第三話
日が西に
出港してゆく『赤城』の
芳佳に手紙を
「やっぱり……来なかった」
と、少年兵が
『赤城』の乗組員たちの耳に、魔道エンジンの
一瞬後、甲板上を
「あっ!」
芳佳、坂本、リーネの姿だった。
「宮藤さん!」
芳佳たちは上空で転回し、『赤城』と
「みんなありがと〜っ!」
芳佳は、甲板の船員たちに向かって大きく手を振った。
「
「芳佳ちゃん、良かったね」
と、リーネ。
「うん。ちゃんとお礼言えた」
芳佳はリーネを振り返り、晴れ晴れとした顔を見せる。
「うむ。世話になったからな」
「はい」
坂本の言葉に、芳佳は大きく頷く。
「みんな
赤く染まった空のもと、
「よかった」
心からそう思う芳佳。
「そろそろ基地に
「はい!」
芳佳とリーネが、坂本にそう答えたその時。
「ん?」
坂本のインカムに、何かが入ってきた。
「
同じ頃、『赤城』の艦橋も、坂本が耳にしたものと同じ音を
「ん? つなげ」
芳佳に別れを告げる乗組員たちの様子を微笑ましげに見下ろしていた杉田艦長は、通信の音声に耳を傾ける。
「おお、これは!」
聞こえてきたのは歌声。
それも、聞き覚えのある声だ。
「全艦につなげ!」
艦長は伝令に命じた。
リリー、リリー・マルレーン
リリー、リリー・マルレーン
基地のミーティング・ルームでマイクを前に歌っていたのはミーナだった。
ピアノ
カメラを構えるバルクホルン。
無線の調整は、シャーリーの役割だ。
最前線に転属が決まった日。
ミーナは彼の前でドレスを焼いた。
コンサートホールで、満場の観客を前に着るはずだった、青いドレスを。
それを二人で見つめることが、音楽と決別し、戦いに
(けれど、結局、決別なんかできないのね。音楽からも、あなたとの思い出からも。だから、あの子たちが自分と同じ悲しみを経験しないように、規則まで作って……。こんな私を見たら、あなたは
ミーナは今、身につけている。
あのドレスの代わりに彼が用意した、赤いドレスを。
リリー、リリー・マルレーン
リリー、リリー・マルレーン
ミーナの歌に送られ、
そして。
「とっても
見送りから戻った芳佳は、感動に瞳を
「ありがとう」
歌い終えたミーナは
と、その時。
背後からニョキッと手が
「むう〜!」
何が気に食わないのか、エイラである。
「ほへ? にゃにひゅるんでふか!?」
何するんですか、と言っているようだ。
「サーニャのピアノはど〜した、サーニャの!?」
エイラ的には、真っ先にサーニャに賛辞を
「へ、ほっへもふてきれひた」
とっても素敵でした、と言いたいらしい。
「ええい、もっと
「ほへへまふっへば……」
おそらくは、誉めてますってば、と。
「ひょ、はらひへふらはい〜」
ちょっと、
「い〜や、まだまだだ!」
……通じているらしい。
「いた、痛ひでふよ、エイラひゃ〜ん!」
ようやく、ミーナの顔にも
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