第六章 脱出航路 ──または、雲低く、風強く、波高し
第一話
「うわ〜、すごい
夕食の後片付けを終え、ウィッチの面々がそれぞれくつろぐ中。
芳佳は窓の向こう、聖エルモの火のように
ガラスに激しく打ちつける
船着場を洗う波も
「でも、嵐だからって、ネウロイは待ってくれないよね?」
「ど、どうかな?」
「明日の午後には
「ネウロイの出現予定は
「そうか」
何か思いついたように、坂本が芳佳とリーネの方を見る。
「お前たち、悪天候下での飛行訓練は、まだやっていなかったな?」
「いいっ!?」
と、
「何か……聞こえます」
「予定より早いが、ネウロイか?」
表情を引き
「……違います。無線です」
「無線の電波なら別に
テーブルにタロットカードを並べていたエイラが
「……聞いて」
サーニャはみんなのインカムに、
「こちら……リア
「よく聞こえないな」
サーニャは魔導針にさらに魔力を注ぎ込み、感度を高める。
「……こちら……ガリア船籍『トリスタン号』……岩礁に乗り上げ……航行不能……救助を求む……」
「!」
インカムを
「ガリアの船!」
真っ先に反応したのは、ガリア貴族の
「まさか難民船?」
と、ハルトマン。
「あり得ない話じゃない。人類がすべて、ネウロイの支配地域から
バルクホルンは
「位置は分かるか?」
坂本はサーニャに
「ここから……東南東約10キロです」
と、サーニャ。
「よし。司令部に一報入れて、私たちは
「
と、坂本の指示で、みんながハンガーに向かおうとしたその時。
「その必要はありません」
ミーナが食堂にやって来て、一同の顔を
「司令部からの命令です。ネウロイ来襲予測が近いため、ストライクウィッチーズは、基地待機。難民船の救助には、海軍の哨戒
「あの連中にしては、ずいぶんと
眉をひそめる坂本。
「目と鼻の先だぞ! あたしたちが出たほうが絶対に早いだろ!?」
バンッとテーブルを
「一番近い軍港から出港しても、タイムロスは数時間以上」
バルクホルンは頭の中に海図を
「哨戒艇がつく
「分かっています」
ミーナはバルクホルンを
「でも、司令部の命令は絶対なの」
「くっ!」
食堂を飛び出そうとするペリーヌ。
「……今出撃すれば、命令
その背中に向かって、ミーナは静かに告げた。
「……分かっていますわ。でも、
ペリーヌはキッと
「同胞が助けられないのなら、私がここにいる意味なんてありません!」
悲痛な調子でそう
「急がないと……」
ハンガーで独り、出撃の準備を整え、ペリーヌが魔道エンジンを
「よお」
「
シャーリーと芳佳がペリーヌの前に立った。
「そうですよ〜……あわわ!」
と、
「あたしたちもだよ〜」
「ま、仕方ないな〜」
「うん」
ルッキーニとエイラ、サーニャも、いつの間にかやってきている。
「みなさん」
一同を見渡し、言葉に
「一人で行って、どうにかなるもんじゃないだろ?」
ニッと笑ったシャーリーは、
「仲間じゃないですか」
芳佳も
「……わ、私」
声を
「わ、私が
「
と、シャーリー。
「いっつも通り〜」
「……うん」
ルッキーニがキシシッと笑い、サーニャは小さく頷いた。
* * *
「あらら〜、みんな行っちゃったね〜」
窓から飛び立つ芳佳たちを見ながら、ハルトマンは言った。
「問題あるまい。我々Wエースが残っているんだ。ネウロイ来襲には対処できる」
不敵に笑うバルクホルン。
「お〜、すっごい自信じゃん!」
「ということだそうだ」
「そうね。じゃあ、あの子たちに命令を出したのは、トゥルーデ、あなたということで。次のネウロイ来襲後に、自室
ミーナは最初から、止める心算などなかったようだ。
「いっ!」
顔を
「……こいつと分けて、5日ずつにならんか?」
「うわ、ひど」
まあ、ハルトマンの場合、もともと自室禁錮回数はウィッチの中でもダントツ。
あと一、二度増えたところで大して
「それじゃ」
ミーナはカップを置いて立ち上がった。
「
* * *
「ひどい雨。こんな中で、船、見つかるのかなあ」
「宮藤、お前、サーニャの
まるで自分のことのように
「……こっち」
みんなを先導するサーニャ。
やがて、芳佳たちの前方に、波に
「ねね、あれかな〜?」
と、ルッキーニ。
「……トリスタン号。
海はトリスタン号に
「トリスタン号、聞こえますか? こちら、第501統合
サーニャは船と
「……ちら、トリス……号」
かなり雑音が激しいが、反応があった。
「現在、私たちは貴船の西北西約800メートル。これから救助に向かいます」
と、船に告げるサーニャ。
「で、これからどうします?」
リーネがペリーヌの顔を見る。
「ええっと……」
飛び出しては来たものの、ペリーヌは実は何も考えていなかった。
「ロープを船に
「けど、ど〜やってロープを繫ぐんだよ!? デッキに
波と風の音に
確かにこの悪天候のもと、ウィッチの誰かが
下手をすると、ストライカーユニットが船に
と、その時。
「あ〜、誰か出てきたよ!」
ルッキーニが難民船のデッキを指さした。
ウィッチたちに気がついたのだろう。
「よし! ロープを
シャーリーはカンテラの明かりを目安に、肩に
しかし。
ザバッ!
男はデッキを洗うような高波に押し流され、海に投げ出された。
乱高下する波に翻弄され、
「!」
ペリーヌは男が波間に
「あの
「ペリーヌさん!」
シャーリーと芳佳が降下し、海面ギリギリのところでペリーヌたちの姿を
「メガネ!?」
「ペリーヌさん!」
「
悲痛な声をシャーリーがあげたその時。
「うっぷ!」
「!」
波を
さらにシャーリーが、ぐったりした様子のペリーヌの
ペリーヌはそれでも、船から落ちた男の服をしっかり
芳佳とシャーリーは二人を支え、トリスタン号のデッキを目指す。
「ペリーヌさん! しっかりして!」
芳佳は腕の中のペリーヌに呼びかける。
「……しっかり、してますわよ。あなたよりは」
ペリーヌは海水を
「落ちるな!」
魔道エンジンの出力を上げるシャーリー。
ガクン!
大きく上下に
「う、海に落ちたときの訓練、
ペリーヌと手をつないだまま、あお向けになって大きく
「飛び立てそうか?」
溺れていた男にまだ息があることを
シャーリーのムスタングは片方が完全にいかれ、もう一方も出力がかなり落ちている。
飛べたとしても自分の体重をギリギリ支えられるかどうかだ。
「無理のようですわ」
海水をかぶったうえに、船体にぶつけて破損したVG39を済まなそうに見下ろすペリーヌ。
「……ごめんなさい。
「わ、私のほうは何とか」
芳佳は、零式が
「じゃあ、あたしとツンツンメガネは機関室を見てみる。応急修理ぐらいできるかも知れないからな。上は
シャーリーは芳佳に指示を出した。
「はい!」
よたよたしながらもペリーヌとシャーリーの手を借りて立ち上がる芳佳。
「……ツンツンメガネって呼ぶの、やめてくれませんこと?」
右の肩を貸すペリーヌは、チラリとシャーリーを見て不服そうにつぶやく。
「行きます!」
船の
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