エピローグ

エピローグ


 波の音が遠くから静かに聞こえてくる深夜。

 明かりが消えた自室で、ノックの音がひびいた。

 ドアは開いている。

 窓辺のミーナが振り返ると、そこには坂本の姿があった。


「いい歌だった」


「ありがとう」


 坂本の賛辞に素直に礼を言うミーナ。


「見送りの許可を出してくれて、感謝している」


 坂本は昨日と同じように、窓辺にミーナと並んで立った。


「あなたも行きたかったんでしょう?」


「ああ。世話になったふねだからな」


「……あ」


 坂本の横顔に目をやったミーナの表情が、ついさっきまでのおだやかなものから、一転して厳しさをたたえたものへと変わった。


「あの人を失った時、本当につらかったわ。こんな思いをするくらいなら好きになんてならなければ良かった……ってね。でも……」


 悲痛な色が、ミーナのひとみぎる。


「……そうじゃなかった」


「そうか」


 ミーナが何を言おうとしているのか分からず、少しまどう坂本。


「でも、失うのは今でもおそろしいわ。それなら……」


 すっと上げられたミーナの手。

 そこには、じゆうにぎられていた。


「失わない努力をすべきなの!」


 月光に浮き上がるワルサーPPKのシルエット。

 銃口は、まっすぐに坂本に向けられていた。



                    続く  

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