第四章 勇気を貰って

第四章 第一話


 ミーナちゆう以下、ストライクウィッチーズのメンバーは、軍用トラックのまわりに集まっていた。

 さらにそのまわりを、村人やガレットしよう、オーウェル記者が取り囲む。


「か、かん所から報告! きよだいネウロイ四機と小型ネウロイからなる編隊が高度14000で接近中……だったんですが……」


 基地に入ったれんらくを、トラックの無線で受けた整備兵がミーナに伝える。


「要点を簡潔に報告しろ!」


 め寄る坂本。


「な、南東70kmの海上で二つに隊を分け、巨大ネウロイ三機を中心とした本隊がロンドン方面へ」


 不安そうに村民が見つめる中、整備兵は声をひそめた。


「……残りの巨大ネウロイ一機は、真っぐこちらに向かっています」


「私たちをここで足止めして、その間にロンドンをしようと化すつもりかしら」


 と、ミーナ。


やつらにそんな頭はないだろう」


 坂本がまゆをひそめて否定する。


「……だが、こちらをねらう理由が分からんな」


「八十年ほど前に閉山された、古いさいくつ場があることにはあるけど……」


 ミーナは思い出した。

 海が近いので地下水の問題で閉山されたものの、鉄鉱石のまいぞう量でいえば、確か南部ブリタニア一、二を争う規模だったともされているのだ。


「どちらにしても、ざかしい」


 今は奴らの意図をせんさくしている場合ではないと、坂本はき捨てる。


「こちらも二手に分かれましょう」


 ミーナはすぐさま判断を下した。


「ロンドンに向かったネウロイ本隊は、私とバルクホルン、ハルトマン、それにエイラとサーニャの五名でせんめつします。別働隊げいげきの指揮は、美緒、あなたにゆだねます。いいわね?」


りようかい!」


 と、ストライクウィッチーズの面々。


「残念ながら、しんぼく会は中止です。みなさんはぼうくうごうなんを」


 ミーナはガレット少尉に告げた。


「イエス、マム!」


 敬礼したガレットは、国防市民軍に指示を出し、テキパキと集まった人々をゆうどうする。

 整然と、とは言えないまでも、女性と子供を最優先に、村人たちが落ち着いて防空壕がある教会へ向かう中。


「小さな村のために、隊を二つに割るんですか?」


 と、かたをすくめてミーナを見たのは、オーウェル記者である。


鹿げているとは思いませんかね? これでロンドンに大きながいが出れば、中佐さん、あなた、司令部だけじゃなくマスコミからもついきゆうされますよ? それに、村の方だって半数の魔女で守れるかどうか……」


「この村を見捨てて全機ロンドンに向かったら、あなたはめてくださったかしら?」


 トラックに乗り込みながら、ミーナはたずねた。


「さあねえ」


 オーウェル記者は肩をすくめる。

 ドンッ!


