第四章 第二話


「あ!」


 基地のすぐそばまでもどってきていたリーネは、開けた場所でいったんロールスロイスから降りると、芳佳が戦う様子をの当たりにしていた。


「あれはウィッチですか?」


 背中に立った運転手がたずねる。


「ええ……」


 空を見つめたまま、うなずくリーネ。


「私の友だち……一番大切な友だち」


 リーネはきびすを返し、ロールスロイスに向かって走りだした。



  * * *



「!」


 芳佳はウォーロックをり切れず、前に回り込まれていた。

 至近きよじゆうこうを向ける芳佳に対し、ホバリングするウォーロックはいったん、ビームこうげきめ、胸部のハッチを開いた。

 り上がってくるシリンダー状のカプセル。


「ああっ!」


 芳佳はしようげきを受けた。

 シリンダーに納められていたのは、あの、ついらくしたネウロイから回収されたコアの破片だったのだ。


「……」


 芳佳は引き寄せられるように、そのコアに手をばす。

 あの時と、人型ネウロイが自分のコアを見せた時と同じように。


(心が通じ合える?)


 ふるえる芳佳の手。

 だが。

 芳佳がうでと腕の間に入ったしゆんかん

 ギュウウウウウウン……バシュッ!

 ウォーロックはビームを発射した。


「きゃあっ!」


 一瞬、シールドを張るのがおくれていたら。

 芳佳も、人型ネウロイと同じように消し飛んでいるところだ。


「……ちがう」


 だましちにあったことで、逆に芳佳の決意は固まった。


「これはあのネウロイじゃない!」


 グイーン!

