第三章 第三話


 じようきようじんそくに展開していた。


「ウォーロック0号機、準備整いました」


 司令部内、パネルを操作していた係員が報告する。


「これより、ガリア地方制圧に向かわせます」


「うむ」


 副官の言葉にうなずいたマロニーは命令を下した。


「ウォーロック0号機、発進せよ!」


 ジェットふんしやで浮き上がり、かつそうから急角度で飛び立ったウォーロックは、形態を変え速度を上げる。


「飛行形態に変形かんりよう!」


「ガリアへのどうへんこうかくにん。すでに音速にとうたつしました!」


「ふっ……、どうだ? 生意気なあのじよたちとはまったくちがう!」


 順調な出だしに、マロニーのほおゆるむ。


「ウォーロックこそ、我々のネウロイ研究の成果なのだ!」


「技術主任は、実戦投入にはもう少し出力レベルを整えたいとのことでしたが?」


 かすかな不安を口にする副官。


「そんなことは分かっておる! だが、ウィッチを追放した今、我々が戦うしかないのだ! 実績が必要なのだよ。ネウロイをせんめつし」

 マロニーのひとみはすでに目先の戦いの向こうをえてい

た。


「そして、世界のイニシアチブをにぎるために!」



  * * *



「さっそくガリア制圧作戦か」


 廃屋のペリスコープで基地の動向をかんしていたバルクホルンはつぶやいた。


おおいそがしだね」


 と、忙しいのはだいきらいなハルトマン。


「軍の上層部に、ウォーロックの強さを認めさせたいのよ。そして、量産の支持を取りつけたい。それにしても、ウォーロックが一機しかないのに実戦なんて」


 ミーナは顔をしかめる。

 資料を見る限り、ウォーロックにとうさいされているシステムは、複数機戦場に投入して初めて効果を上げられるものなのだ。


「戦果を上げてかくしたいことがあるんじゃないのか〜」


やつらの化けの皮をがすチャンスだな」


 そんなバルクホルンの横顔を見て、ハルトマンはキシシシッと笑う。


「何だ?」


 いぶかしげにり返るバルクホルン。


「やる気だねえ。やっぱり、宮藤のため?」


「! な……! な、な、な……!」


 ムキになればなるほどハルトマンを喜ばすことに、マジメなバルクホルンはまだ気づいていない。


「ふふふ」


 そんな二人を見て微笑んだミーナは告げる。


「監視を続けましょう」


「あ、ああ」


 こんな奴!

 無視だ、無視!

 バルクホルンはペリスコープに意識を集中した。



  * * *



「ウォーロックだ」


 りくしようとしていたシャーリーは、一直線に飛んでゆくウォーロックのえいに気がついた。


「あの音、好きじゃないな」


 呟くルッキーニ。

 エンジンの音としては、シャーリーのP51‐Dに搭載されているP・マーリンV‐1650‐7の、耳をつんざくような音の方がずっと好きである。


「もうしゆつげきかよ」


 まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供が、はしゃいでいるかのようだ。

 シャーリーにはそう思えてならない。


「イ〜ッ! やられちゃえ!」


 ルッキーニはウォーロックに向かって、なおに敵意をき出しにする。


「おいおい」


 しようするシャーリー。


(ま、あの新型がどんな戦果を上げようと、もうあたしには関係ないさ)


 シャーリーはエンジンを始動し、ソードフィッシュをかつそうさせ始める。

 そうじゆうかんを握った感じはそう悪くないが、ストライカーで飛ぶのに慣れた身には、やはり機体は重く感じる。


(でも、この基地で出会ったみんな……)


 やがて、機体はゆっくりとかび上がり、離陸した。


(うん。悪くなかったな)



「な、なんか安定しないぞ」


 数分後。

 シャーリーはソードフィッシュを相手に悪戦とうしていた。

 ジイサン三人組はたいばんを押したが、あまりエンジンの調子は良くないようだ。


(マジで……ロマーニャまで持たない気が)


