第四章 ストライクウィッチーズ  ──または、ガリアの解放

第四章 第一話


「駄目だ」


 小ばくはつり返しながら沈んでゆく、空母『赤城』のかんぱん上。

 自分が飛ぶと進み出た芳佳に対し、ペリーヌに支えられた坂本は厳しい顔で告げていた。


「これは上官の決定だ」


 だが。


「私、あきらめたくないんです!」


「諦める……?」


 芳佳の強い調子に、坂本はたじろぐ。


「坂本さんは……坂本さんは死ぬ気です!」


「!」


 ペリーヌは息をんだ。


「でも、それって諦めるってことですよね?」


 芳佳の小さなこぶしが、ぎゅっとにぎりしめられる。


「私は……私は諦めたくありません!」


「!」


 大きく目を見開く坂本に向かい、芳佳は続けた。


「私、守りたいんです!」


「……守りたい、か。その台詞せりふ、何度聞かされたことか? ……ふ、ふふふ、はははははは!」


 坂本は大笑すると宮藤に命じた。


「宮藤! 出撃準備だ!」


「はいっ!」



  * * *



 シャーリーたちの乗るソードフィッシュは、『赤城』に接近しつつあった。


「あれは?」


 こくえんを上げてしずんでゆく赤城を見て、シャーリーはまどう。


「扶桑の空母だよ。何でウォーロックがこうげきしてるの?」


 ルッキーニにも訳が分からない。


「私に聞くなって〜の!」


 ともかく、もっと近づいてじようきようかくにんだ。

 シャーリーはソードフィッシュを加速させる。


「飛ばすぞ!」


「おうよ!」



  * * *



「10時方向高度2000。ほぼ直上にウォーロックです」


 坂本の身体からだを支えたまま、ペリーヌは報告した。

 ストライカーを身につけた芳佳に、まめしばの耳と尻尾しつぽが現れる。


「右のエンジンが回り始めにき込みやすい。気にせずぶん回せ!」


 助言する坂本。


りようかい!」


 13mmかんじゆうを手に、うなずく芳佳。


「敵、来ます!」


 黒いウォーロックがこちらに向かって急降下してくる。


「行け、宮藤!」


「はい!」


 芳佳はストライカーのプロペラを回し、かつそうし始めた。

 その芳佳に向けて、ウォーロックのビームが放たれる。


「ああっ!」


 爆風ではね飛ばされ、空中高くい上がる芳佳の身体。


「宮藤!」


 坂本は力の入らない足で走り、落下してきた13mm機関銃をつかむ。


「少佐!」


 悲鳴に近い声を上げるペリーヌ。


「飛べええええええっ! 宮藤いいいいいいいいっ!!」


「!!」


 いつしゆん意識を失い、海面に落下しかけていた芳佳は、坂本の言葉に目を覚ます。


「ったああああああああっ!」


 ドウッ!

 白い水柱を上げ、芳佳は飛んだ。


「やりましたわ!」


 急じようしようする芳佳を見て、ペリーヌはさけぶ。

 だが、かんぱんの坂本とペリーヌに、ウォーロックはねらいを定めた。


「!」


 坂本をかばうように前に出るペリーヌ。


「やああああああっ!」


 芳佳が射線上に飛び込み、シールドを展開するのと同時に、ペリーヌはウォーロックに向けて坂本の手からうばった13mm機関銃を乱射する。

 いったん、きよを取るウォーロック。


「よくやった、ペリーヌ!」


 坂本はペリーヌのかたに手を置いた。


「はい!」


 晴れやかな顔で答えたペリーヌのひざは、ほんの少しふるえていた。



  * * *



「何だぁ? 宮藤がウォーロックと戦ってるぞ!」


 ソードフィッシュのシャーリーは、ますます状況が分からないという顔になっていた。


「芳佳を助けなきゃ!」


 と、ルッキーニ。


「ああ!」


 無論、どちらにつくかといえば、芳佳に決まっている。

 だが。


「……あっ! こいつ、武装なんてしてないぞ!」


 かんじんなところで役に立たない『世界最速のリベリアン』だった。



  * * *



「宮藤さん!」


 ペリーヌは太陽に向かって13mm機関銃を投げていた。

 それを摑む芳佳。


いつけ! 宮藤!」


 坂本の声が飛ぶ。


「うぉ〜っ! ウィッチだ! ウィッチが来たぞ!」


 戦う芳佳の姿に、きゆうめいていの『赤城』クルーもいちの希望をいだしてかんせいを上げる。


「あれは……宮藤さん!?」


 それは、いち早く宮藤の実力を認めていた杉田かんちようも同様だった。



  * * *



 ドゴッ!