 ウォーロックはシリンダーを元に戻し、ハッチを閉じる。


「これは……敵なんだ!」


 芳佳は13mm機関銃を構え直し、変形して『赤城』へと向かうウォーロックの背後についた。



「すごい」


「ああ。あの化け物とかくの戦いとは」


 そんな芳佳とウォーロックのせんとうを、かんぱんから見上げるペリーヌと坂本。

 だが、ネウロイのビームがまたもや『赤城』をおそい、甲板がさらにかたむく。


「!!」


「きゃあああ!」


 投げ出される二人。


「!」


 芳佳もこれに気がつき、助けに向かおうとするがウォーロックのビームがこれをはばむ。

 甲板にかろうじて左手をかけたペリーヌは、右手一本で坂本の身体からだを支えていた。



  * * *



「つまりだ。宮藤がネウロイとせつしよくしようとしたから、やつらはあわてて尻尾しつぽを出したって訳さ。分かるだろう、ミーナ?」


 ハンガーへと走りながら、バルクホルンは得意満面でマロニーのこれまでの行動を解説していた。


「うん、はいはい」


 そんなことはとっくに分かっているミーナだが、さすがはウィッチーズのお母さん的存在。

 がおでこれにうなずいている。


「だろ、エーリカ?」


 バルクホルンはごていねいにも、ハルトマンにまでかくにんする。


「あ〜、もう私の知ってるトゥルーデじゃない〜」


 どうやら、ハルトマンのいだくバルクホルンのイメージは、知的な美少女からはほど遠いようだ。

 そんな三人がハンガーにとうちやくすると。


「ん〜」


「……」


 そこにはふういんされた入口を見上げ、どうしようかしゆんじゆんしているエイラとサーニャの姿があった。


「エイラさん、サーニャさん」


 声をかけるミーナ。


「……」


「あっ!」


 エイラはり返って、しまった、というような顔をする。


「お前たち、何でもどってきたんだ?」


 と、バルクホルン。


「あ、えっと、あの……れ……列車がさ〜」


 エイラは苦しい説明をしながらほおを赤くした。


「ほら、二人ともてたら、始発まで戻ってきちゃって〜……あ、うう……仕方ないから、ここの様子でも見ようかな〜って。……なあ、サーニャ?」


 エイラはサーニャに助けぶねを求めるが、サーニャの方は……。


「今、芳佳ちゃんが戦ってる。私たち、芳佳ちゃんを助けに来た」


 正直な子である。


「うああっ! サーニャ、おい!」


なおじゃないな〜」


 と、ろうばいするエイラを見て、にやけるハルトマン。


「私たちも同じよ」


 ミーナがそう言うと、バルクホルンは慌てて振り返る。


「えっ! ち、違う! 私は違うぞ!」


「そんなことよりさ」


「すぐに始めましょう」


 ミーナとハルトマンはバルクホルンをうながした。



 バルクホルンはH鋼を打ち込んでふさがれた入口の前に立つと、ジャーマンポインターの耳と尻尾を発現させた。

 バルクホルンの固有ほうかいりき


「ぬうううううううううううううっ!」


 数トンはあるH鋼をつかむと、それをじりじりと引きいてゆく。


「どおりゃああああああああああああああああっ!」


 宙をったH鋼は、にぶい音とともにかつそうに落ちた。



  * * *



「しょ、しよう! だいじようですか!?」


 甲板からぶら下がったペリーヌは、坂本の手をぎゅっとにぎったまま声をかけた。


「もういい、ペリーヌ! はなせ!」


 このままでは二人とも海面にたたきつけられる。

 しずみゆく『赤城』と運命をともにすることになるのだ。


「そ、その命令だけは、絶対聞けません!」


 ペリーヌは入隊して初めて、坂本の命令に従うことをこばんだ。



  * * *



「坂本さん!」


 何とか坂本たちに接近しようとする芳佳だが、ウォーロックはそれを許さなかった。

 せんかいとシールドで、何とかビームを防ぐ芳佳。

 だが、そのすぐそばを『赤城』に向かってえがきながら飛ぶえいがあった。

 オレンジ色のソードフィッシュ。

 もちろん、シャーリーとルッキーニである。


「ルッキーニ!」


 と、シャーリー。


「いぇい! じゃじゃじゃ〜ん!」


 後部座席のルッキーニは立ち上がり、多重シールドを展開する。


「ル、ルッキーニちゃん!?」


 おどろく芳佳の後方を、ソードフィッシュを追ってウォーロックが急降下した。

 たくみな操縦テクニックで、シャーリーはビームの雨をくぐり、『赤城』に接近する。


「っ!」


 芳佳の放ったじゆうだんがウォーロックの背後に命中し、ウォーロックはソードフィッシュからはなれた。

 一方、『赤城』では。


「ペリーヌ!」


「も、もう……」


 ペリーヌの限界が近づいていた。

 そこに。

 ズギューン!