「……ねえ、シャーリー」


 後部座席から、ルッキーニが声をかける。


「これ、な〜に?」


 ルッキーニがシャーリーに差し出して見せたのは、一本のネジである。


「ネジだろ……って、ネジ!」


 シャーリーの顔は真っ青になった。


「こんなにあるよ、ほ〜ら」


 と、座席の下に落ちていたネジをすくい上げてみせるルッキーニ。

 エンジンがみような音を立て、機体全体がしんどうし始める。


「あ、あのジイサンども〜っ!」


 ソードフィッシュはシャーリーのぜつきようとともに、青空に吸い込まれていった。



  * * *



「!!」


 ウォーロックは、『赤城』のかんぱん、芳佳たちの頭上すれすれのところを通過して、ネウロイの巣へと向かっていった。


「左デッキへ!」


「は、はい」


 坂本にうながされ、ペリーヌはげんへとくるまを押してゆく。


「ガリアへか……」


 ウォーロックが消えていった方向を見つめ、坂本はつぶやく。


「さっそくですわね」


 と、ペリーヌ。

 ネウロイの巣の下部からは、ウォーロックに向けてビームが放たれた。


「ネウロイの巣が」


 芳佳の立つ『赤城』の甲板からも、飛びうビームはにんできる。

 やがて。

 巣からネウロイが出現した。

 ビームのいつせい射撃をかいくぐったウォーロックはビームでたいこうし、いつしゆんでネウロイをほうむり去る。


「! 一撃でネウロイを!!」


 がんでこの様子を見ていた坂本は息をんだ。


「あ……」


「な、何というりよくですの?」


 かいされたネウロイが発する特有の白いけむりを見た芳佳とペリーヌも、おどろきをかくせない。


「おかしい……何故なぜウォーロックはビーム兵器を使えるんだ?」


 疑念を口にせずにはいられない坂本。

 明らかに、ビームは今の軍の技術水準では開発不可能な兵器だ。

 と、その時。


「あ!」


 芳佳が小さな声を上げた。


「どうした、宮藤?」


「見たんです。ネウロイが見せてくれたんです!」


 おく辿たどった芳佳は、さらに思い出した。


「ウォーロックは、ネウロイと会っていたんです!」


「ウォーロックがネウロイとせつしよくしていただと!」


「あり得ませんわ! ネウロイは敵ですのよ! それに、ネウロイの技術を手に入れたのなら、私たちにも報告があるはずですわ」


 ペリーヌはお話にならない、といった顔になる。


「でも……」


 それでも、自分の見たものがまぼろしやネウロイのにせ情報とは思えない芳佳。


「本来ならあり得ない」


 坂本はそう言いながらも、考え込んだ。


「……だが、つじつまは合う」


「え?」


 坂本の言葉がペリーヌの心にもわくの明かりをともす。


「もし、敵がネウロイだけでないとしたら」


 坂本は芳佳を見上げた。


「……宮藤、お前の行動はあながではなかったかも知れん」



  * * *



「ウォーロック0号機、ネウロイをげきしました」


 レーダー上からネウロイのかげが消えたのを確認した兵士が、マロニーに報告した。


「はははは! 見ろ! はや、我々の力はネウロイをえたのだ!」


 シャンパンのせんでもきそうなくらいに勝ちほこるマロニー。

 しかし。

 一瞬後、レーダー兵たちの顔色が変わった。


「どうした? 何が起きている!?」


 と、マロニー。


「ネウロイが2機出現しました」


「いえ、3機です!」


 すぐさまていせいが入る。

 どうやら、ネウロイの巣から、次々とネウロイが出現しているようだ。


「何!?」


 あせりを見せる副官。


「構わぬ、せんめつしろ!」


 マロニーの命令に従い、変形をり返しながらネウロイをち落とすウォーロック。

 だが、その出現するネウロイは、だいに増えてゆく。



  * * *



「……おかしい。ネウロイのこうげきパターンが今までと明らかにちがう」


 この様子を魔眼で『赤城』上から観察していた坂本もつぶやく。


「何が……何が起こっているんだ!」



  * * *



「ネウロイの数、8! 9!」


 司令部では、絶望的なじようきよう報告がなされていた。


「ウォーロックの処理能力は、限界です」


 白衣の研究員が進言した。


「くっ! ……コアコントロールシステムをどうさせろ!」


 マロニーは表情をゆがませながら命じた。


「しかし、コントロールするには、共鳴させるコアを持ったウォーロックが5機以上必要です!」


 と、白衣の研究員。


「うぬぬぬ……」


 警報が鳴りひびいた。


「!?」


「コ、コアコントロールシステムが勝手に動いています!」


 システム管制に当たっていた兵士がさけぶ。


「何!」


「ウォーロック自らがコアコントロールシステムを稼働させたようです!!」


 パネルにけ寄ってかくにんした白衣の研究員は、予期せぬ事態にとうわくかくせなかった。



  * * *



 ネウロイの巣の下部では、赤い無数の光がてんめつしていた。


「何が起こっているのです!?」


 と、『赤城』上のペリーヌ。


「ネウロイの数がはんじゃない!」


 がんで観察を続ける坂本の声もきんちようしている。


「ああ……」


 何か、てつもなくおそろしいことが起ころうとしているのを感じ、芳佳は身をふるわせた。



  * * *



「ウォーロックのコアコントロールシステム、正常に稼働しています」


 システム管制担当の兵士は、ウォーロックに内蔵されたコア──ネウロイのざんがいから回収したもの──に問題がないことを確認し、マロニーに報告した。


「……」


「すべてのネウロイを支配下に置きました。予想以上の成果です!」


 と、研究員。


「うむ!!」


 司令部の緊張がほっとゆるむ。

 パネルに示されたウォーロックとネウロイ群。

 ラインで蜘蛛くもの巣のようにつながったネウロイが、真っ赤に染まったかと思うと、現実の空ではネウロイがネウロイをビームで攻撃し始めた。



  * * *



鹿な! ネウロイがネウロイを攻撃している!」


 芳佳には白いばくえんが無数に発生しているようにしか見えなかったが、坂本の魔眼はこの状況を正確にとらえていた。


「そんな! 同士ち!?」


 と、ペリーヌ。


「まさか! ウォーロックがネウロイをあやつっているのか!?」


「え!?」


 坂本の推測にハッとなる芳佳。


「そんなことって……」


 ペリーヌはまだ目の前で起きている事態を信じることができなかった。



  * * *



 司令部のモニター上では、ネウロイを示す赤い光が次々と消えてゆき、やがて……。


「ネウロイをせんめつしました!」


 モニターかんいんが報告すると、兵士たちの間にかんせいともため息ともつかぬ声が上がった。

 しかし。


「っ!?」


 いつしゆん後、コアコントロールシステム管制の兵士が息をんだ。


「どうした!?」


 副官の険しい声。


「いえ、それが……」


 説明にしゆんじゆんする兵士。


「こちらからのせいぎよしやだんされました!」


 白衣の研究員が息を呑んだ。


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