第三章 親睦会、マンマ・ミーア!

第三章 第一話


 待機任務が解けた、のどかな午後。

 芳佳とリーネ、シャーリー、ペリーヌ、そしてルッキーニの五人は、かつそうわきすずしいかげで、のんびりとお茶の時間を過ごしていた。

 持ち寄ったのは、みんなの手作りのお

 芳佳は、くさもち

 ルッキーニは、びんめのフルーツで作ったタルト。

 リーネは、みような形のスコーン。

 シャーリーは、ややげ気味のバタークッキー。

 ペリーヌだけは手作りではなく、お取り寄せの高級マカロンである。


「けど、お前も意外と付き合い、いいよなあ。こういう集まり、きらいじゃないのか?」


 アルミ製のカップに代用コーヒーをぐシャーリーが、からかうような視線をペリーヌに向けた。


「あら、好きで参加しているわけじゃありませんわよ。ほかの隊員とのコミュニケーションをはかるのも、任務のいつかんと心得ているだけです」


 ました顔で、紅茶のカップに口をつけるペリーヌ。


「芳佳〜、お砂糖取って〜」


 みんなが白いクロスのかかったテーブルを囲むなか、一人だけ、まるでチェシャねこのように頭上の木の枝にそべっているルッキーニが、声をかける。


「は〜い」


 と、立ち上がってシュガーポットをわたす芳佳。


「ねえ、エイラとサーニャは?」


 ルッキーニは大量の砂糖をカップに流し込みながら、シャーリーにたずねた。


「エイラ、サーニャを起こしてからいつしよに来るって言ってたけど?」


「……完っ全な夜型だもんね、サーニャって」


「あの〜」


 芳佳はルッキーニを見上げた。


「時は、私の部屋の前のろうに、ホッカホカのきのこスープのパイ包みとか、ボルシチのなべとかが置いてあることがあるんですけど、それって……」


「……ちがいなく、サーニャだね」


「うん、サーニャ。あの子、意外と料理得意だし」


 シャーリーもうなずく。


「どういうことなんでしょ?」


「さ、さあ?」


 と、リーネ。


「エイラさんに聞けば、分かるかもしれないけど……」


「あのエイラが、なおに答えるわけないよなあ」


 シャーリーがニッと笑う。

 だが。


「単にけしようとしているのではないですか、オモシロまめだぬきを。しくは、ちょっぴりずつを盛って、毒殺をもくんでいるのか」


 ペリーヌがバッサリ。


「ど、毒殺! ていうか、だれが豆狸ですか、誰が!?」


 こうする芳佳。

 だが、一同はいつせいに芳佳を指さした。


「うう〜、みんなまで〜」


 芳佳はふくれっつらで、草餅をパクリとほおった。

 本当は、少しうれしい。

 ようやく、みんなと軽口をたたき合えるくらい、仲よくなれてきたのだから。

 もちろん、ミーナ隊長や坂本しよう、あこがれのWエース、ハルトマンちゆうとバルクホルン大尉も、芳佳によくしてくれている。

 それに、芳佳も最近、ウィッチーズのみんなのことがやっと分かってきたところだ。

 ミーナ隊長は、歌がすごく上手うまい。

 エーリカ・ハルトマン中尉は、見た目とちがってずぼらで、そうが苦手。

 ゲルトルート・バルクホルン大尉は、だけど、ちょっと照れ屋さん。あまり笑わないが、笑うとすごく可愛かわいい。

 サーニャ・V・リトヴャク中尉は、夜型の低血圧。

 エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉は、当たらないタロットうらないがしゆ

 おおらかでごうかいなシャーロット・E・イェーガー大尉は、バイク好きのスピードきよう。意外なことに、清潔好きのお好きだ。

 芳佳のことを豆狸と呼んだペリーヌ・クロステルマン中尉は、本当はさびしがり屋。

 親友のリネット・ビショップは大家族で、芳佳と同じく、料理が趣味。編み物やさいほうも得意だが、ちょっとばかり、ボオ〜ッとしたところがある。

 ねこっぽいフランチェスカ・ルッキーニは、基地のいたるところに自分だけのかくを作るのが趣味で、男の子のように虫取りも得意。料理の味にうるさかったりもする。

 坂本美緒少佐は……まあ、あのまんまの人である。


「それにしても……」


 ペリーヌは口に手を当てて、上品にアクビをする。


退たいくつな午後ですわね。この基地には、らくせつが少な過ぎますわ」


