インターミッション - ワレ等、奇襲ニ成功セリ!


「今夜だけだかんな」


 今日も今日とて。

 けて部屋をちがえたサーニャは、エイラのベッドにたおれ込んでいた。


「本当に今夜だけだぞ」


 と、言いながらも。

 サーニャの寝相を直し、服をたたんでやってからベッドのとなりもぐり込むのが、すでにエイラの習慣となりつつある。

 それに合わせてすいみんのサイクルも夜型になってきているようで、今が眠さのピークだ。


「これで……よ〜やく」


 と、ベッドに入ろうとしたその時。

 バタン。

 とびらが開き、芳佳にリーネ、ペリーヌ、シャーリーとルッキーニ、それにバルクホルンとハルトマンまでもが部屋になだれ込んできた。


「な、な、な、な、な、な、何だ、お前ら〜っ!?」


 びっくりしてあと退ずさり、パンツが半分ずり落ちかけるエイラ。


「えへへ、それはですね」


 と、笑う芳佳。


「じゃ〜ん」


 リーネがティーセットとおったトレイを、エイラの前に差し出した。


「こういう訳です」


「いや、訳分かんないだろ!?」


 さっぱり理解不可能のエイラは目を丸くする。


「つまりさ」


 と、シャーリー。


「サーニャって、夜間しようかい任務が多いから、あたしら昼間組とはなかなか時間が合わないだろ? で、こうしてしんぼくを深めようってかくが立ち上がったんだな」


「すでに、サーニャがこの部屋で眠ることはリサーチ済みだ」


 うなずくバルクホルン。

 その隣では、まくらかかえたハルトマンが立ったまま寝ている。


「あたしのアイデア〜、あたしのアイデア〜」


 と、自分を指さすルッキーニ。


(そ〜か! 余計なことを言い出したのはその口か〜っ!)


 と、ルッキーニの口に指をっ込んでビヨ〜ンとばしてやりたいところだが、今は眠くてその元気もない。


「さあ、これからサーニャちゃんのための、夜明けのティー・パーティーです」


 テーブルの上にカップを並べ、リーネは紅茶をれ始める。

 お菓子はスコーンにアップルパイ、ジンジャー・クッキーにパンプキン・プディングだ。


「あのな、サーニャはもう……」


 寝ている、と言おうとした、ちょうどその時。


「……ん?」


 タイミング良くか悪くか、サーニャが目をこすって起き上がった。


「夜間哨戒ごくろうさま、サーニャちゃん」


 芳佳がサーニャの手をにぎる。


「さあ、みんなでお茶しよう」


「……う、うん」


 サーニャのほおがピンクに染まった。


(宮藤〜っ! お前、サ、サーニャの手を、そんなだいたんに!)


 割って入りたくなるのを、必死でこらえるエイラ。


「宮藤さん、くれぐれも、その下品なくちびるから、ズルズルお茶をすする音をお立てにならないように」


 紅茶のカップを前に、ひとこと注意するペリーヌ。


「むうっ! 今は音を立ててません! 最初の時だけじゃないですか〜」


「おほほほほ、そうでしたかしら?」


「ていうか、どうして私のカップだけ、こんな変な形なんです!?」


 芳佳の前に置かれたカップは、ペリーヌが特別に用意したもの。

 カップというよりは皿、それも、犬のえさ用の皿に見える。


「あらあら、まめだぬきにはお似合いでしてよ」


 よく見ると、皿の側面には『豆狸用』の文字が。

 それもわざわざ扶桑語で。


「よくそんなの探してきたな」


 感心半分、あきれ半分の顔をするシャーリー。


「特注ですわ、特注!」


 ペリーヌは、無い胸を張った。

 一方、ルッキーニは勝手にすいしよう球を取ってきて、シャーリーの胸の間にはさみ、


「どっちがおっきいかな〜?」


 と比べ、キシシッと笑う。

 ……もちろん、水晶球の完敗だ。


「やれやれ、ここはようえんか?」


 だんならこうしたカオス状態には目くじらを立てるバルクホルンも、今だけは特別のようで、もくもくとアップルパイを食べ続けていた。

 山ほどあったパイが消えてゆく様は、圧巻だ。

 一人だけ静かだったのは、ハルトマン。


「くか〜」


 TPOを選ばないマイペースのハルトマンは、ゆかにうつせになり、それもおしりを立てた形で眠っている。

 リーネが作っているちゆうでかなりのお菓子をつまみ食いしたので、ぶくろのほうは満タンなのだ。

 こうして、みんな──睡眠中の約一名を除く──がわいわいとさわぐ中。


「……た、楽しいか、サーニャ?」


 ベッドに二人並んで座ったエイラは、ややこわった表情をサーニャに向けていた。


「……うん」


 サーニャはコックリとうなずく。


(ま、いっか)


 サーニャが満足なら。


「これが仲間、なんだな」


 くやしいけれど、自分ひとりでは決してかべさせることができなかったがおが、今、ここにある。


「……にしても、さすがに……眠……い……な……」


 エイラのぶたは、だんだんと重くなってゆく。

 そして。


「……みなさん、お静かに」


 ペリーヌがエイラの立てるいきに気がついて、人さし指をシ〜ッと唇に当てた。


「寝ちゃったんですね」


 芳佳はエイラの寝顔をのぞき込む。


「しっかし、いっつもこんな寝相なのか?」


 カップを持ったままサーニャに寄りかかり、まるでテディベアのような格好で眠るエイラ。

 その姿を見て、シャーリーはき出す。


いつしよに寝てて、大変だろ?」


「そうでも……ないです」


 かんようの笑みをたたえるサーニャ。


「いい子だねえ〜、さーにゃんは」


 ルッキーニがギュッとサーニャをきしめる。


「胸、ペリーヌよりはあるし」


うそ!」


 がくぜんとするペリーヌ。


「こういうの、またどんどんやろうね! あたし、さーにゃんともっとお話したいから!」


「……うん」


 カップを両手で包むように持ったサーニャは、頰を染めてルッキーニに頷く。

 そのかたわらでは。


「むにゃむにゃ……ニシシシ……」


 エイラが無防備に表情をゆるめながら、夢を見ていた。

 オーロラの七色のヴェールの間を、サーニャと一緒に飛ぶ夢だった。


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