第二話
無事に
「こんなに……たくさん」
息を
「みなさん、よくぞご無事で」
一方、シャーリーは先ほどの溺れかけた男に水を吐かせ、
「……ゴホッ! ゴホッ!」
「船長は?」
シャーリーは
「
男は
「出港してすぐに、デッキに出ていた子供を助けようとして、波にさらわれて……」
「あんたは?」
「航海士
男は南ガリアの船員
「みなさんは、どの地方から?」
と、聞いたのはペリーヌ。
「この船に乗っているのは、ガリアのあちらこちらから逃げてきた人間さ。ネウロイから
航海士はペリーヌの顔をまじまじと見つめた。
「……あんた、きれいなガリア語を話すな……同国人か?」
「ええ。パ・ド・カレーの出身です」
「ペリーヌ……クロステルマン?」
パ・ド・カレーと聞いて難民の中から小さな女の子が立ち上がった。
「ええ?」
見覚えのある子ではない。
「私をご存じ?」
「みんな知ってます」
「ブループルミエ。ガリアの希望の星。私たちの故郷を取り戻してくれる、一番強くて、一番きれいなウィッチだって」
女の子はそう言ってから、ちょっと不安そうな表情になる。
「そう……なんですよね?」
「…………」
ペリーヌは女の子に近寄り、ギュッと
「ええ、そうですわ。きっとガリアは私が取り戻してみせます」
* * *
その
「さてと」
無線のやり取りを聞いていたバルクホルンが、不意にどこかに行こうとした。
「どこに行くのかな〜?」
と、ハルトマン。
「トイレだ、トイレ!」
バルクホルンは顔を真っ赤にする。
「じゃ、私も〜。トイレ、トイレ〜」
バルクホルンについて、ハルトマンも管制塔を後にする。
「やれやれ」
頭を
「
二人を見送ったミーナは
と、その時。
「司令部から通信」
通信兵がミーナを見た。
「マロニー大将です」
「あらあら、直々に?」
ミーナは室内のスピーカーに通信を
「……貴様の飼い犬どもは、
スピーカーから聞こえてきたのは、番犬が
「いいか、
「海軍に手柄をくれてやれ、と? もし、哨戒艇の救助が間に合わなかった場合には、海軍の失点になりますけれど?」
ミーナは
「その時は、難民船自体が存在しなかったことになる。それだけのことだ」
「……
「これは高度に政治的な問題なのだ」
マロニーは
「
ミーナは坂本に目配せし、頷いた。
「海軍の
ヒステリックに
「たかが?」
尋ね返すミーナの声には、ぞっとするような
「私の耳が確かなら、今、たかがと
「と、とにかく! 帰投命令を出せ! 今すぐだ!」
「あら……ビ〜……ザ〜……
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ
プチン。
ミーナは無線を切ると、通信兵に命じた。
「しばらく繫がないで」
「……おい」
「いくらなんでも、口でビ〜とか、ガガガガ〜はないだろう? 完全にバレているぞ」
「あら? もちろん、わざとよ」
「やれやれ」
「私だって、気持ちはペリーヌさんと
荒海を見つめるミーナの目にふと
「……そう。もう二度とあんな思いは」
「ミーナ……」
時が
そのことを知る坂本に今できることは、ただミーナの横に寄り
* * *
「基地の港まで
芳佳が繫いだロープを
「港ってどっちです!」
キョロキョロと左右を見るリーネ。
「サーニャ!」
「…………!」
サーニャは
「よし! あっちだ! 10時方向!」
「行け、行っけ〜!」
と、ルッキーニ。
トリスタン号は少しずつ、港に向かって進み始める。
しかし。
「
基地の明かりが見えてきた頃になって、船上のシャーリーから
「ど、ど、どうしよう、芳佳ちゃん!?」
リーネは動転して芳佳に
「……デッキにひとりずつ、みんなを出してください。順番に基地まで運びます」
芳佳はインカムでシャーリーに告げた。