「私たちのストライカー・ユニットのメンテは、どうなっていますの!?」


 そんな記者をき飛ばすようにして、ペリーヌはトラックの荷台に飛び乗ると、バッと着ぐるみをぎ捨てた。


「はっ! すぐに上がれます!」


 こたえる整備兵。


「では、基地にもどります!」


 と、ミーナ。


「こちらにユニットを持ってきているシャーリー、ルッキーニ、宮藤さんの三名は先行してちょうだい」


「了解!」


 トラックが発進すると同時に、ストライカー・ユニットの展示場所にけ戻る芳佳たち。


「発進!」


 三人はシートに着き、飛行脚ストライカーを身につけると大空に飛び立った。


  * * *


 ルッキーニ、芳佳、シャーリーの三機は、えんじんを組んで村の上空をせんかいしながら、残りのりようを待った。

 ほどなく。


「待たせたな!」


 坂本とペリーヌ、それにリーネが、芳佳たちのところまで上がってきた。

 ミーナが指揮する本隊が、白い飛行機雲を引きながら、きんきゆう発進でロンドンに向かう様子も見える。


「海上でむかつ。行くぞ!」


 坂本の命令で、移動を開始する芳佳たち。

 数十秒後。


「あのネウロイ……扶桑かんたいおそってきたのと、似てる」


 きよだいネウロイがにんできるはんに入ってきたのを見て、芳佳はつぶやいた。

 扶桑皇国海軍のほこる艦隊を、たった一機でかいめつさせたあのネウロイとほぼ同型だ。

 しかし……。


「どうした?」


 くちびるをキュッと一文字に結んだ芳佳をり返って、坂本は尋ねた。


「何か……いやな感じがするんです」


 芳佳はじっと、巨大ネウロイを見つめる。


「……分かった、しんちようにいくぞ! リーネとルッキーニ、シャーリーと宮藤でロッテを組め! ペリーヌは私の二番機だ!」


りようかい!」


 芳佳の直感を信じた坂本の命令のもと、展開して、それぞれの得意なきよからこうげきをかけるストライクウィッチーズ。

 対する巨大ネウロイもビームを放つが、ウィッチたちはこれをシールドで防ぐ。

 しかし。


「……おかしいよ」


 えんきよからM1919A6のねらいを定めながら、ルッキーニはむなさわぎを覚えていた。


「芳佳の言った通り。ごたえがなさ過ぎって感じ」


 いつになく、ビームの応射がうすい。

 ビーム自体の出力も、かなり低く感じられる。

 ルッキーニが別の角度から攻撃しようと、じようしようを始めたその時。


「な、何あれ!?」


 ネウロイ下方のハッチらしいものがゆっくりと開いて、そこから小型のネウロイが飛び出してきた。

 大きさは、半径3m弱。

 形は、この間のえんばん形ネウロイに近いが、小回りはそれほどかないようだ。


「散開されるとうるさいか!?」


 舌打ちする坂本。


「だが、おそい!」


 ズバッ!

 坂本はそのうちの一機に狙いをつけ、軍刀で一刀両断する。

 ところが。

 ピカッ!


