第三章 第二話


 そして、翌、親睦会当日。

 ストライクウィッチーズの面々は、整備班員の運転する軍用トラック二台を連ねて、村に入った。

 道沿いには木骨造り、わらき屋根の家々が立ち並ぶ。

 パン!

 パパンパン!

 かんげいに出た村の人たちは、ウィッチーズのために花火を上げる。

 トラックは、広場に入る手前で停車。

 ルッキーニや芳佳たちは、そこから歩いて親睦会の会場である広場に向かった。


「き、きんちようするよ〜」


 軍用トラックから最後に降り立った芳佳が、こわった笑顔をリーネに向ける。


「やめて〜、私の方が上がりしようなんだよ〜」


 と、せんとうでも本番に弱いリーネ。


「あなたたちはマシですわよ!」


 ペンギンの着ぐるみをまとったペリーヌは、二人をにらみつけた。


「第501統合せんとう航空団、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケちゆうです」


 むかえた村の人々の前にすっと出て、ミーナは敬礼した。

 さすがに堂々としたものだ。


「国防市民軍指導要員、ロンドン第一歩兵師団のリチャード・ガレットJr.。しようです」


 村民たちの中から、男たち数名が歩み出た。

 一番若い、軍服をまとった二十代半ばの男がまず、ミーナに敬礼を返す。

 国防市民軍は、ネウロイのしんこうに対する地域防衛として、退たいえき軍人、兵役めんじよ者などが参加する組織。

 ガレット少尉は正規軍からけんされ、訓練などの指導に当たっているとのことだった。

 次に。


「国防市民軍、指導部の……あ〜……」


 ガレットのとなりに立った軍服の老人は、敬礼の姿勢を取ったままこおりついた。


「ヘンリー・スコット少尉って名乗れや、ハンク」


 後ろの方から、誰かがささやく。

 どうやらこの老人、退役軍人らしいのだが、ちょっとばかりボケているようだ。

 ちなみに、階級は市民軍の地域指導部員として新たにあたえられたものなので、退役時の階級ではない。


「……でぇ〜あります」


 老スコット少尉は、もう一度敬礼した。

 続いて。


「トリビューン紙のオーウェルです。今回のしんぼく会の取材をさせていただきます」


 にこやかに手を差し出したのは、トレンチコートにソフトぼうという都会的なスタイルの中年男性。


「おやわらかに、記者さん」


 ミーナはニッコリと手を差し出した。


「早耳ですのね?……親睦会の話はどこから?」


「そりゃ、守秘義務ってヤツがありまして」


 記者はミーナの手をにぎり返す。


「ジョージとお呼びください、レディ」


「では、私のことはミーナと」


 ミーナはそう返しながらも、記者に対してのけいかいを強める。

 マスメディアの中には、常に軍批判の機会をねらっているやからも多いのだ。


「カメラマンもあなたが?」


 オーウェルのかたからストラップでげられたカメラを見て、ミーナはたずねた。


「記者もカメラマンも、手が足りませんでね。あなたの故郷のカールスラントにも、我が社から何名か特派員が飛んでますよ」


「危険をかえりみずに、ご立派ですわ」


 故郷のさんじようを思い出し、ミーナのがおがほんの少し、くもる。


「……しかしまあ、みんな可愛かわいい子ばかりですなあ」


 オーウェル記者はペンとメモを取り出しながら、ウィッチたちに目を向けた。


「あんな小さな子たちを戦場にり出し、かんおけに片足っ込んでるような大人が、安全な場所でかねかんじよう。……士気は下がりませんか?」


「あの子たちはこのブリタニアの危機を救うために、自ら志願して集まったゆうかんなウィッチたちです。その力を多くの人を守るために、という気持ちにいつぺんの曇りもありませんわ」


「その力を多くの人を守るために……確か、ストライカー・ユニットの開発者の一人、ドクター・ミヤフジの言葉ですな」


 記者は笑う。


「あら、よくご存じね?」


「いろいろと取材、重ねてますからねえ。例えば、ウィッチーズと、その上官であるトレヴァー・マロニー大将との不仲説なんぞも」


「あらあら、根も葉もない」


 ほんの少し、ミーナの瞳にどうようが表われる。


「これが根も葉もあるんですなあ」


 記者はぼうへりをピンとはじく。


「あのずるいので有名なマロニー大将殿どのは、ウィッチーズ投入を強く進言した前司令官ヒューゴ・ダウディング大将と反りが合わなかった。いや、ねたんでいたと言ってもいい。だから、ダウディングの遺産であるあなたたちは、マロニーから……」