「お前無茶言うな〜っ! 何回往復することになんだよ!?」
「11・6回」
「いや、サーニャ、正確な回数を聞いてんじゃなくてな」
「……やります」
と、サーニャは高度を下げてゆく。
「分かった、分かったよ〜」
肩を落としたエイラが続く。
「そうだね、やるしかないよ!」
リーネも大きく
そして。
「よし! 残りはひとり!」
女の子を
「次はあんただ!」
トリスタン号は、
芳佳は最後のひとり、航海士を運ぶために、海面ギリギリのところでホバリングしている。
「俺はいい! あんたたちが早く
航海士はシャーリーの手を
「格好つけんな!」
「あんたたちだって、飛べないんだろ! あんたたちに何かあったら、俺はあんたたちの仲間に顔向けができん!」
航海士は言い返す。
確かに、今のペリーヌとシャーリーでは自力で基地まで飛ぶのは不可能だ。
「みんなは!?」
芳佳は振り返るが、
次に
「あなたは私におぶさってください!」
芳佳は甲板に下り、航海士を背負うと、二人に手を差し出した。
「シャーリーさん、ペリーヌさん! つかまって!」
「三人一緒に抱えて飛ぶ気か!」
信じられないと言った顔をするシャーリー。
「あなた、とうとうお
ペリーヌも怒鳴る。
「無理なんて言わないでください!」
芳佳は頭を振って叫んだ。
「みんな、生きて帰るんですったら!」
「宮藤……」
「もし、駄目だと思ったら、絶対に手を放しなさい。これは命令ですよ」
二人は折れた。
「い、いいですか、いきますよ」
足元が不安定で十分な助走も取れない
「タイミングはあたしが計る。一気に
シャーリーが、自分のゴーグルを芳佳にかけてやる。
「はい!」
足元に魔法陣が生まれ、芳佳は飛び立った。
いったん上昇するが、すぐに高度が下がり始める。
暴風が真横から
シャーリーが
「上がれ……上がれ……上がれ……上がれ!」
やはり高度は上がらない。
波をまともに
これだけの重さを、未熟な芳佳だけで支えるのにはかなりの無理があるのだ。
「っ!」
自分の顔に当たるのが
高度はさらに下がり、プロペラが海面に当たって
「手を放しなさい! その男性とあなただけでも!」
叫ぶペリーヌ。
「
芳佳は
「もういい、宮藤!」
と、シャーリーが
ブロロロロロロロロッ!
「間に合ったか!」
と、ホッとした表情を見せたのは、ペリーヌを抱えたバルクホルン。
「
ハルトマンは腕の中のシャーリーに向かって、ニッと笑う。
「ああ、エロール・フリンも真っ青だ」
シャーリーは親指を立てて、ウインクを返した。
「バルクホルン
だが、背中の航海士のことを思い出し、何とか気力を振り
「いいところを
ペリーヌは
「でも……ありがとうございます」
「お〜、やけに
ニッと笑い返すハルトマン。
「それより、宮藤さんは?」
ペリーヌは芳佳の方に目をやった。
「だ、
こちらは笑顔を浮かべる
それでも、基地までは何とか持ちそうだ。
「これで全員救出だな」
バルクホルンは基地の明かりに目をやる。
* * *
そして、夜明け。
「がんばりましたわね」
「ありがとう、ペリーヌさん」
女の子は
「気にしなくていいんですの。これが私たちの任務ですから」
「私たちの故郷、取り戻してみせますわ。……手をお出しになって」
「こう、ですか?」
「はい」
ペリーヌは、少女の小指と自分の小指を
「指きりげんまん、
そう歌い、ペリーヌは指を
「尊敬する方から習いましたの。これは、絶対に約束を守るという
「はい!」
女の子は
やがて、
「指きり、げんまん」
トラックが消えた後も、ハンガーに
「……ええ、いつか、きっと」
ガリアの
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