第一章 守りたいもの ──または、第3種接近遭遇と流された血
第一章 第一話
ロンドン市内の、とある病院での出来事だった。
「……あれえ?」
目を覚ました少女は、周囲に
「お姉ちゃん?」
ついさっきまで、姉がそばにいた気がしたのだが、それもまた、夢だったのだろうか?
「
夢の中で。
少女はずっと、燃えさかる
ひとり、
だが。
炎の中から、少女を救い出してくれた者があった。
姉のトゥルーデだ。
トゥルーデは自分の手をとって空に
隊列を成して、
そして、自分の前をゆく姉のりりしい姿。
(空を飛ぶって、こんな感じなんだ……)
少女はいつの間にか、姉から
姉が飛ぶ姿は、地上から何度も見たことがあった。
だが、自分で空をゆく感覚は、地面の上で想像しているのとはまったく
(こんなに自由で……こんなに気持ちよくって……こんなに……
ストライカーユニットを
「そっか。……だから、大切な友だちと、
少女がそう言うと、姉は振り返り、ニッコリと笑った。
「ここ……どこだろう?」
少女はベッドから起き上がると、窓辺に立って外を
見知らぬ風景。
ガス
大きな街だとは思うのだが。
と、その時。
少女の背後で、
開いた扉の向こうの明かりに、制服の女性の姿が
「看護婦……さん?」
知らない顔。
だが、何となく、声には聞き覚えがあるような気がする。
「クリス……ちゃん?」
窓辺に佇む少女の姿を見て、若いナースは目を丸くした。
その手から、チェックシートのボードが
「今晩は」
はじめまして、の方がよかったかな?
少女はチラリと、そんなことを考える。
「ク、クリスちゃん……クリスティアーネ・バルクホルンちゃん、よね?」
ナースは
「く、くすぐったいです」
首をすくめる少女。
「これは夢?」
まだ信じられないといった顔つきのナース。
「ええと……たぶん、違います」
「お、お、お、落ち着いて! って、まず私が落ち着かないと!」
ナースは胸に手を当てて自分に言い聞かせる。
「そ、そうよ! 先生! 院長! クリスちゃんが! クリスちゃんが目を覚ましました〜っ!」
「え?
そのとんでもないボケっぷりは、姉の言葉を待つまでもなく、はるばる極東、扶桑の地から来たウィッチ、宮藤芳佳にそっくりであった。
* * *
ウィッチが
第501統合
もちろん、魔力が
それ
クリスティアーネ・バルクホルンが、意識不明の状態から
坂本は、上官、と言うよりはパートナーに近い存在である、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の部屋を
その日の夕方。
対ネウロイ
窓辺に立つミーナがまとっているのは、その時のままの赤いドレス。
かつて
実際はその直前、大陸からの市民脱出作戦として知られるダイナモ作戦の決行中、彼は命を落とし、ドレスはそのまま彼の車の中に残された。
ミーナはそれを今日、ネウロイとの戦闘の舞台となった、ガリア北部、パ・ド・カレー
こんな時間にミーナの部屋を訪れたのは、建前としては、芳佳が自分をブリタニアに届けてくれた『赤城』の見送りに行くことを許可してくれたことへの礼を述べるため。
実際には、ドレスを見つけたことにより、決別したはずの悲しみと直面せざるを得なかったミーナ自身の気持ちを
「……あの人を失った時、本当に
昔話を語るミーナの
「……そうじゃなかった」
「そうか」
かすかな
かけがえのない人を失う辛さを、坂本は知らない。
幸運だった。
と、自分でも思う。
「でも、失うのは今でも
すっと上げられたミーナの手。
そこには、
「失わない努力をすべきなの!」
月光に
銃口は、真っ直ぐに坂本に向けられている。
しかし。
「……何だ?」
坂本は銃を見ても、
ミーナには、トリガーは引けない。
至近
今のミーナから感じ取れるのは、小さな子供が迷子になり、泣きじゃくっている時と同じ心細さだけだ。
(だが、
パ・ド・カレーで
しかし坂本の知る限り、ミーナはそれで
「ずいぶんと
坂本はおどけた表情を作ってみせる。
「約束して」
ミーナは厳しい表情で言った。
「もうストライカーは
「それは命令か?」
と、坂本。
「……」
(そうか)
坂本は
(あれを、見られたんだな)
あれというのは、日中の戦闘でのこと。
芳佳がネウロイのコアを
坂本の
「……ふ」
(心配されていたのは、自分の方だった、という訳か)
「そんな格好で命令されても説得力がないな」
「私は本気よ。今度戦いに出たら、きっとあなたは帰ってこない」
「だったらいっそ、自分の手で、という訳か?
「違う! 違うわ!」
頭を
「私はまだ、飛ばねばならないんだ」
坂本はミーナを残し、
飛ばねばならないから。
それは、人類をネウロイから守るため、などという
(私が飛び続けるのは、そう……)
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