「さあさあ、もういいでしょう?」


 ガレット少尉が、二人の間に割って入った。


「インタビューはあとにして、まずは楽しみましょう」


「……ええ」


 ミーナは小さく息をつくと記者に背を向けるように、ガレット少尉のうでを取った。


「あの記者を止めてくれてありがとう、少尉。広場まで、エスコートしてくださる?」


「喜んで」


 ガレット少尉はうなずいた。



 広場には、ステージや屋台がすでに設けられていた。

 前日のうちに、整備班とルッキーニたちが準備したのだ。


「は〜い、じゃあ、芳佳とリーネは屋台に行って料理にかかって! 中佐と坂本少佐はステージ裏に回ってください!」


 意外と乗り乗りで指示を出すルッキーニ。


「あ、親分だ!」


「おやぶ〜ん!」


 ルッキーニのところに、村の子供たちが駆け寄ってきた。

 いつか、基地にしのび込んできていた子供たちだ。


「親分、戦いの話してよ!」


「それよりも、ごっこやろう!」


「かくれんぼ!」


 子供たちはルッキーニを囲んでワイワイとはしゃぐ。


「親分?」


 白い目でルッキーニを見るペンギン姿のペリーヌ。


「あ、あんたたち! その呼び方はめなさいよ!」


 ルッキーニはちょっとあせったような顔になって、子供たちにくぎす。


「こっちのお姉ちゃんたちは?」


「親分の友だち?」


「もしかして、ウィッチ?」


「そ、そうでしてよ」


 キラキラした目で見上げられたペリーヌは、とうわくの表情になる。


「きれ〜、お人形さんみたい〜」


 小さな女の子の一人が息をむ。


「ま、まあ、正直な子ですこと」


 そう言いながらも、顔が真っ赤になるペリーヌ。


「このお姉ちゃんも?」


 別の子供が、芳佳を指さした。


「宮藤芳佳ぐんそうです、よろしくね」


 がおあいさつする芳佳。


「へえ〜、親分の言ってた通りだ」


 十歳ぐらいの赤毛の男の子が、そう言って鼻をいた。


「な、何が?」


「今度、東洋から来たウィッチは、ぺたんこだって」


 男の子は芳佳の胸に手をばして、ムギュッとつかむ。

 いや、つかもうとしたが、それほどボリュームがなかったので指がからりした。


「きゃっ!」


 自分の胸をかばいながら、ルッキーニを振り返る芳佳。


「ルッキーニちゃん、何教えてるんですか!?」


「だって〜、事実だし」


「ルッキーニちゃんだって、同じようなものでしょ!」


「あたしはミドルティーンになってから、成長いちじるしいタイプなの。ロマーニャの女は、みんなそう」


 著しく成長する予定?の胸を張る、ルッキーニ。


「……そんでもって、中年過ぎるとみんなデブだろ?」


 ニヤリとするエイラ。


「そこ、うるさい!」


 ルッキーニは、キッとエイラを指さした。


「皮肉なものだ」


 ステージ裏に向かいながら、そんな芳佳やルッキーニたちのやり取りを見た坂本は、ガレットとともにやって来たミーナに小さく微笑ほほえむ。


「ネウロイのしんこうのおかげで、一気に人類は国境や人種をえて、ひとつになった。やつらが現われなければ、私たちはいまだに、同じ人間同士で殺し合っていただろうな」


「そうかしら?」


 やさしく目を細めるミーナ。


「少なくとも、あの子たちには最初から、国境や人種なんか問題じゃなかった。そう思うわ」


「まったく、ミーナらしい」


 坂本はそう言うと、軍刀のつかに視線を落としてため息をつく。


「人前でけんろうするのはひさりだ……」


「上がってる?」


「……かなり。歌の上手うまいミーナがうらやましい」


「私はあなたのキンと張りめたつるぎまい、大好きよ」


 ミーナは、ガレットのうでを放した。


「ありがとう、しよう


「それでは、歌と剣舞、楽しみにしています」


 ガレットは一礼し、ステージの席の方に向かった。


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