インターミッション - みっちゃん・いんぽっしぶる


 数日前に新学期をむかえたばかりのよこ第四女子中学校(旧横須賀第二高等小学校)。


しかるに、きのつらゆきがこの歌に込めたおもいは……」


 その二年生の教室では、退たいくつな国語の授業が続いていた。

 日当たりのいいまどぎわの席に座るやまかわつうしようみっちゃんの耳に、教師の声はとどいていない。

 机の下、白く、だんりよくのあるふとももの上に広げられた便びんせんに、彼女の目と心は向いていたのだ。


よしちゃん……」


 みっちゃんは、その手紙を、もう何百回となく読み直していた。

 大切な友だち。

 今ははるか、ブリタニアの地にある、みやふじ芳佳からの手紙を。



  前略


 みっちゃん、元気にしてますか?

 私の方はこの前、ウィッチとして正式に第501統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズというところに、正式に配属になりました。

 隊長はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケちゆう。カールスラントの人で、みっちゃんみたいに歌が上手。とってもやさしいけれど、おこるとちょっとこわいかも。

 そうそう、私の階級はぐんそうです。

 同じ階級には、リーネちゃん、リネット・ビショップちゃんというブリタニアの女の子がいます。

 しやげきが上手で、スタイルが良くって、とっても優しい女の子だよ。

 みっちゃんにも会わせてあげたいな。

 きっと、いいお友だちになれると思うから。

 私の訓練をしてくださる教官は、みっちゃんも覚えていると思うけれど、さかもとさん、坂本少佐。ほら、あの眼帯をつけた人。

 毎日、リーネちゃんと二人、朝早くからへとへとになるまでしごかれてます。

 朝の訓練には、時々、ペリーヌ・クロステルマンちゆうと、フランチェスカ・ルッキーニ少尉が参加します。

 ペリーヌさんはガリアの人。

 前にみっちゃんとよこはまこつとうさんで見たビスクドールみたいにきれいな人だけど、どうしてだろ?

 いっつもっているんだよね。

 私のことを、まめだぬきって呼ぶし。

 訳が分かりません。

 ロマーニャ出身のルッキーニちゃんは、すっごくいい子。

 ストライクウィッチーズの中では一番年下なのに、戦闘能力はとっても高いんだよ。

 にゃにゃにゃ〜とか、いっつも言ってて、まるでねこみたい。

 ……あ。

 初対面の時に私の胸をんで、残念賞って言ったのはちょっとおどろいたかな。

 で、そのルッキーニちゃんと仲がいいのが、シャーロット・E・イェーガー大尉。

 私が入隊した時に、最初にギュッと手をにぎってあいさつしてくれた人。

 リベリオンの人で、バイクが好きで、とにかくごうかい

 それに、ええと、何ていうか……胸が……すごいの。

 あとね、最近お話しするようになったのが、ミーナ中佐と同じカールスラント出身のゲルトルート・バルクホルン大尉。

 最初はずっと怒ってる人だなあって思ったんだけど、本当はみんなのお姉さんみたいな感じ。

 私はまだ見たことないんだけど、ハルトマン中尉の話だと、すごいかいりきの持ち主なんだって。

 ああっと、エーリカ・ハルトマン中尉もカールスラントの出身で、ミーナ中佐、バルクホルン大尉とは、ずっといつしよに戦ってきた家族みたいな関係みたい。

 とっても可愛かわいいのに、バルクホルン大尉と二人でWエースって呼ばれているくらいにすごい人なんだよ。

 ……バルクホルン大尉は、こいつはカールスラント軍人のはじだって言ってるけど、どうしてかな?

 あと他にも、サーニャ・V・リトヴャク中尉とエイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉がいるけど、まだあまりお話ししたことがないからよく分かりません。

 サーニャちゃんはミーティングの時にヌイグルミを持ってきていつもているし、エイラさんはタロット……っていうのかな? カルタみたいなのを使ううらないが好きみたいだけど。

 明日は海で訓練です。

 訓練が終わった後は遊べるって話なので、今からすごく楽しみ!

 また、お手紙書きますね。

 暑い日が続きますけど、お元気で。


                    芳佳  



「芳佳ちゃん……」


 横須賀の九月のしはまだ厳しい。

 ブリタニアへと続く青空を窓から見上げ、みっちゃんは目を細める。


(ちゃんと……やってるんだね)


 それにしても。


(豆狸……?)


 狸の着ぐるみ姿の芳佳が、みっちゃんののうかぶ。


(な、なんか、可愛いかも知れない)


 ほおゆるむみっちゃん。


(ぽんぽこぽこぽん……芳佳ちゃん)


 丸いおなかたたきながら、ストライカーをいて空を飛ぶ芳佳を想像すると、クスリとみがこぼれる。


「ではこの問題は……山川さんに解いてもらいましょうか? 山川さん」


 黒板に問題を書いた教師がり返った。


「山川さん?」


(ぽんぽこぽん)


「山川美千子さん」


(ぽんぽこぽこぽん)


「山川さん」


 みっちゃんのかたを、きようだんから下りてきた教師がポンと叩く。


「……さっきから何度も声をかけているんですけど、どうやら、心ここにあらずのようですね」


 勤続二十五年の国語教師の頰は、ヒクヒクと引きつっている。


「あ……えっと?」


 みっちゃんはようやく、教師が自分の真横に立っていることに気がついた。


「いったい何を考えているんですか? 今は授業中ですよ」


 と、先生の厳しい顔。


「あの、その……ぽんぽこぽんが…………すみません」


 シュンとなるみっちゃん。


「……バケツ」


 先生は真っ直ぐにろうを指す。


「……ぽこぽん」


 ため息をついて立ち上がったみっちゃんは、両手にバケツを持って廊下に向かうのだった。



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