 ウォーロックによる、さらなる『赤城』へのこうげき


「きゃあ!」


 しんどうで、ペリーヌの手が離れる。


「ああっ!」


 芳佳は落ちてゆく二人を追うが、間に合わない。


「きゃああああっ!」


「……」


 ペリーヌをかばうようにきしめる坂本。

 その真下に、すべり込んだのがソードフィッシュだ。


「よっしゃあああああっ!」


 思わずガッツポーズのシャーリー。

 坂本とペリーヌの身体からだは、スッポリと後部座席に納まっている。


「ナイスキャッチ!」


「おっかえり〜!」


 ニッと笑うルッキーニ。


「やったあっ!」


 かんぱんめるように飛びながら芳佳もさけんでいた。



  * * *



「待ってて、芳佳ちゃん。今行くから」


 リーネは基地内の森をけ、ハンガーのそばまで来ていた。


「リ〜ネ〜!」


 そんなリーネに向かって、着陸するソードフィッシュ上から手をるルッキーニ。


「あ……ああ……」


 リーネは信じられないといった顔になる。

 ミーナ隊長、坂本しよう、ハルトマンちゆう、バルクホルン大尉、シャーリーさん、エイラさん、サーニャちゃん、ルッキーニちゃん、ペリーヌさん……。

 みんながここにいるなんて、夢ではないかと思う。


「わあ、来た来た!」


 ハルトマンもリーネに微笑ほほえみ、手を振った。


おそいぞ、リネット・ビショップ!」


 いつも通りのバルクホルン。


「お帰り」


 ミーナは微笑んだ。


「あなたが最後よ」


「はい!」


 みんなのもとに駆け寄りながら、リーネは笑顔で答えた。



  * * *



「はあはあ……」


 芳佳とウォーロックのとうは続いていた。

 ほう力ももう限界。

 芳佳の息は上がっている。

 いつしゆんすきいて正面に回ったウォーロックはしゆうのようにビームを浴びせた。


「!」


(もうシールドが持たない!)


 と、芳佳があきらめかけたその時。

 バーンッ!

 はるか彼方かなたからの銃弾が、ウォーロックのきやくに命中した。

 あしの半分がき飛んだウォーロックは白いけむりを上げながら『赤城』にげきとつ

 ともに、海中へとぼつしてゆく。


「……やった」


 つぶやく芳佳。


「芳佳ちゃん!」


 必殺の一段を放ったのは、リーネである。


「赤城が……」


しずんでゆく」


 扶桑軍人たちは『赤城』のさいに悲しみをかくせない。


「お待たせ!」


「芳佳〜!」


「みんな!」


 ストライクウィッチーズは芳佳のもとに集まってきた。


「よくえたな、宮藤!」


 ペリーヌとミーナにりようわきから支えられた坂本が声をかける。


「坂本さん」


 安心の表情の芳佳。


「これは必要なくなったようだなあ」


 芳佳のストライカーをかかえてやってきたバルクホルンは言った。

 だが。


「そうでもないかも」


 と、『とう』のカードを見つめながら、呟くように言ったのはエイラだった。


「えっ?」


 と、サーニャとリーネ。


「ほら、見て」


 タロットの『塔』はさいやくほうかい、終局を示す最悪のカード。

 エイラの視線の先で、きよだいな水柱が上がった。


「な、何だ、あれは!」


「まさか……」


 ざわめくきゆうめいていの『赤城』クルー。

 海面下から姿を現したのは、赤と黒に染まった『赤城』だった。


「あ……ああ……」


 船首部分には、先ほどげきついしたはずのウォーロックが。


「ウォーロックが……赤城と……」


 息をむ坂本の前で、『赤城』は空へとい上がった。

 ウィッチたちは芳佳がいていたストライカーを持ち主にもどし、芳佳には自分のストライカーを身につけさせる。


「ありがとう、ペリーヌ」


 坂本はペリーヌの手を借りる。

 芳佳は、バルクホルンとシャーリーのお姉さんコンビとだ。

 二人がストライカーを履くのとほぼ同時に、『赤城』はビームをいつせい射撃した。

 ウィッチたちはいったん散り、『赤城』を追う。


「美緒、できる?」


「ああ、だいじようだ」


 ミーナと坂本は手をつなぎ、魔法力を合わせた。


「な、何だ、これは!」


 ミーナの空間あく能力と坂本の魔眼がかび上がらせたのは、かんしゆゆうごうしたウォーロックから、まるで血管のように『赤城』全体に広がった赤い光の線だった。


「ウォーロックと赤城が融合している」


 と、ミーナ。


「これじゃ手のつけようがないわね」


「だが、やるしかない」


 坂本は言った。


「あれはもう、ウォーロックでもネウロイでもない。別の存在だ! 我々ウィッチーズが止めなければ、だれもあれを止める者はいない!」


「あ……来ます」


 サーニャの魔導針が次のこうげきを察知した。

 かつて『赤城』だったものは、ほうこうと共に全方位にビームを放った。

 これをかわしながら、巨大な船体に近づいてゆくウィッチたち。


「ストライクウィッチーズ、全機攻撃態勢に移れ! 目標! 赤城、およびウォーロック!」


 ミーナは命じた。


りようかい!」



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