第二章 第三話


「まだ、出てこないね」


 巣の前で待っていたルッキーニは、つぶやいていた。

 もうかなりの時間がっている。

 ウィッチたちの顔にも、不安がぎったその時。

 人型ネウロイが、瞬間移動でもしたかのように、こつぜんと一同の前に姿を現した。


「さっきのやつだ!」


 と、ハルトマン。


「芳佳は?」


 芳佳の姿を探すルッキーニ。


「いない。やっぱり罠か!?」


 バルクホルンはき捨てた。


「ブレイク!」


りようかい!」


 ミーナの指示で、みんなは四方に散った。

 だが。

 人型はウィッチたちの動きに反応しようとはしなかった。

 まるで、何かの到着を待っているかのように。

 そして。

 ブワンッ!

 じようしようするWエースのすぐわきを、何かがもうスピードで通り過ぎていった。

 流線形の、銀色の飛行体だ。


「何っ!」


 バルクホルンたちの目の前で、それは急ターンすると人型ネウロイに向かってかんほうを発射した。

 ほうだんがネウロイに命中し、白いけむりが上がる。

 その白い煙をっ切り、機体は変形しながら方向を変える。

 反撃に出たネウロイは、両手から全方向に向けてビームを放った。


「くっ!」


 ウィッチたちは、巻き込まれるのを防ぐのでいつぱい


「こんなすごいビーム、初めてだよ!」


「キツイね」


 ルッキーニもシャーリーも、かろうじてビームをけることができるだけだ。


「さっきのは!?」


「何だ、あいつは!?」


 Wエースは先ほどの銀色の機体を探す。

「あれは……」


 魔法力を使い、機体を発見するミーナ。

 おどろいたことに、なぞの機体は人型に変形し、ウィッチのようにシールドを展開してビームを防いでいた。

 さらに。

 人型に変形した謎の機体はりよううでを胸の前で合わせると、ネウロイに向けて赤い光線を放った。


「ビームだよ!」


「あいつもネウロイなのか!?」


 きようがくするルッキーニとシャーリー。

 ビームは人型を一瞬で消し去ると、そのまま後方のネウロイの巣をつらぬいた。

 とつぜん、人型ネウロイが消えてまどっていた芳佳は、あやうくそのビームに巻き込まれそうになる。


「ああああっ」



「あいつ、強いぞ!」


 めつに見せないきんちようおもちのハルトマン。


「何なんだ、あいつ!? ネウロイをいちげきで!」


 シャーリーもこんな戦いは初めて見る。


「分からん」


 敵か味方かさえ、今のバルクホルンには判断ができない。


「あのビーム、とんでもないりよくだぞ……」


 これと比べると、今まで戦ってきたネウロイのビームなど、子供の水鉄砲のようだ、とまでシャーリーは言いたくなる。


「なあああああああっ!」


 その時。

 ルッキーニが落ちてゆく芳佳に気がついた。

 ビームのしようげきで気を失ったのだ。


「芳佳!」


「宮藤!」


 追うルッキーニとシャーリー。

 そんなおおさわぎするウィッチたちをあざわらうかのように。

 謎の機体は再び飛行形態に変形すると、いずこかへ去っていった。



  * * *



 同じころ、ウィッチーズ基地のハンガーでは。


上手うまく入りますか?」


「もうちょっと奥まで……よし、いいぞ、そんな感じだ」


 坂本とペリーヌが身体からだを密着させ、声をひそめていた。

 突然、サーチライトがついた。


「きゃっ!」


 身をすくませるペリーヌ。


「……始まったか」


 くるまに乗った坂本は、じようきようのあまりにも速過ぎる展開にまゆをひそめた。



  * * *



「芳佳、だいじよう!?」


「うん……」


 意識を取りもどした芳佳は半ばルッキーニとシャーリーに支えられるようにして、ミーナたちのところまでじようしようした。


「あのネウロイは……?」


 と、ミーナに問いかける芳佳。


「宮藤ぐんそう!」


 あんで泣き出しそうになるのをこらえるために、ミーナはわざと厳しい顔を作る。


(とにかく、今できることは宮藤さんのがらを隊内にとどめること)


「無許可たいの罪でこうそくします!」


(宮藤さんを司令部には……マロニー大将にはわたさない!)


