


「ガリアが……私の故郷が……解放された」


 この時のために戦ってきたペリーヌである。

 今は、自分のおもいのすべてを語れる言葉がない。


「すごい! すごいよ、芳佳ちゃん!」


「うん」


 これでネウロイと分かり合える機会も消えてしまった。

 そう思うと、気持ちは複雑な芳佳ではあったが……。


「……終わったな」


「ええ」


 坂本を振り返り、微笑ほほえんだミーナがみんなに告げた。


「ストライクウィッチーズ、全機、かんします!」


りようかい!」



  * * *



 1944年9月。

 ガリア地方のネウロイの完全しようめつかくにんされた。

 これをもって、正式に第501統合せんとう航空団、ストライクウィッチーズは解散した。



 その後。


 ミーナ、バルクホルン、ハルトマンの三名は、祖国カールスラントの防衛戦線に復帰。

 エイラ、サーニャの両名は、東部戦線へ。

 シャーリーとルッキーニは、アフリカ戦線へ。

 ペリーヌとリーネは、こうはいしたガリアの復興に努め、坂本は扶桑でおに教官として後進の指導に当たっているという。


 そして……。


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