第一章 第三話
その
「あの……お話って?」
芳佳はさっき別れたばかりの坂本の訪問に、ほんの少し
「ん。楽にしろ、自分の部屋だろ?」
ミーナとの一件からあまり調子の出ない坂本は、楽にしろと言いながらも
「はい」
それでも、言われた通りにする芳佳。
「んんっん……よくやった!」
「は?」
「昨日の戦いだ。初戦果だったろ?」
あまり
(やれやれ、こういうことはミーナの方が
坂本は自分の不器用さに、内心
「あ」
芳佳はようやく、誉められたのだということに気がついた。
「はい!」
パッと顔を
「でも、これもみんな、坂本さんが
「あ、ああ」
しかし。
(……そうだな、こういう
真っ
それが、自分の知ってる宮藤ではないか?
ついさっきまで頭の中でモヤモヤしていたものが、一瞬で
「あっはははははは!」
ほんの一言、感じたことを伝えるだけ。
たったそれだけのことに、構えてしまっていた自分が実に
「よく言ったぞ、宮藤! 確かにお前はまだまだ
ビシビシ。
しごく。
芳佳の表情がズ〜ンと暗くなる。
「そうだ! では、さっそく明日から訓練メニューを三倍に増やそう!」
「うえ〜!」
「何だ、その顔は?」
「い、いえ、
「そうだ! それでこそ、扶桑の
「……な、なんてうらやましい」
扉に耳をピッタリくっつけ、
「あの〜?」
そのペリーヌの背中で、何か、
「ひっ!」
「ど、ど、ど、どういたしましたの、リーネさん?」
と、その時。
カチャ。
折
「!」
扉に体重をかけていたペリーヌは、そのまま芳佳の部屋の中に
ベチャ!
もろに顔を
「ペリーヌ、リーネ?」
「お前たち何やってんだ?」
「えっと、あの……ペリーヌさんが」
「がるるるっ!」
「ひっ!」
説明しようとしたところをペリーヌに
「わ、どうしたの、ペリーヌさん? おでこ、真っ赤だよ?」
芳佳は熱を見ようとペリーヌの額に手を当てた。
「! な、何なさいまして! 何でもありませんわ!」
額どころか、ペリーヌの顔全体が真っ赤になる。
「ちょっと熱っぽくない?」
「ほ、ほ、ほっといてちょうだい!」
「さあさあ、訓練の時間だぞ、お前たち」
坂本はパンパンと手を打ち鳴らした。
「そうだ! それで芳佳ちゃんを呼びに来たんだったっけ」
ハッと思い出すリーネ。
「……ならさっさと準備にかかれ!」
「はい!」
* * *
……で、訓練開始。
今日はペリーヌと芳佳、ルッキーニとシャーリーがロッテ、2機編隊を組んでの
ジャッジはリーネ。
緑
「宮藤さん、後ろを取られてましてよ!」
「う、うん!」
左右に入れ
「にっひひっ〜ん、いっただき〜っ!」
ルッキーニはほくそ
だが。
「!?」
芳佳の身体が視界から消えた。
「あの
ペイント弾がシャーリーとルッキーニのストライカーを赤く染めた。
「ああ〜ん!」
「うおっ!」
してやられた、という表情の二人。
ピピーッ!
