第四章 第二話


(あれ?)


 小麦畑でせんこうはしるのを視界のすみとらえたのは、ルッキーニだった。


「……あの記者さん?」


 小麦畑を突っ切りながら、記者はり、大きく手をって木立の方を指し示す。


「おい! ガキどもが!」


 ルッキーニは、そちらの方向に目をやった。


「!」


 子供たちに接近する小型ネウロイの姿。


(あ、あいつら!)


 ルッキーニはどうエンジンの出力を高め、子供たちに向かって飛ぶ。


「あ、親分だ!」


 自分たちの方に向かって飛んでくるルッキーニに、子供たちは気がついた。


「親分!」


「おやぶ〜ん! がんれ〜!」


 手を振っておうえんする子供たちに、小型ネウロイが急接近する。


(これ以上近くであいつがばくはつしたら!?)


「危ない!」


 警告を発しながら、急降下するルッキーニ。

 そのルッキーニを、ちょうど背中を向ける形になったきよだいネウロイから発せられたビームがおそう。

 ビシュッ!


だん!?)


 身体からだひねると同時に、小型ネウロイを撃つルッキーニ。


「間に合ええええええっ!」


 ドガーン!

 子供たちをギリギリ巻き込まない位置で爆発するネウロイ。

 爆風にあおられたルッキーニは、そのままコントロールを失って、木立の枝の間にっ込んだ。

 ザザザザザッ!

 服が小枝に引っかかって破けたおかげで、ショックが吸収され、かろうじて立て直しに成功する。


(……だいじよう! かすっただけ!)


 ルッキーニは身体を起こしながら、自分に言い聞かせる。

 だが。


「スピードが……出ない!」


 どうやら、魔道エンジンのどこかがイカレたようだ。


(ああもう! 動きなさいよ!)


 飛行脚ストライカーかられるこくえん

 ルッキーニは高度を地表すれすれまで落とすと、こしに手を当てて子供たちをにらんだ。


「こら〜! 悪ガキども! 危ないでしょうが!」


「お、親分?」


 近くで爆発音がしたので、おどろいている子供たち。


「ほら、さっさとぼうくうごうに入んなさい! エディ、小さい子たちは、あんたが守んのよ!」


 ルッキーニは、年長の子に命じた。

 そこに、息を切らせたオーウェルがけ寄ってくる。


「ぶ、無事か!?」


「と〜ぜん!……って、この連中のこと、教えてくれてありがとね! 記者さんのお陰で、助かったよ」


 魔道エンジンがいやな音を立てているのをしながら、ルッキーニはオーウェルに言った。


「でも、死んじゃったら痛いから、記者さんも防空壕にかくれててね!」


「あ、ああ……」


 まともにルッキーニのひとみを見られないオーウェル。


「親分、あいつ、やっつけてくれるよね?」


 エディが巨大ネウロイを指さしてたずねた。


「村、守ってくれる?」


 と、妹のマーガレット。


「決まってるでしょ!」


 ルッキーニは、チャーチル流のヴィクトリー・サインを見せる。


「……あいつを落とすのは、このフランチェスカ・ルッキーニよ!」


 ルッキーニは子供たちに微笑ほほえみかけると、巨大ネウロイめがけてじようしようしていった。


「宮藤! ルッキーニをえんしろ!」


 ルッキーニの速度がいちじるしく低下したのを見て、坂本は命じた。


「はい!」


 芳佳はルッキーニに接近し、パンツの後ろの部分を引っ張って身体を支える。


「もう、芳佳! ゴムがびるでしょ!」


 暴れるルッキーニ。


「だ、だって! ルッキーニちゃん、上着ボロボロで持つとこないし!」


 確かに。

 木に突っ込んだ時にあちこち破れ、下手へたにつかむとげそうである。


「ああん! 格好悪〜い!」


「リーネ! お前は巨大ネウロイのコアをくことだけに集中しろ! 小型は残りのウィッチでたたつぶす」


 さらに命令を下す坂本。


「はい!」


 リーネは巨大ネウロイ上方がわたせる高度まで上昇し、坂本の魔眼の示した通りにボーイズMk1対そうこうライフルでコアをねらう。


きよ200。ふう。……よし!」


 呼吸を整え、引き金をしぼった次のしゆんかん

 ヒュン!

 リーネの放った一弾が、コアをおおっていた上皮組織をかすめた。


「外れ!……でも、次で!」


 もう一度狙いを定めるリーネ。

 しかし。

 ビシュッ!

 バシュッ!


「!」


 巨大ネウロイの放った二条のビームがシールドをき破り、リーネの飛行脚ストライカーとライフルに命中した。

 えてシールドのぼうぎよ力を落とし、魔道エネルギーのほとんどをげきの方に回したのが裏目に出た形である。


「右飛行脚ストライカーおよびライフルだんです!」


 高度をジワジワ落としながら、くやしそうに坂本に報告するリーネ。


は!?」


だいじようです! でも魔道エンジンと武器が……」


「分かった! お前はこのまま帰投しろ! あとはこちらで何とかする!」


「すみません、だつします!……ごめんね、みんな」


 リーネはそう告げると、黒煙を上げながら基地に向かった。


「ルッキーニ! お前が代わりにコアを狙え!」


 坂本は、芳佳にぶら下げられているルッキーニに命じる。


りようかい……って、ええ!?」


 ルッキーニはとつぴようもない声を上げた。


「無理! あたしも飛行脚ストライカーが!」


 今の状態では、だんの半分ほどしか速度が出ない。

 下手をすると失速してついらくである。


「分かっている! だが、得物は使える! 無理でも狙撃手はお前しかいないんだ! 宮藤、ルッキーニを援護しろ!」


「……うう、さらに不安」


 ルッキーニの表情が、まるでポンペイ最後の日にでも出くわしたかのようにこわる。


「……あ、あんまりだよ、ルッキーニちゃん」


 芳佳はパンツをつかんだまま、ため息をついた。


雑魚ざこどもは、あたしたちが何とかするからさ!」


 シャーリーが元気づける。


「つべこべ言わずに、おやりなさい!」


 と、わめくのはペリーヌだ。


「ペリーヌ、ついて来い!」


 坂本はビームをかわしながら、小型ネウロイ群との距離をめてじゆうだんを叩き込む。


「お下がりなさい、どもが!」


 ペリーヌは、その坂本にピッタリ寄りって天空をった。



「我々には……何もできないのか?」


 ぼうくうごうの前では、ガレットしようがウィッチたちの戦いの様子を見ながらくちびるめていた。

 小型ネウロイ編隊は、村まであと数百mのところにまでせまっている。

 だが、村には対空ほう一つないのだ。


「な〜んにも、できないっちゅ〜ことぉは〜……ないじゃろ〜の〜」


 ガレットのとなりで間延びした言葉を発したのは、老スコット少尉だ。


「そんな旧式の装備では」


 り返ったガレット少尉は、スコット老のエンフィールド銃を指さした。


「ネウロイには、傷一つつけることさえできないんですよ」


「やってみるまで〜は〜、できるかできんか〜、分からんじゃろ〜が〜」


 老スコットは前歯二本がけた口で、ニ〜ッと笑った。


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