第四章 特攻おにぎり大作戦! ──または、乙女の胃袋の大きさ
第一話
「教えてほしいって……三角おにぎりの
早朝の訓練を終えた後。
「ああ。正式に作り方を覚えたい、と思ってな」
坂本は
「でも、どうしてです?」
料理
だが、三角おにぎりなど、料理のうちにも入らない、と芳佳は思うのだが。
「いや」
坂本は少し、
「扶桑の軍人たるもの、伝統的な
確かに。
坂本が
それは
「味の点では、まあ、申し分ないとは思うんだがなあ」
眼帯をしていない方の坂本の目に、すがるような色が宿る。
「ひ、
「いいですよ」
幸い、ネウロイの
あっさりと頷いた芳佳は、それがどんな悲劇を招くことになるか、予想だにしなかった。
そして、その日の午後。
「ほ〜、ずいぶんと
「はい! こっちのピンクのは、ご飯にタラコを混ぜ込んだもので、この黄色いのは、
「い、いきなりハードルが高くないか?」
そう
「これは見本です。坂本さんは、まず普通のおにぎりを握ってください」
「そ、そうか」
明らかにホッとした表情になった坂本は
「よし! 見ていろ、扶桑軍人として、今日こそ三角を
三十分後。
二人は三角おにぎり
「くっ! このひとつの角を約六十度に保つというのが、こうも至難の
調理台には、
最初のひとつこそ、普段、坂本が握っている球形おにぎりだったが、練習を重ねるうちに、
指の形がそのまま残るつぶれた
果ては
世が世で、材質が
「一度に形を決めようとしちゃ
芳佳は、おひつからしゃもじでご飯を取り、もうひとつ握ってみせる。
すでに最初に炊いた二升五合の飯は底を
「おおっ!」
出来上がった三角形のおにぎりを見て、坂本の眼帯をしていない方の目が丸くなる。
「さすがだ! 宮藤、お前はこういうことに関しては天才だな!」
「あははは……」
力なく笑う芳佳は、自分が意外と
「と、とにかく、ふんわりとですよ」
「うん。ふ、ふんわり……と?」
指示通りにやってみようと、努力はする坂本。
しかし。
「……ええい! 固まらないではないか!」
ご飯は、坂本の手のひらに引っ付いただけだった。
「……坂本さん、今、手にお塩とお水をつけるの、忘れました」
これで同じ注意をするのは、八度目である。
戦場での、あの
「そ、そうだったな。ふんわりと、ふんわりと」
坂本、再
「ふん……わり……? ……そうか!」
いきなり、坂本は開眼したようだ。
「軍刀の
「そ、そうかも知れませんね」
そして、出来上がったものは……。
「……棒、ですね」
「う、うむ。棒……だな」
そのまんま、軍刀の柄のように握れば、棒状のものが完成するのは道理である。
「理論的には……よかったはずなんだが?」
「はあ〜」
そもそも、その理論がおかしいとは言えないのが、芳佳の
「仕方ない、また二、三升
「あの、ですね、坂本さん」
このままではひとつの三角おにぎりのために、基地の米の在庫が底を
とうとう芳佳は方針
「別におにぎりは三角じゃなくてもいいんですよ。そう、俵形とかでも」
「俵形?」
「そうか! 俵形とは気がつかなかった! 宮藤、お前、気が
「そ、そういうことでもないような……」
「よし! これから俵形に
「はい! ……って、どんどん?」
坂本はおひつを引っくり返すと、腕に全身の力を込めてご飯を固め始めた。
そして。
「うん! 完成だ!」
二時間後。
坂本は額の
「さ、坂本さん、これは!」
芳佳は目の前の、坂本がおにぎりと
確かに、形は俵形。
しかし、その大きさは、実物の俵と同じくらいあった。
「どうだ! かなり忠実に俵を再現しているだろう!?」
「あははははは」
もはや、かける言葉が芳佳には見つからない。
と、そこに。
「
たまたま通りかかったペリーヌが、坂本の姿を見て
「あ、あの、何をなさっていらっしゃるんですの…………豆、もとい、宮藤さんと
と、芳佳を
分かり
「いやな、扶桑軍人たるもの、伝統
「それで特訓ですか? さすがですわ! まさに軍人の
ペリーヌの目には、
「ははは、おだてるな」
「今、多少まともなのがひとつ、完成したところだ。食うか?」
「もちろんです!
「あの〜、ペリーヌさん」
一応、忠告しようと口を
「あなたには絶対、試食役は
ペリーヌは芳佳をキッとにらむ。
しかし。
「う」
俵形、というより、俵大のおにぎりを
「ま、まさに、愛の試練、ですわ……」
「具は
ニッコリ笑い、坂本はさらに追い
「気に入ってくれたら、どんどん
「……お前の……ため?」
きゅんとなったペリーヌの
「いざ! いただきます!」
ギュッと目を閉じ、ペリーヌは決死の
結果。
「……うっぷ。ちょ、ちょっと……医務室まで」
* * *
「ひとり三十五個がノルマですよ! みなさん、残さず食べてくださいね!」
その日の夕食の席で。
芳佳はおにぎりを山のように
「ひとり……三十……五個」
三つ目で早くもお
「芳佳のおにぎり、すっごくおいしいよ!」
わざわざ、ルッキーニがリクエストして芳佳に作ってもらったものだ。
「少佐の作ったのは……
「うむむ」
苦りきった顔の坂本。
「おんなじお米を握っただけなのに、不思議と宮藤のとは味が
「カールスラント軍人として、食い物は
二十二個目を完食した時点で顔に死相が表れ始めたバルクホルンは、こぶしでテーブルをドンッと
「ええい! こういう時に限ってペリーヌは何をしている!」
「……先ほど、
「ま、あいつとしちゃあ、
愛は
「おにぎり〜、おっにぎり〜」
両手に赤いおにぎりを持ったルッキーニは、実に
「ま、まあ、今回の失敗は失敗として反省し、だ」
「次こそは、三角に握ってみせるから、みんなも期待していてくれ!」
「つ、次が……」
「あるの……か?」
(お前が止めろ!)
という、ウィッチ一同の無言の視線が、芳佳に集中する。
「うう、どうして私に〜」
芳佳だって、
「ま、美緒もまだまだ未熟、ということね」
顔色ひとつ変えずに自分のノルマを完食したミーナは、
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