「言えてる」


 めずらしく同意するシャーリー。


「せめてサーキットとか、欲しいよなあ」


「……そんなおおかりなもの、どこに造るんですか?」


 リーネがため息をつく。


「そうだ! しんぼく会、やろうよ!」


 木の枝にそべっていたルッキーニはとつぜん、枝から逆さまにぶら下がって芳佳に顔を近づけた。


「っ!」


 芳佳はくさもちのどまらせそうになり、あわててお茶で流し込む。


「んぐんぐ……ぶはっ! 親睦会って……どことです?」


「ほら、この近くに小さな村があるでしょ? ごろ、あの村には買い物に行ったり、時々、牛乳とか卵とかもらったりとか、いろいろとお世話になってるじゃない? だから、親睦会を開いて友好ムードを盛り上げるのよ!」


「またまた、良からぬことをたくらんで」


 冷ややかな目を向けるペリーヌ。

 と、そこへ。


おもしろそうじゃないか?」


 坂本がミーナとともにやってきて、みんなに声をかけた。


きんりん住民の評判を高めるのは、決してなことではないしな」


「私も賛成です!」


 ペリーヌの態度が、コロッと変わる。


、基地を挙げて親睦会を開くべきですわ!」


「……おいおい」


 あきれ果てるシャーリー。


「ネウロイしゆうらいかんかくも不規則になってはきているが……、まあ、さすがに連日ということはないだろう」


 うなずいた坂本は、ミーナをり返る。


「どうかな、ミーナ?」


「いいんじゃないかしら? 村のみなさんには、いろいろとお世話になっているし」


「誰かさんなぞは、かなりめいわくもかけていらっしゃいますしねえ」


 ペリーヌはほのめかした。


「ほら、あんたのことよ、芳佳」


 ルッキーニは枝からヒョイと飛び下りると、ウインクしてひじで芳佳をく。


「うう」


 確かに、この前の飛行訓練では畑についらくして大穴を開けたし、馬小屋にっ込んだこともある。

 にわとりに突っ込んだことも、牛小屋に突っ込んだこともある。

 に落ちたことも、たいの山に……。


「人のことが言えるのかな、ルッキーニ?」


 と、坂本はからかうようにかたまゆを上げた。


「お前が村の男の子たちとけんして、全員泣かせたという話を耳にしたが?」


「あ、あれは、あっちが〜」


 ルッキーニはくちびるとがらせる。


「問答無用だ」


 これで決まり、という顔になった坂本は、芳佳の草餅を一つつまみ上げて口にほうり込んだ。


「ルッキーニ、言い出しっぺのお前には是非、親睦会のかくに頭をひねってもらい、だんつみほろぼしをしてもらおう」


「村との細かなこうしようは、私がするから安心して」


 にっこり微笑ほほえむミーナ。


「……は〜い」


 口はわざわいの元。

 めんどうくさいことは苦手なルッキーニは、ガックリとかたを落とした。



  * * *


 その夜。

 ブリーフィング・ルームに集合した少女たちは、親睦会のし物にしぼっていた。


「……じゃ、ミーナちゆうには歌を、坂本少佐にはけんろうしてもらうことに決定〜」


 ルッキーニは、黒板をバンッとたたいた。


「残念ながら、ユニットの整備やらなんやらで、バルクホルンたいとハルトマン中尉、それにサーニャは参加不可ね」


 さすがに、基地に一人もウィッチが残っていないのはまずい、ということで三名が居残りとなった。


「……」


 サーニャはねむい目をこすりながら、大いに不満そうだ。


「ほれほれ、土産みやげ、たくさん持ってきてやるから」


 エイラにかみでながらそう言われ、ようやく笑顔になるサーニャ。


「……で、何かやりたいことある人?」


 ルッキーニは一同をわたした。


「はい! 私はお料理を……」


 真っ先に手を挙げる芳佳。


なつとうは禁止! クサヤも禁止! 海苔のりも、梅干しも、ふな寿も禁止!」


 かんはつを入れずにくぎすペリーヌ。


「ペリーヌさん、好ききらい多い〜」


 芳佳は唇を尖らせる。


「みんな健康にいいのに〜」


「おだまりなさい! あなたの出す料理はどれもこれも、健康をそこなって余りある精神的ダメージをあたえるんです! 仮にもしんぼく会! 村の方々からのぞうを買うような事態を引き起こしてどうするのですか!」


