第七章 君を忘れない ──または、赤いドレスとリリー・マルレーン
第一話
「失礼しま〜す」
「宮藤さん。お会いしたかった」
と、満面の笑みで近づいてくる男性。
「こちらは『
男性と芳佳の間に割って入り、ミーナが
「
「
芳佳に自分を近づけまいとするミーナに、空母『赤城』艦長の杉田
「乗員を代表して、あなたにお礼を言いに来ました」
「お礼?」
「あなたのおかげで
「い、いえ。私は何も」
「あの時は坂本さんと、他の人たちが……」
「いや」
杉田艦長の後ろにいた坂本が、
「確かにあの時、お前がいなければ
「そうかな〜、えへへ」
「全乗員で話し合って決めました」
杉田は一、二歩、前に出ると、四角い
「これを、あなたにと」
「あらあら、良かったわね」
「ありがたく受け取っておけ、宮藤」
と、ミーナと坂本。
「はい」
包みを受け取った芳佳は、杉田を見上げてお礼を言う。
「ありがとうございます!」
これに
「
「ついに、ですか……」
ミーナの顔からも笑みが消える。
「反攻作戦?」
事情がよく分からない芳佳。
「ええ。今日はその途中で寄らせていただいたのです」
杉田は頷いた。
「明日には出港なので。是非、艦にも来てください。
「え……はい!」
ブリタニアに来るまでの一か月を過ごした『赤城』である。
そのみんなと再会できるのだから、
だが。
「残念ですが、明日は出撃予定がありますので」
ミーナは杉田にそう言って、やんわりと断った。
「あ」
ネウロイのことがすっかり頭から
「そうですか。……残念です」
杉田も失望を
* * *
「ミーナ中佐、
芳佳がブリーフィング・ルームを出て、しばらくしてからのこと。
二人で
「……うん」
杉田艦長から頂いた包みを
実はさっき……。
リーネと一緒に本部を出てきたところで、艦長についてきた『赤城』の少年兵のひとりが、宮藤に手紙を
リーネはラブレターかも、とからかったが、『赤城』を守った戦いでの芳佳の働きに対する、
だが、芳佳が手紙を受け取ろうとした寸前。
この様子を見たミーナが少年兵と芳佳の間に入り、手紙を少年兵に
このようなことは厳禁と伝えたはず、とミーナ隊長は厳しい表情で少年兵に告げた。
だが、ウィッチーズとの必要以上の
「手紙、何だったんだろうね?」
「……うん」
「芳佳ちゃん?」
「……うん」
芳佳には、
* * *
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は、自室の窓辺に
いつもは聖母のような笑みを
その視線の先にあるのは海、いや、その向こうのガリアの地だ。
「聞いたぞ」
「……美緒」
いつの間にか時間が
ミーナは、部屋に坂本が入ってくる気配にも気がつかなかった。
「手紙を突き返したそうだな?」
「そういう決まりだもの」
再び窓の外に目をやるミーナ。
「……まだ忘れられないのか?」
ミーナは
坂本もミーナと並ぶように窓辺に立ち、海を静かに見つめた。
坂本は分かっていた。
ミーナが隊規を
かつて自分が味わった悲痛から、若いウィッチたちを遠ざけようという思いのためであることを。
その必死なミーナの姿を、まるで
(私は祖国も、愛する人も失ったことはないからな)
坂本は
海は
同じ
「わ〜、扶桑人形だ〜」
自室で風呂敷を解いた芳佳は、
艦長の
「
ベッドの上に置かれた人形を見て、リーネも
「……お礼、言いたいな」
たとえ、出撃がなかったとしても、今日のミーナ隊長の様子では、見送りに行くことは許してもらえそうもない。
(変だよ、こんなのって)
普段の
* * *
翌朝。
晴れ渡った空に、ネウロイの
「ガリアから敵が
ブリーフィング・ルームに集まったウィッチたちをミーナ中佐は見渡した。
「今回は
軍刀に手をかけた坂本はニヤリとする。
「ええ、現在の高度は1万5000。進路はまっすぐこの基地を目指してるわ」
「よし、ルーチンの
立ち上がった坂本は表を読み上げる。
「今日の
「お留守番〜、お留守番〜」
「ユニットのセッティングでもするか〜」
リラックスした様子を見せるルッキーニとシャーリー。
「す〜」
サーニャにいたっては、
「よし、準備にかかれ!」
坂本の号令。
芳佳ら7機のウィッチたちはハンガーに向かい、ストライカーユニットをまとって大空に飛び立つ。
「い〜ってらっしゃ〜い!」
ルッキーニは手を振り、その姿を見送った。
* * *
「敵発見!」
「タイプは?」
と、ミーナ。
「
坂本は眼帯を外し、魔眼をネウロイに向ける。
今回の敵は、
「300M級だ! いつものフォーメーションか?」
「そうね」
ミーナは坂本の判断に同意する。
「よし、
坂本の指示で、ローリングしながら先行するバルクホルンとハルトマンのWエース。
これにリーネとペリーヌが続く。
しかし、接触直前。
「えっ!」
照準を合わせようとするハルトマンの目の前で、ネウロイは無数の小型キューブに分かれた。
「何!」
と、バルクホルン。
「
坂本も初めて目にするタイプだ。
だが。
「右下方80、中央100、左30」
ミーナに
冷静に
「総勢210機分か。
口元に
「そうね」
「で、どうする?」
「あなたはコアを探して」
自分を振り返る坂本に向かい、ミーナは告げた。
「
「バルクホルン隊、中央」
「了解!」
「ペリーヌ隊、右を迎撃」
「了解!」
次々と的確な指示を出してゆくミーナ。
「宮藤さん、あなたは坂本
「了解!」
「いい? あなたの任務は少佐がコアを見つけるまで、敵を近づけないことよ」
「はい!」
ミーナも身を
「これで10機!」
「こっちは12機!」
「
「ここのところ、全然だったからね」
背中合わせになって言葉を
「いいこと? あなたの
後衛を任され、小型ネウロイ群のやや上方に位置したペリーヌは、ロッテを組むリーネに指示していた。
「はい!」
やや自信はつけてきたものの、まだまだ戦闘での緊張が
「私の背中は任せましたわよ」
ペリーヌはネウロイに向かって急降下をかける。
「これを使うと、後で
そう
「トネール!」
「ふん。私にかかればこのくらい……」
と、すまし顔のペリーヌが逆立った髪を整えようとしたその瞬間。
バーン!
すぐ背後で1機のネウロイが
(
髪を振り乱してペリーヌが振り返ると、さらにもう1機。
すぐそばまで
(誰! ハルトマン
射線の方向を見上げると、
緊張で息が
「や、やるじゃない」
(……認めてあげない訳には、いかなくなりましたわね)
そんな複雑な
「みんな、すごい」
公式記録では
すぐそばで魔眼を使う坂本は、まだコアを発見できていない。
「あっ!」
群れから
「!」
細かな
「その調子で
坂本が声をかける。
「はい!」
芳佳はそう答えるのがやっとだった。
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