「な、何だ!?」


 小型ネウロイは、白くまばゆい光を放ってばくはつした。

 すさまじい爆風にき飛ばされた坂本は、きりみ状態になりながら急降下してゆく。


「坂本さん!」


 さけぶ芳佳。


「くっ!」


 何とか体勢を立て直す坂本。

 へんさったのか、軍服のそでが真っ赤に染まっている。


「宮藤さん! 手当てを!」


 悲鳴に近い声を発するペリーヌ。


「はい!」


「気にするな!」


 苦痛に表情をゆがめた坂本は、近寄ろうとした芳佳を制した。


「こいつら、一定以上のダメージで自爆する! 近距離攻撃では爆発に巻き込まれるぞ! 遠距離から撃ち落とせ!」


「了解!」


 小型ネウロイ群から距離を取るウィッチたち。


「この、この、この!」


 遠距離射撃を得意とするルッキーニとリーネのロッテが中心となって、小型ネウロイを仕留めてゆく。

 だが、如何いかんせん、撃墜される小型ネウロイよりも、巨大ネウロイがき出し続ける小型ネウロイの方が、あつとう的に数が多い。

 そして、ウィッチーズが小型ネウロイにかまけている間に、本体の巨大ネウロイは村に近づいてゆく……。



 一方、教会のしき内に設けられた、村のぼうくうごうの中では。


「エディ〜!」


「マーガレット!」


「トム、どこなの!?」


「誰かうちのアニーを見ませんでした!?」


 なんしてベンチに座る村人たちをき分けるようにして、数人の女性がたずね回っていた。


「どうしたんですか?」


 落ち着かせようと、女性たちに声をかけるガレットしよう


「う、うちの子供たちが!」


「まだ外にいるようなんです! どうしましょう!?」


 うろたえる母親たちはうつたえた。


「国防市民軍は、子供たちのそうさくに出る!」


 ガレットは男たちをり返り、直ちに命じる。


「……どれ、あたしも協力しますかねえ」


 と、立ち上がるオーウェル記者。


「あなたも?」


 いぶかしがるガレット。


「ま、このまま穴倉にかくれていても、報道にゃならんでしょうから」


 オーウェルはカメラをかたけ、ウインクした。

 実際のところ、ビームのちよくげきを受ければ、この程度の防空壕では助かる可能性は絶無に等しい。

 気休めにしか過ぎないせつの中でもれて死ぬのを待つよりは、外で特ダネのチャンスをねらっていた方がマシだ、と考えるのが報道にたずさわる者の習性なのだ。


だいじよう、子供さんはしんけんさがしますよ」


「……では、たのみます」


 しゆんじゆんしたのち、ガレットはうなずき、記者といつしよに壕の外へ出た。


「ね〜、親分はどこ?」


 男の子に手を引かれた少女が、キョロキョロと空を見上げながら尋ねていた。


「もうすぐ見えるって」


 お兄ちゃんらしい男の子は他の子供たちを引き連れて、いしがきのそばを通り、小麦畑の中のあぜ道を、村はずれの小高いおかの方へと向かう。

 子供たちは全部で五人。

 みんな、ルッキーニたちの戦いが見たくて、こっそりと防空壕からけ出してきたのだ。


「大丈夫かな、親分? 負けてないかなあ?」


 そばかすの多い赤毛の男の子が、小走りでみんなについて行きながら、心配そうにつぶやく。


「ったり前だろ、トム!」


 妹を連れていた男の子は、トムを振り返ってグイッと親指をき出した。


「俺たちの親分は、ロマーニャ公国空軍第4航空団所属の空のファンタジスタ! ガッティーノこと、フランチェスカ・ルッキーニ少尉なんだぜ!」


「あ、あいつら!」


 空中戦のさつえいポイントを探して小麦畑の方に向かっていたオーウェル記者は、見晴らしのいいヒースの丘の方に歩いてゆく子供たちの姿を発見した。


「とっつかまえて、しりっぺたをたたいてやるか」


 つぶやき、子供たちの後を追おうとするオーウェル。

 と、その時。


「……ヤバいな」


 オーウェルは子供たちの方に、一機の小型ネウロイが接近しつつあることに気がついた。

 ちょうど、木立がかくしとなって、子供たちからはネウロイは見えない。


「おい! ガキども!」


 風とじゆうげきの音で、オーウェルの声は子供たちまで届かない。


(……待てよ)


 オーウェルはふと、考え込む。


(ネウロイに殺されたの子供たちの悲劇。……なるほど、明日の

第一面をかざるに相応ふさわしいしようげき的なネタだ)


 オーウェルの手がカメラをつかみ、レンズを子供たちとネウロイに向ける。


(インパクトは十分! 子供たちがたれる瞬間のが欲しい!)


 シャッターにかかる指。


(どうせ今から助けに走っても、間に合いっこない。それなら、この一枚の写真と記事で全ブリタニア国民の戦意をこうようさせ、一日でも早く勝利をもたらした方が、ずっと多くの人の命を守れるはずだ!)


 オーウェルは、自分に言い聞かせる。

 だが。


(……多くの人を……守る……ため?)


 オーウェルののうを、宮藤博士の言葉がふと、ぎった。


(その力を、多くの人を守るために……)


 ファインダーしに見える子供たちの姿。

 シャッターの上の指が、なまりのように重く感じられる。


(……それとも、ただ記者としての名声と、人々の賞賛を得るために?)


 小型ネウロイが子供たちに気がつき、高度を下げ始める。


「……くそったれ!」


 オーウェルの足は、勝手に子供たちに向かってけ出していた。


(止められる悲劇を止めようとするのが、人間だろうが!)


「お前ら、もどれ!」


 オーウェルはさけびながら、カメラのストロボをいた。

 バシュ!


(誰か、気がついてくれ! ストライクウィッチーズ!)


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