「あううう」


 芳佳、立場なしである。


「……まあ、変なもん並べなきゃ、芳佳はそれでいいや。ほかにな〜んもできそうにないし」


 ルッキーニは言った。


「ううう〜」


 芳佳、さらに落ち込む。


「他には?」


「じゃ、じゃあ、私もお料理で」


 リーネも手を挙げ、芳佳を見て微笑む。


「……芳佳、リーネはお国料理の屋台、と」


 ルッキーニは黒板に書いた。


「他には〜?」


「私は」


 こほんとせきばらいをするペリーヌ。


「ランボーの詩の朗読などを」


「……きやつ


「! どうしてですの!?」


「だって、そんなの退たいくつじゃん」


「まったく! これだから教養のない人は!」


「ペリーヌは、着ぐるみで風船配りね。決定」


 ルッキーニは勝手に決める。


「そんな! 断固きよいたしま……」


「そう言えば、坂本少佐って、着ぐるみの似合う子が好きだって言ってたのよねえ〜」


 と、ルッキーニ。

 無論、おおうそだ。


「ほ、他にやる人がいないのなら。他ならぬ、親善のためですから」


 ペリーヌ、あっさりと引っかかり過ぎである。


「んで、シャーリーは?」


 ルッキーニは、シャーリーの顔を見た。


「あたしは……そうだ、ストライカー・ユニットの展示とかするんだろ? それの解説」


「い、意外と地味なところをいてきましたわね?」


 眉をひそめるペリーヌ。


「だって、楽そうだもん」


 シャーリーはニッと笑った。


「あとは……エイラ?」


 ルッキーニは、タロットカードを並べていたエイラにたずねる。


「私は……秘密だね。う、ご期待ってことで」


 不気味か、不敵か、みよう〜なみをたたえるエイラ。


「親睦会当日のみんなの運勢は……聞きたい?」


 全員が首を横にった。

 エイラのタロットうらないが、かなりの確率で逆方向に当たることを、一同は経験則から知っているのだ。


「じゃあ、今日はこれで解散ね」


 ルッキーニは宣言した。


「みんな、気合入れてね!」



「私、材料の仕込みとか、しなくっちゃ!」


 自室に向かいながら、リーネはめずらしく張り切った様子を見せた。


「私も! がんろうね、リーネちゃん!」


 芳佳がリーネの手をにぎる。


「うん!」


 二人は顔を見合わせ、ニッコリと笑った。



  * * *


「……あらあら、ここにいたの?」


 親睦会準備三日目。

 ミーナはウィッチーズ基地内のそこここに作られた秘密基地のひとつ、樹の上に作られた小屋で、ひるをしているルッキーニの姿を発見した。

 たたみかんさんして一じようほどの空間に並ぶのは、ねこのポスター、可愛かわいい木製の小物入れ、きゆうに複葉機の模型、コミック雑誌にクッキー……。

 じやのない寝顔を見せるルッキーニの上着はめくれ上がり、みずみずしい白いおしりが見えている。


「待機中なのに、仕方ない子ね」


 ルッキーニの姿が見えないとわめいて、さがし回っているのは、ペリーヌである。


「宮藤さん! てつてい的に捜して! ひとつ、秘密基地を見つけたら、その三十倍は基地があると思いなさい!」


 遠くで聞こえるペリーヌの声。


「ルッキーニ……」


 ミーナは起こそうと思ったが、微笑ほほえんでめた。


「……頑張っているものね、親睦会の準備。あんなにめんどうくさがっていたのに」


 やさしいあいに満ちたそのひとみは、まるで母親だ。


「でも、そんなあなたの姿に、私たちは救われることもあるのよ」


 そっと毛布をかけてやり、ミーナは秘密基地のとびらを閉めた。


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