「え」


 司令部の下したげきつい命令を知らない芳佳は、とうわくの表情をかべる。


「帰投します!」


 急ぎ、基地に戻るウィッチたち。

 だが。


「あれ、だれかいるよ」


 かつそうが見えてくると、そこにはだん目にしたことのない兵士たちがいることに、ルッキーニが気がついた。

 そして、兵士たちの中心に立つのは……。


「ご苦労だった、ミーナちゆう


 降り立ったミーナに向かって、体格のいいそうねんの男は言った。


(この人……)


 芳佳はミーナに対するべつかくそうともしない男の口調に、けん感とおそれを覚える。

 ギューン!

 先ほどのなぞの機体が芳佳たちの頭上をせんかいし、変形すると……。

 ガチャン!

 男の背後にゆっくりと降りた。


「さっきのだ」


 と、ハルトマン。

 兵士たちは芳佳たちを囲むと、じゆうこうを向ける。


「……」


 男の口元が、暗いたのしみを味わいくすかのようにゆがんだ。


「まるでクーデターですね、マロニー大将」


 ミーナは男を真っぐにえる。


「辞令にもとづく正式な配置てんかんだよ、ミーナ中佐」


 マロニーは書類をきつける。


「この基地は、これより私の配下である第一とくしゆきようしゆう部隊、つうしようウォーロックが引きぐことになる」


「ウォーロック?」


 眉をひそめるミーナ。

 格納庫入口付近ではペリーヌが押す車椅子に乗った坂本が、兵士に軍刀を取り上げられている。

 リーネ、エイラ、サーニャも呼び出され、マロニーの前に並ばされる。


「ウィッチーズ、全員集合かね?」


 マロニーは一同を満足そうに見渡すと、芳佳の前に歩み出た。


「君が宮藤芳佳軍曹か?」


「はい……」


「君は軍規にそむいてだつそうをした……そうだな?」


「えっ……」


 ミーナはなるべく大事にならないよう、帰隊の意志がある無許可離隊という表現を使ったが、自分のやったことが脱走という重罪に問われる可能性があることに、芳佳は今、初めて気がつく。


「軍規……」


「ふっ」


 ほくそむマロニー。

 だが。


「あっ……その後ろの」


 芳佳は思い出した。

 ネウロイの巣の中で、人型ネウロイが見せてくれた映像に、あの機体が映っていたことを。

 そうなると、もう芳佳の頭からは自分の脱走の件などふっ飛んでしまう。


「ふふっ、ウォーロックのことかね!?」


 と、マロリー。

 どうやら、この謎の機体は部隊名と同じ名前のようだ。


「私、見ました! それが、ネウロイと同じ部屋で、実験室のような部屋で!」


 芳佳は言った。


「!!」


 それまで得意満面だったマロニーの顔色が、とつぜん変わる。


「何を言い出すんだ、君は!」


「でも私、見たんです!」


「……」


「……」


 芳佳の言葉に反応するミーナと坂本。


「質問に答えたまえ。君は脱走をした。そうだな?」


 マロニーはごういんに話を元にもどした。


「はい、でも……」


「中佐、私は脱走者はげきついするように命令したはずだ」


 マロニーはミーナを見る。


「はい。ですが……」


「隊員は脱走をくわだてる。それを追うべき上官も、司令部からの命令を守らない。まったく残念だ。ミーナ中佐。そしてウィッチーズの諸君……」


 マロニーは手を背中に組んでウォーロックの前まで戻ると、しばがかった態度でくるりとり返った。


「本日、ただいまをもって、第501統合せんとう航空団、ストライクウィッチーズは解散する!」


「えっ!」


 きようがくする芳佳。

 他の隊員も同様だ。


「各隊員は、きゆうてきすみやかに各国の原隊に復帰せよ。以上。分かったかね、ミーナちゆう


「……りようかいしました」


 今、ここで反論するのは得策ではないことをさとり、ミーナはじゆだくする。


「そんな……解散……ウィッチーズが……」


「君の独断専行が原因なのだよ、宮藤ぐんそう


 マロニーはいたぶるように芳佳に言った。


「えっ!」


 こんな結果を招くとは思ってもみなかった芳佳は、言葉を失う。


「私……でも……私……」


「安心したまえ。ネウロイはこのウォーロックがげきめつする。ブリタニアを守るのに、君たちはもう必要ないのだ」


 勝ちほこるようなマロニーの声は、もう芳佳の耳にはとどいていなかった。

 芳佳は意識を失った。

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