 バカッ!

 ベキッ!


「……ふふん」


 固有ほうをほんの少しだけ使って副官をたたきのめしたバルクホルンは、すっきりとした顔をしていた。


「ひぃ〜!」


 震え上がるマロニー子飼いの兵士たち。

 ウォーロック隊司令部は、今や完全にミーナ、ハルトマン、バルクホルンの三人にしようあくされていた。


「我々をどうする心算だ?」


 武装解除されたマロニーは、半ばくされ気味にたずねた。


「どうする、ミーナ?」


 楽しくてしょうがないといった口調のバルクホルン。


「……ふう」


 ファイルに目を通していたミーナはため息をついた。

 事実をじ曲げたかんていへの報告書。

 にせ情報のマスコミへのリーク。

 ウィッチに好意的な新聞社や雑誌社への、いやがらせ。

 本来ならウィッチーズに支給される物資のいんぺいに、予算の目的外使用。

 ここにある資料は、ミーナの友人──トリビューン紙のオーウェル編集長──からの情報を裏付けるものばかりだった。


「ウィッチーズをおとしいれようとして、ずいぶんいろいろとなさったようですね、閣下」


 あまりにもこつなそのり口に、ミーナはいかりを通りしてあきれるしかない。


「!」


「う」


 バルクホルンににらまれ、マロニーは身をすくませる。


「ウィッチをえる力を得るため、敵であるネウロイのテクノロジーを利用。しかも、その事実をかくそうとして、ウィッチーズを無理矢理解散に追い込もうとした」


 人類全体を危機に陥れてまで、権力を求める。

 その考え方に、ミーナはついていけない。



「良い計画でしたが、宮藤さんの、軍の理解を超えた行動にあわてて動いたのが失敗でしたね」


「もっと……もっと早くに宮藤を信じてやっていれば」


 バルクホルンはこうかいの念を隠せない。

 と、その時。


「ああ〜っ!」


 難しい話は分からないのでボ〜ッと窓から外を見ていたハルトマンが、ミーナたちをり返った。


「お〜い、大変だ! 『赤城』がしずみそうだよ!!」


「!」


 おおかみの耳と尻尾しつぽを出し、魔法力を使うミーナ。


「あっ! ウォーロックとウィッチが戦ってる! だれだ!?」


 ハルトマンは目をらす。

 自分たちのストライカーは、格納庫にふういんされたまま。

 となると、他の隊からのきゆうえんだろうか?


「……宮藤さんだわ!」


 空間あく能力を発揮したミーナが答える。


「宮藤が!?」


「あり得ん! お前たちのユニットは、すべてハンガーに封印されているはずだ!」


 もっともきらっているウィッチの名を聞いて、どうようしたマロニーはさけんだ。


「!!」


 ハッとするバルクホルン。

 確かに現在、宮藤がストライカーを使えるはずがないのだ。


「このユニットの波形は……」


 ミーナの探査能力は、さらにストライカーの固有波形をとらえる。


「美緒のストライカー!?」


「うっそ〜っ!」


 目を丸くしたハルトマンは窓にへばりつく。


「やるなあ、宮藤」


「敵をあざむかんとすれば、まず味方から、か」


 ふふっと笑ったバルクホルンは、マロニー一党をしばり上げるべく、コードを手にする。


「さすが、坂本しようだ」


 実際には、シーツを丸めたものをストライカー代わりにほろかぶせて置きっ放しにしてきただけなのだが。


「宮藤さん一人では、時間かせぎが精いつぱいよ。行きましょ」


「それもそうだな。行くか!」


 け出すミーナと、続くハルトマン。


「わっ! 待って待って待って〜っ!」


 兵士どもを縛り上げたバルクホルンは、慌てて後を追った。



  * * *



(どうして……どうしてウォーロックが『赤城』を!? それにまるでネウロイみたいな……)


 ウォーロックとのドッグファイトの最中さなか、芳佳は考えていた。

 頭をぎる、人型ネウロイが見せてくれた光景。

 研究せつのネウロイのへん

 そして、それを製作ちゆうのウォーロック。


「ネウロイ!」


 そう。

 今のウォーロックは、ネウロイになってしまったとしか思えない。

 ギューン!

 せんかいし、正面からせまってくるウォーロック。


「でも、もしネウロイだったら?」


(あの人型と同じように……分かり合えるかも……)


 迷いが生じ、トリガーにかかった指が止まる。

 そんな芳佳に向かって、ネウロイはビームを放った。



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