青空にリーネのホイッスルが鳴り
「ペリーヌ・宮藤ペアの勝ち!」
リーネは宣言した。
「すごいよ、芳佳ちゃん!」
「やられた〜!」
「おっかし〜な。絶対、後ろについてたはずだったのに〜」
「だいぶ成長したなあ、宮藤」
接近してきたシャーリーは賞賛を
「え、そうですか?」
と、芳佳が表情を
「どれどれ〜?」
「ひゃあ!」
「どれどれ〜?」
背後から
「な、何するの〜っ!?」
何するも何も、胸を揉んでいるのである。
「ざんね〜ん! こっちはちっとも変わりな〜し!」
ルッキーニはジャッジを下す。
「ん、見りゃ分かる」
この判定には、シャーリーも不服はない。
「も〜! こら〜っ!」
「でも、
シャーリーは
「本当ですか!?」
「うん! でも高々度だったら、こうはいかなかったけどね〜! にひひひ!」
「私たち、案外いいペアなのかも知れないね」
少し
「ご
ペリーヌはプイッと横を向いた。
* * *
「すごいね、芳佳ちゃん。この前入隊したばっかりなのに、もう一人前のウィッチみたい」
訓練後の浴場で。
シャワーを浴びるリーネは、芳佳に話しかけていた。
「へへ、そうかな」
芳佳もまんざらではない表情だ。
「でも、バルクホルンさんにはまだまだだ〜って言われちゃいそう」
「私なんて、もっとまだまだだよ」
「うらやましいな〜」
「わ、私はリーネちゃんのこと、すごいと思うけどなあ」
「え〜? どこが?」
「どこがって……」
芳佳の視線は、犯罪的なリーネの
空戦技術はともかく、こちらの方は数万年かけてもシャーリーとリーネに追いつきそうになかった。
「宮藤さん、いつの間にあんな大技、覚えたんですの?」
さっぱりした顔で
「あれ? ペリーヌさん、いたんですか?」
悪気はないのだが、芳佳、結構失礼である。
「ずっといましてよ! 左
ペリーヌの
「え? 私はただ、見ててこんな感じかなって……」
「
「そんな! 噓なんか言ってません!」
「あくまでしらばっくれますのね。いい度胸ですこと」
開き直るのか、この悪党め、とでも言いたげな顔。
「そんなこと言われても」
「宮藤さん!」
「は、はい」
「私、あなたに
ペリーヌはビシッと指を
「け、決闘〜っ!!」
芳佳の目は、どんぐりよりも丸くなった。
* * *
その
「悪いが、中身は勝手に見させてもらった」
バルクホルンはハルトマンを連れて、ミーナの
机の上に置いたのは、あの、
「『深入りは禁物。これ以上知りすぎるな』。これはどういうことだ?」
「興味あるね」
うんうんとうなずくハルトマン。
「やましいことなど、何もしていない。だろ、ミーナ?」
心ここにあらず、といった様子のミーナに代わって、坂本が答える。
「え? ……ええ」
ミーナは
「そうよ。私たちはただ、ネウロイのことを調べていただけで」
「それでどうしてこんなものが届く!?」
バルクホルンは
「差出人に、心当たりは?」
頭の後ろで
「ありすぎて困るくらいだ」
と、坂本。
「そうね。私たちのことを
はずだから……」
ふと、ミーナは困った表情になる。
「が、こんな品のない
坂本は答えた。
「おそらく、あの男は、この戦いの
「あの男って?」
バルクホルンは坂本を見る。
「トレヴァー・マロニー……。空軍大将さ」
* * *
「そっちじゃなくてよ」
「でも、それは」
すでにストライカーを身につけたペリーヌの発進ユニットから出てきたのは、本物の、もちろん、
「私たち、これから決闘するんですのよ」
「そんな……私、
「まさか。本当に
ペリーヌは
「気分ですわよ、気分」
芳佳を傷つける心算はない。
そもそも、そんなことをしたら、坂本に
「だからって嫌です。私、そんなことをするためにウィッチーズに入ったんじゃありません」
芳佳はムキになって言い返した。
「まったく……」
ペリーヌは
(本当に嫌いになれたら、どんなに楽か……)
「入隊の時も、あなたそんなお馬鹿なこと言ってましたわね。言ってるでしょう、形だけですから」
「……」
芳佳はまだ
「宮藤さん、聞こえて?」
二人は正面から接近しつつあった。
「10秒以上、後ろを取った方の勝ち。それだけよ。だったらいいでしょう?」
「……」
芳佳はもう一度、銃を確かめる。
「安全装置は……うん、かかってる」
ターンしたほんのわずかの間、ペリーヌは芳佳を見失う。
「いた!」
2時方向。
今なら背後を取れるか?
「!」
だが、すぐに芳佳も気がつき、ペリーヌを
「まったくもう!」
「ちょこまかちょこまかとっ!」
と、その時。
ウウウウ〜ッ!
サイレンが鳴り
「警報よ!」
「ネウロイが出たの!?」
芳佳とペリーヌは決闘を休止し、基地方向を振り返った。
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